北尾吉孝・考える力は「主体的に学ぶ」ことで高まる!
2014年02月03日 公開 2023年01月11日 更新
《『THE21』2014年2月号[総力特集]考える技術 より》
さまざまなシーンをシミュレートしておく
創業時からのSBIグループのトップとして、日本のネット金融界を牽引してきた北尾吉孝氏。前例のない市場を開拓した類い稀なる先見性の根源が中国古典にあることはよく知られる。
しかし、温故知新だけではビジネスはできない。先人の教えに囚われず、自ら答えを導き出せる人になるには、さらなる段階が必要だ。自分で考えるために不可欠なこととは何か。まずは、その第一歩となる、基本的な習慣を教えていただいた。<取材構成:西澤まどか/写真撮影:稲垣徳文>
「それは、『自分ならどうするか?』をつねに思い続けることです。たとえばテレビドラマを観ているとき。自分が登場人物なら、今、どう行動するか? また、上司の営業に同行したら、『自分ならどう話すか』と、上司の術を盗みつつ、つねに自分に置き換えて考えることを習慣づける。さまざまな局面で、『自分なら』を思うことが、考える練習になるのです」
人が経験できることにはかぎりがあるが、さまざまなシーンをシミュレートしておくことで、現実に身に降りかかった際の予行演習にもなる。また、つねに考え続ける習慣が、ひらめきや柔軟な発想の素地を築く。
そして、考え方の土台となる“思考の三原則”を身につけることが、ビジネスマンには求められる。
「古今の知識に優れ、昭和の歴代総理の指南役、また財界の師と仰がれた安岡正篤氏は、考え方の基本を、『大局的に物事をとらえ、多面的な視野を持ち、中長期的に考える』ことだと述べています。この考え方をすれば、物事の変化する部分と変化しない部分、本質を見極められます。
たとえば、昔は情報を運ぶのは飛脚の役割でした。それが、自動車へ、飛行機へと発展します。現代ではインターネットです。このようにツールは変わっても、「情報を運ぶ」ということは変わりません。
ネットオークションも同様です。昔から物々交換のための市場はありました。インターネットが時空を拡大させただけです。
人間も同様です。今も昔も人間はそんなに変わっていません。このことを知ると、新たなビジネスのヒントになります」
変わらないことが見えてくる一方で、変わることも見えてくる。複数の視点で物事を考えることは、凝り固まった発想に風穴を開けることにもなる。
「過去に正しかったことが、未来でも正しいでしょうか? ウィンストン・チャーチルは、『過去にこだわる者は未来を失う』と言っています。
私の実家は、大阪で創刊時から朝日新聞を独占販売し、60年間は大きく利益を上げていました。しかし、ついに他の事業へ転換しました。今は、新聞を読まず、インターネットでビッグニュースだけを拾う時代です。時代が変われば環境が変わります。ビジネスは時代の潮流に乗らなければなりません。同じことを続けるのではなく、変化することも必要です。新聞販売店の例で言えば、顧客に新聞と一緒に別の商品を宅配することで売上げを得ることもできるかもしれません。
時代が変われば、非常識が常識に、不可能が可能に変わることがあります。時代に合わせて、柔軟に考えることが必要です」
考えることは学ぶこととセットで
思考の三原則を身につけて、考える土台を築くとともに、相応の知識も必要だ。自分で考えて導き出した答えが、必ずしも正しいとはかぎらないからだ。
「『論語』に『学んで思わざれば則ち罔(くら)し。思うて学ばざれば則ち殆(あやう)し』という言葉があります。書物などに学んでも、自分で考えなければ身につかない。また、自分で考えても、自分の考えを検証しないと、正しい考えに達しない、ということです。“学ぶ”ことと“考える”ことは、つねにセットなのです。
自分の浅はかな思慮だけで十分などと考えないで、書物に学び、他人の意見を聞くことが欠かせません。自分の意見に反対する人がいれば、なぜそう思うのか、よく聞いてください。他人の意見を聞くことは、他人の視点でものを考えるきっかけになります。他人の意見を聞かなければ、視野が広がりません。
多くの違った意見を聞いて、そのうえで、自分はどう考えるのか。これが、ほんとうに「自分で考える」ということではないでしょうか」