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一貫教育と文理融合で世界基準の人材を輩出する~松前義昭・東海大学理事長

高井昌史の教育改革対談

2018年05月29日 公開 2024年12月16日 更新

スケールメリットを活かした東海大学の人材育成戦略

一貫教育を掲げる学校法人は数多いが、全国14の付属高校を筆頭に幼稚園から大学院まで、これほど大きなスケールで教育理念を浸透させている東海大学のようなケースは珍しい。戦争で疲弊した国を教育で再興したデンマークを範に、教育を基盤として平和国家日本を築くことを決意した創立者・松前重義氏の思いは今、世界基準の人材を多数育成すべく総合学園経営に邁進する理事長・松前義昭氏に受け継がれている。本誌連載「教育改革対談」でホスト役を務める紀伊國屋書店・高井昌史社長に、その要諦を聞いていただいた。


 

松前義昭(学校法人東海大学理事長、写真左)
まつまえ・よしあき*1956年東京都生まれ。1978年東海大学工学部応用物理学科卒業。工学博士。1978年日本電気株式会社入社。1987年東海大学入職、2000年教授。東海大学情報技術センター所長、九州東海大学学長、東海大学副学長、学校法人東海大学副理事長を経て、2014年学校法人東海大学理事長就任。2012年より学校法人東海大学副総長を兼任。専門分野は半導体工学、リモートセンシング。

高井昌史(紀伊國屋書店会長兼社長、写真右)
たかい・まさし*1947年東京都生まれ。成蹊大学法学部政治学科卒業。1971年株式会社紀伊國屋書店に入社。1993年取締役。1999年常務取締役、2004年専務取締役、2006年副社長を経て、2008年代表取締役社長に就任。ʼ15年より会長を兼務。著書・編書に『本の力』『日本人が忘れてはいけないこと 国の礎は教育にあり』(ともにPHP研究所)がある。

取材・構成:江森  孝
写真撮影:長谷川博一

※本記事は、マネジメント誌「衆知」掲載《一貫教育と文理融合で世界基準の人材を輩出する》より、一部を抜粋編集したものです。
 

生きがいを感じる職場づくりを

高井 少子化が進む日本では、高校入学志願者も減る傾向にありますが、貴校の付属高校の多くは逆に志願者が増えているそうですね。それはやはり国際化を進めていることが影響しているのでしょうか。

松前 それもあるかもしれませんが、私がかつて取り組んだ教育改革の成果でもあると思います。私が付属校の教育現場を視察して感じたのは、若い先生が中心となって活躍する場が少ないということでした。

ベテランの先生だけが昔からのやり方で現場を仕切っているのはどうもよくないと感じたので、先生たちと相談して、若くてしかも体力とガッツがある先生に少しずつバトンタッチさせていきました。

その改革を始めたら、それまで校舎を建て替えても減っていた志願者が増え始め、最近は3年連続で定員を満たしています。

高井 それはすごいですね。

松前 高校教員の場合、面倒見がいいことが一番大事なのです。当校の付属校でも、かつては他の高校並みに退学者が出ていましたが、それをゼロにする運動をした結果、今はほとんどいません。家庭の事情は別として、本人ときちんと話し合って卒業させるという試みは、やはり体力のある若い人にしかできません。体育会出身の先生は、たいてい面倒見がいいですよね。当校は体育会出身の先生が多すぎると言われることもありますが、その先生方の力を借りて、部活動での雰囲気を教室でもつくろうとしています。

高井 皆さんご存じのように、貴校の運動部は、野球や柔道はもちろん、ラグビーやサッカーも強いですよね。文武両道という伝統に面倒見のよさが加われば、よりよい人材を育成できるでしょう。

松前 ええ。ただ、もちろんスポーツだけでは文武両道になりません。当校の場合、内部進学による一貫教育というのが基本的な考えですから、高校のカリキュラムと大学のカリキュラムを連動させようと、懸命に取り組んでいます。そうした学業面での改革に加えて、吹奏楽部を筆頭に文化系クラブの活動の強化にも力を入れているところです。

高井 文化というと、ご存じのように紀伊國屋書店東海大学ブックセンター主催の「伝えたい私の一冊」という読書エッセイコンクールをもう20年続けていて、貴校の文学部教授(現在客員教授)で芥川賞作家の辻原登先生に審査委員長をお願いしています。このコンクールは、スポーツだけでなく文芸創作も、という意気込みで始め、学生の間で定着したように思います。また、作家の夢枕獏さんや、私の好きな落語家の春風亭昇太さんなど、活躍なさっているOB、OGは多いですね。

松前 ええ。文芸、評論、映画界等で活躍する方が教員となっている文芸創作学科は、来年度、現在の文学部から新設の文化社会学部に移します。明治以降の作家や小説家は、その時代に反発して新しいものをつくり出してきました。今回の改編は、創作活動をするには文学部の外のほうがいいのではないかという発想からです。

高井 東海大学は、あらゆる研究、教育の場が揃う総合大学であり、日本の私学の中で世界基準に一番近いと思いますし、将来、世界でトップ100に入れる学校だと思います。素地はもう十分に整っていますから、今後は若く優秀な研究者を育成し、国際的に注目される論文の発表に力を入れてください。もちろんメディアを通した発信力も重要になりますね。

松前 発信に関しては、記者会見はできるだけ当事者が担当することにしています。要は、大学を売るのではなく、こういう研究や活動をしている人物がいて、その人物が注目されて、ではどこにいるのかというと東海大学だと。つまり、ここにいるからこそ、こういう活動ができ、業績を残せるのだという大学にしていきたいと考えています。

また2017年、当校は建学75周年を迎えましたが、様々な試みがうまくいくよう、建学百周年を見据えた総合戦略である「学園マスタープラン」を策定し、学園の理念と共通の価値、取るべき行動の指針を明示しました。全体の環境を整えるとともに、幼稚園から大学院までの教員、事務・医療スタッフなど多岐にわたる教職員の全員が、やりがいや生きがいを感じられる職場を提供していきたいと思います。ひいてはそれが世界に通用する人材を育てることにつながるはずです。

高井 建学100周年に向けて、これからの25年で、貴校が世界基準の中で勝負できる大学になることを期待しております。本日はありがとうございました。

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