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自由で自主的な「実践知」を備えた人材を育てる~田中優子・法政大学総長

マネジメント誌「衆知」

2018年05月07日 公開 2023年10月04日 更新


 

田中優子(法政大学総長)
たなか・ゆうこ*1952年神奈川県生まれ。1980年法政大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得満期退学。1991年同大学第一教養部教授。2012年同大学社会学部長。’14年同大学総長に就任、現在に至る。主な著書に『江戸の想像力』(筑摩書房刊)、『江戸百夢』(朝日新聞社刊)『自由という広場』(法政大学出版局刊)ほか多数。

2017年の大学入試志願者数において、首都圏の大学でトップ、全国でも2位となった法政大学。その躍進を支えているのが、東京六大学初の女性総長に就任した田中優子氏だ。田中総長は、法政のよき伝統を守りつつも、改革を実践するための長期的なビジョンである「HOSEI2030」を策定し、その実現に邁進している。そこで、田中総長が目指している、自由と自主性を備えた学生を育成するための様々な取り組みについてうかがった。

取材・構成:平出 浩
写真撮影:長谷川博一
 

AIにはできない能力を身につけさせる

ある自動車メーカーのトップの方に「10年後には、新卒の一括採用をなくします」と言われたことがあります。かつては同じような能力を持った人たちを一気に採る方法が有効だったかもしれませんが、これからは必要な時に、必要な人を採用したほうがよい、ということでした。確かにグローバル化がますます進むと、4月に採用することの意味も薄れるでしょう。

それから、今後はAI(人工知能)が社会にいっそう進出してきます。となると、企業はAIにはできない能力を持った人を求めるようになってきます。実際、多くの企業はすでに「AIで代替できる能力しか持たない人は要らない」と明言しています。

AIに代替できない能力とは何か、大学も考えていかなくてはいけません。ただ、今、明らかにいえるのは、AIを管理する能力は必要だということです。そうであるなら、文系の学生であっても、少なくともAIの基礎については知る必要があります。

その上で、人間としての思考力、判断力、決断力が求められる。それは若手であっても同じです。決断したことについては、責任を負いますから、その責任に耐えられるだけの精神力も求められるでしょう。

コンピューター化がますます進み、AIが浸透していくと、今までは役員や上司といった上長が行なってきたことを、今後は新入社員がしなくてはいけなくなることも起こりえます。現代は能力の質的転換が急速、かつ大幅に起きている時期といえるのです。

社会が大きく変わる中、大学も変わる必要があると、痛感しています。例えば、大学は今後、「競争の時代」から「協力の時代」に移るべきであると考えていて、その一環として、当校は明治大学および関西大学と協定を結びました。

この3校はルーツがいずれも法律学校で、設立時に「日本近代法の父」といわれるボアソナードの影響を受けています。今後は例えば、法政の学生が明治や関西の科目の単位を取得できるようにするなど、互いの大学の教員や学生の交流を活発にしていきます。

社会人教育も充実させていきたいですね。今は大学を卒業したら勉強しなくてすむ時代ではなく、生涯学習・生涯教育が求められています。とはいえ、社会人が大学に通うのは簡単ではないので、オンデマンドのコンテンツを充実させて、法政の学部や大学院で学びたい国内外の人たちに応えていきたいと思います。

ほかにも、法学と生命工学など、学部で2つの学位を取得できる「ダブルディグリー」のプログラムなどを検討しています。

守るべきところは守り、改めるべきところは改める。そうして法政大学は進歩し続けていきたい。そして、自由で自主的で、実践知を備えた人を社会に送り出していきたいと考えています。
 

※本記事は、マネジメント誌「衆知」2018年13-1月号特集《若い力を育てる》より、一部を抜粋編集したものです。

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