「改革は自分が退職金をもらってからに…」と願う人たちの正体
2019年03月26日 公開 2022年07月08日 更新
<<作家の橘玲氏は「日本人の働き方とグローバルスタンダードは根本的に違う」と指摘しつつ、自民党政権下の旗振りの下での「働き方改革」を実現したとしても、世界の企業との間には大きな差があると語る。
橘氏は、今後世界の潮流に飲み込まれていく日本人が、組織や人間関係の煩わしさから離れ、「仕事の腕」を磨いて“食っていく"ためのヒントを近著『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』で記している。
ここでは同書より、組織にしがみつき逃げ切りをはかりたい人たちが口を閉ざす理由を著した一節を紹介する。>>
※本稿は橘玲著『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』(PHP研究所刊)より一部抜粋・編集したものです。
「安心」を手にいれるために「理不尽」を受け入れてきた日本人
日本では保守派の論壇が年功序列・終身雇用を「日本の伝統」と称し、日本人を幸福にしてきたとして、「日本型雇用を破壊する」TPPを「アメリカ(グローバリスト)の陰謀」と罵倒してきました。
――奇妙なことに、トランプはTPPを「アメリカにとってなにひとついいことがない」として大統領就任早々に脱退してしまいましたが。
これは経済史の常識ですが、明治はもちろん戦前ですら年功序列や終身雇用の働き方はほとんどありませんでした。
「日本型雇用」が広がったのは1960年代の高度経済成長期以降で、あらゆる職種で人手不足が起きるなか、働き手を確保したい経営者と、生活を安定させたい労働者の利害が一致して、年齢=生活コストが上がるにつれて給料が増え、定年まで働ける仕組みができあがりました。
その代わり若いときの給料は低く抑えられ、退職金を受け取ってはじめてトータルの収入で帳尻が合うようになっています。これだと途中で解雇されるような不祥事を起こしたら大損害ですから、長期にわたって従業員を勤勉に働かせることができます。
終身雇用の代償として会社が求めたのは使いやすい社員です。その結果、ホワイトカラーの正社員はゼネラリスト(なんでも屋)としてさまざまな部署を経験し、どの部署や支店に異動・転勤を命じられても断ることができません。
こうした働き方をするためには専業主婦の妻が必要で、OL(オフィスレディ)と呼ばれた女子社員は30歳までに社内で結婚相手を探して「寿退社」するのが当然とされていました。
サラリーマンやその妻は、「安心」を手に入れるために、こうした理不尽な制度をよろこんで受け入れたのです。
経営者にとっても、従来の日本的雇用慣行はとても都合のよい仕組みです。欧米企業の経営者はマネジメントのスペシャリストですが、日本企業では「サラリーマンすごろくの上がり」として、経営の専門性などなくても「いいひとだから」などの理由で社長にしてもらえます。