NHKの報道記者は、いかにして「捜査の秘密」を聞き出すのか?
2021年01月26日 公開 2022年10月20日 更新
かつて「週刊こどもニュース」の二代目の「お父さん役」として人気を博し、現在「ひるおび!」などに出演している鎌田靖氏は、NHK時代長く報道記者を務めていた。
検察を担当するときに、質問のほとんどは「本来、漏らしてはいけない捜査の秘密を教えろ」ということ。鎌田氏はいかにして捜査の秘密を聞き出したのか?NHK時代に磨いた「質問力」の一端を披露する。
※本稿は、鎌田靖著『最高の質問力』(PHP新書)の内容を一部抜粋・編集したものです。
明日必ず動くという感触があった
質問をする前には、そのテーマに関連する知識を仕入れておかなくてはなりませんが、多くの場合、相手はその分野の経験も知識も豊富ですから、どんなに努力しても相手の知識量には及びません。では、どうするか。
知識量を補うのは「気迫」です。「熱心さ」といってもいいでしょう。相手はそれを見ます。「勉強してきているか」「知識があるかどうか」に加えて、どれだけ本当に聞きたいと思っているのかという「熱量」「やる気」「情熱」を必ず見ます。
私がNHKの報道記者として、検察を担当しているときにこんなことがありました。ある国会議員が受託収賄の疑いで逮捕されました。ロッキード事件以来一六年ぶりの政治家逮捕ということで当時注目された事件です。
各社久しぶりに大がかりな取材体制で臨み、焦点はいつ逮捕されるのかに絞られました。
政治家が逮捕されたとき、当時は検察首脳会議が開かれていました。検察のトップ検事総長以下検察幹部が集まって検察全体の意思を確認するためです。この会議がいつ開かれるのかも焦点でした。会議を経たあと捜査が大きく動くからです。
私はある検察幹部をずっと取材していました。他の新聞放送各社も同様で、連日幹部が住む官舎に集まっては、いつ会議を開いて、いつ政治家を逮捕するのか聞き出そうとします。
当然といえば当然なのですが、捜査の秘密を簡単に漏らすわけがありません。誰かが聞いても、その幹部は「そんなこと言えるわけないじゃないか」と拒絶します。
ただその夜、私には、明日必ず動きがあるという感触がありました。そこで各社がいる間は、質問をせず、夜回りが終わって各社の記者が辞した後、再び一人で引き返しました。いつもはそんなことはしないので、玄関先にいた幹部は、「どうした?」と怪訝そうに尋ねました。