ゴッホのヒマワリ、シャネルのツバキ、宇野千代のサクラ…など、その人の代名詞と呼ばれる花が存在します。
また、芸術家や偉人が残した名言の中にも、花から着想を得たエピソードや、その時の心情や経験を花に例えた表現がたびたび登場します。
世界中で活躍したクリエイターたちが、花から受け取った"ことば"を、聖樹・巨樹研究家の杉原梨江子氏が偉人エピソードと共にご紹介します。
※本稿は、杉原梨江子著『偉人の花言葉』(説話社)より、一部抜粋・編集したものです。
あなたは、あなたのまま
「バラと呼んでいる花を、別の名前にしてみても、美しい香りはそのままです」
シェイクスピア(劇作家、1564-1616)/『ロミオとジュリエット』より
「おお、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの?」というジュリエットの台詞のあと、「名前って、何?」と問いかけ、自分でこう答えました。戯曲『ロミオとジュリエット』第二幕、対立する家に生まれた2人が愛を確かめ合う、バルコニーでの場面です。
バラはどんな名前で呼んでも甘く香るように、家柄は人間の本質に関係がない。「呼び名はなくても、あなたはあなたのまま」とロミオという名前を捨てて、私を受け取ってと語りかけました。
物語が書かれたのは約400年前のことですが、この言葉は現代にも通じます。肩書や地位に惑わされることなく、その人自身を見つめること。何よりも他人が自分に貼ったレッテルに左右されないで、誇りをもって生きる人間であろうと励ます言葉です。
シェイクスピアは登場人物の性格や感情を表現するため、象徴的にさまざまな種類の花を使っています。最も多いのがバラ。古代から「愛と美」を象徴するバラは彼が生きた時代も"花の女王"でした。
豊かに香るイングリッシュ・ローズを花束に。アプリコット色のバラ「ジュリエット」、ローズピンクの大輪のバラ「ウィリアム・シェイクスピア」などを。
◎バラの花言葉「本質」
誇り高くという願いを込めて、香りあふれるバラの花束を大切な人に。
美を見つける喜びを知る
「花の一つ一つが、自然が芸術家に語りかける愛の言葉です」
オーギュスト・ロダン(彫刻家、1840-1917)
ブロンズ像「考える人」で知られるロダンのインタビュー集『芸術』の一文です。「芸術家は花と対話する」と語り、この言葉に続きます。
ぼんやり眺めるだけでは平凡な花にしか映りませんが、「心としっかりつながった目」でよく見ると、「花はまるで友だちのように話しかけてきます」。
茎の美しい曲線、花びらの今にも歌い出しそうな色彩、小さな芽でさえ、「万物の奥深くに隠された、果てしない力の秘密を語るのです」。
花と友だちのように語り合う感性をもっていたいと夢がふくらむ言葉です。ロダンは世間の人々にこう語りかけています。
「心でよく見て、美を見つける"目"をもっていると、自分の仕事を楽しむことができ、この世は幸福になります。何よりも、あなたが苦しんでいるとき、親しい人に裏切られたときでも、運命の裁きに感激のまなざしを見出し、自分の心が豊かになる経験だとありがたく思うことができます」。
身に起こるすべてのことから"美"を見つける喜びを教えてくれるロダンです。
花の名前を限定されない一文は万能の贈る言葉です。あなたが今、いちばん美しいと感じる花を手にして、ロダンからのメッセージを大切な人に届けてください。
◎花言葉「心で見る目」
家族や友人に、アーティストに。「ロダン」という名前のピンク色のバラも素敵。