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中村天風の“人物像”とは? 東条英機を激怒させ、門弟にこぼした一言

池田光(経営コンサルタント)

2023年08月09日 公開 2024年12月16日 更新

経営者や一流アスリートをはじめ、メジャーで活躍中の大谷翔平選手にも影響を与えている中村天風だが、一体どのような人物だったのか。本稿では天風会第4代会長・杉山彦一氏に師事し、40有余年にわたって天風研究に取り組んできた池田光氏が、天風の人物像がよくわかる3つの逸話を紹介する。

※本稿は、池田光著『キーワードでわかる! 中村天風事典』(PHP文庫)を一部抜粋・編集したものです。

 

磐城炭鉱のストライキ収拾(42歳)

――坑夫たちのストライキを、真心と信念をもって解決する。

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<天風の言葉>
俺は今、この人間たちの気の毒な状態を救いに来たんだ。喧嘩しに来たんじゃない。救いに来るという気持ちは真心なんだ。(中略)その人間に弾が当たってたまるか。(『成功の実現』)
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磐城炭鉱のストライキを収めたという逸話がある。いつごろの話か。天風が上海から帰国したのが1913年8月。その後、実業界に転身。帰国から6年後に心身統一法の宣布をおこなう。その前年(1918年)の春のことだ。

福島県の磐城炭鉱(常磐炭鉱の前身)でストライキが起こった。坑夫たちは筵(むしろ)を旗にして立てこもる。農民一揆では、旗の代用に筵を用いたが、この発想に連なるものであろう。経営者側の焦りは募り、解決を頭山満に委ねた。

経営者は、浅野総一郎。資本金として、浅野が約26%、渋沢栄一が15%を出資し、この二人で全体の40%を超える。天風は、「炭坑主は浅野総一郎、金は根津嘉一郎が出した」(『成功の実現』)と語っているが、根津嘉一郎は出資していない。勘違いであろう。

恩師の頭山から、「磐城炭鉱が騒ぎよる。おぬし行って鎮めてくれ」と依頼された天風は、その足で現地に向かう。炭坑の入り口には橋がかかり、足を踏み入れたとたん、向こうの端から坑夫が鉄砲を撃つ。威嚇射撃である。かまわずに天風は橋を進む。外套の腰のあたりをブスッと弾が貫いた。意に介さずに突き進んだときの心境が、上の天風の言葉である。

正義のために信念をもって行動する人間に弾は当たらない、という確信があった。大局から事態を読んでいたのだろう。当たらないということが自明のことだったにちがいない。

橋を渡り切ると、坑夫たちに、「そこに積んである貯炭を売っちまえ」と指示して、ストライキを収める。この解決策に不満を持った経営者側は、背任罪で天風を訴えた。「こちらに任せると言った以上は、天風が何をしようと勝手じゃ」という頭山の一言で、訴えは取り下げられた。

 

虎の檻に入る(42歳)

――馴らし中の虎の檻に入った天風。その写真が新聞に掲載される。

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<天風の言葉>
頭山先生がニッコリ笑ってね、「勢いのあるやっちゃなあ。天風、いっちょう入ってみるか」と、こう言ったんであります。(中略)それでスーッと私、なかへ入っちゃったんだ。二重になってるんです、虎の檻っていうのはね。(『盛大な人生』)
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天風が虎の檻に入ったという逸話がある。これも磐城炭鉱のストライキ収拾の逸話と同じく、1918(大正7)年の話だ。

イタリアからコーンという猛獣使いが来日した。有楽町で猛獣のショーを開催するためであった。コーンはかねて頭山満のうわさを聞いており、イタリア大使館を通して面談を求めてきた。天風ら三人の者が頭山にしたがった。

コーンは頭山に会うと、「猛獣の檻に入っても、あなたにはけっして猛獣は襲いかかりません」と挨拶がてら言った。猛獣使いは人の目を見て、その人の心が定まっているかどうかを判断するという。

さらに天風を見て、「この方も大丈夫だ」とつけ加えた。コーンに案内された楽屋で、檻のなかから虎が三頭、低い唸り声を上げた。まだ馴らしている途上だと言う。頭山は、「勢いのあるやつじゃ。天風、いっちょう入ってみるか」と促した。

天風が虎の檻に近寄ると、コーンは二重扉を順に開けた。虎は、天風の周りに寄ると、二頭がうずくまり、一頭が後ろにいた。新聞記者がフラッシュをたいて写真を撮ると、虎が牙を剥く。

このときの写真が新聞に掲載されたという。天風は、猛獣がなつくのは「霊的作用の感化」で、「すべての雰囲気をスーッと同じ状態にしちまう」(『盛大な人生』)からだと語っている。

門人の中村至道は、天風が猛犬を飼った逸話を紹介している。ある親睦会で赤坂の待合茶屋にいたところ、裏庭で犬(秋田犬)のうめく声がする。

数日前、おかみの愛犬が何者かにこん棒で殴られた。以来、狂犬のようになり、犬を殺処分するという。天風が痛められたところに手を当てると、犬は穏やかになった。そこへ警察と獣医が駆けつけたが、天風は追い返して飼い犬にしたという。これなども深いレベルで犬との交流がおこなわれたのであろう。

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