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「自己紹介が上手な人」ほど、人生で成功する確率が高いと言える理由

大澤正彦(日本大学文理学部准教授)

2024年07月18日 公開

自己紹介は、単なる挨拶だと思いがち。しかし、相手にどうやって自分自身を知ってもらうか、突き詰めて考えていくことで自己理解が深まっていきます。自分のやりたいこと、好きなことが、自己紹介で言語化できるようになっていくのです。本稿では、日本大学文理学部准教授の大澤正彦氏による書籍『じぶんの話をしよう』より、自己紹介の重要性についてご紹介します。

※本稿は大澤正彦著『じぶんの話をしよう。 成功を引き寄せる自己紹介の教科書』(PHP研究所)より一部抜粋・編集したものです。

 

「まずは軽く自己紹介しようか」が白熱

自己紹介のおもしろさに初めて触れたのは、私が当時代表を務めていた「全脳アーキテクチャ若手の会」で合宿を行なったときのこと。全脳アーキテクチャ若手の会は当初、人工知能に興味がある人たちの情報共有の場として、私が慶應義塾大学の学部生のときに立ち上げたコミュニティです。

合宿所に着いて、「まずは軽く自己紹介しようか」と1人ずつ自己紹介を始めました。参加者は全員で10人ほど。そのときは1人1分くらいで、さっと1周して終わるつもりでした。

ところが、いざ始まってみると、1人の自己紹介が30分、1時間を超えても続きます。参加者全員が一通り自己紹介を終えたときには、すっかり夜が明けて、合宿自体が終わりに近づいていました。自己紹介だけで合宿が終わる―。そんな経験は初めてでした。

でも、終わってみると、不思議なことに、時間を無駄にしたような後悔や、「この合宿は何だったのだろう」といった違和感はありませんでした。むしろ、ポジティブなエネルギーが増したような爽快感がありました。「こういうのがいい合宿なのかも」と誰もが口々に言うのです。

 

意外と自分のことが分かっていない

ふり返ってみると、誰かが自分のことを話すたびに、「なぜその研究をやりたいと思ったのか」「その研究の将来性は何か」といった質問が止まりませんでした。それだけお互いへの興味が尽きず、やり取りが白熱したのです。仲間からの質問にうまく答えられずに、悔し涙を流す人も。

確かに、自分の夢や実現したいことを普段から考えていないと、なかなか答えられない質問ばかりでした。たった1分程度のつもりだったのに、いざ「自分のこと」を話そうとすると、全然わかっていない。

質問されて、まだまだ深掘りの余地があったことに気づいたり、逆に質問にスラスラと答えられる部分は既に深掘りできていることに気づいたり。なんとか自分のことを伝えよう、理解してもらおうと必死に言葉を探すうちに、これまで言語化できていなかった部分を言語化することができて、朝を迎えるころにはみんなスッキリとした表情になっていました。

そしてこの合宿のあと、参加者にいろんな変化が起き始めたのです。自分で落ちこぼれのレッテルを貼っていたような人でも、自分のやりたいことが言語化されると意思決定が明確になり、どんどん前に進み始めたのです。

すると、噂を聞きつけた他の会のメンバーから、「我々も自己紹介を通じて成長したい。ぜひ合宿を一緒にやらせてほしい」とリクエストがありました。こうして自己紹介するだけの合宿が何度も開催されるようになったのです。

 

手に入れたいチャンスを引き寄せる

自己紹介を練習したことで、目の前のチャンスを逃さず成長を遂げた人を、私はこれまでたくさん見てきました。全脳アーキテクチャ若手の会のメンバーの例ですが、当時大学生だったAさんのことは、印象的だったのでよく覚えています。

サークルにのめり込んで二留したAさんは、全脳アーキテクチャ若手の会に加入した当初、自己紹介がうまくできませんでした。それがよほど悔しかったのか、研修が終わってから後日、「もう一度チャレンジさせてください」と食い下がってきました。

その後、Aさんは自己紹介を猛練習します。自己紹介が上手くなるにしたがって、目の前のチャンスを活かせるようになり、自分の人生を前に進めていきました。彼は在学中に海外の大学に留学し、帰国後は超有名大企業に就職が決まり、新入社員代表で社長に挨拶をする役割を任されるほど大活躍しています。

自己紹介を練習すると、なぜ成果を出せるようになるのでしょうか。それは、自己紹介を練習すると、明確な目的を持って自分のことを話せるようになるからです。

私が思う良い自己紹介には、必ず「目的」があります。人生で叶えたい夢や目指す未来に対して、その場のチャンスを最大限に活かすために行なうのが自己紹介だと思っています。

例えばコミュニティに参加しているなら、「このコミュニティに参加して何を得たいのか」「どんな人とつながりたいのか」、そうした目的を持って自己紹介する人が、手に入れたいチャンスを引き寄せて、成長し、成果を出していくのだと思います。

余談ですが、世の中にはマウンティングを狙った自己紹介もたくさんある気がしています。私も実際、「俺ってすごいだろう」的な自己紹介を受けたことがありますが、あまり気持ちのよいものではありませんでした。

そうはいっても、私も必要に応じて、自覚的にそれをすることがあります。例えば相手がこちらを見下してまともに話を聞いてもらえそうにない場合、状況を変えるためにあえて自分に権威性を持たせるような話し方をすることがあります。ただし、見下される状況を打破するのが重要であり、相手を見下す必要はありませんから、相手がこちらの存在を認めた時点でマウンティングは取りやめて、謙虚に良い対話ができるトークに切り替えます。

ただし、それはマウンティングというより、相手との関係性を自分の不利にならないようコントロールするためのもので、意識的に行なっています。気づかずにやっているマウンティングとは質が違うと考えています。

本書で伝えたい自己紹介は、目的がきちんと吟味された自己紹介。その目的が適切かどうかは、十分に吟味されなければならないと思っています。

 

自己紹介が照らし出す「過去」と「未来」

自己紹介を通して自分に向き合うようになると、自分のやりたいことや、得意不得意、好き嫌いなど、「自分のこと」がよく理解できるようになります。目的に沿って魅力的な自己紹介ができるようになるのはもちろんのこと、自分が活躍しやすい場所を見つけたり、自分にとってのチャンスを逃しにくくなったりするので、夢ややりたいことを実現しやすくなります。

つまり、自己紹介には自分が望む「未来」をたぐり寄せ、つくり上げていく力があります。読者のみなさんも、未来創造としての自己紹介はなんとなく体感として理解できるのではないかと思います。

実はもう一つ、自己紹介をする人が、自己紹介を考える過程で必ず行なっていることがあります。それは「過去」に意味づけし、「過去」を決めることです。この「過去への意味づけ」こそが、自己紹介がその人の人生にもたらす大きなギフトではないかと思っています。

 

著者紹介

大澤正彦(おおさわ・まさひこ)

日本大学文理学部准教授/次世代社会研究センター(RINGS)センター長

1993 年生まれ。日本大学文理学部准教授/次世代社会研究センター(RINGS)センター長。東京工業大
学附属科学技術高校情報システム分野、慶応義塾大学理工学部情報工学科をいずれも主席で卒業。研
究テーマはHuman-Agent Interaction(HAI)、全脳アーキテクチャなどを通した、人とかかわる汎用人工知能の実現。Forbes JAPAN「日本発『世界を変える30 歳未満』30 人」に選ばれる。著書に『ドラえもんを本気でつくる』(PHP 新書)がある。夢はドラえもんをつくること。

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