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職場で「怒り」が湧いても、感情を飲み込んだ方がいいパターンとは? 

豊島晋作(ニュースキャスター)

2025年06月12日 公開

職場で理不尽な状況に直面し、怒りを覚える経験は誰にでもあるでしょう。感情的に怒りをぶつけてしまいたくなる気持ちは、決して珍しいことではありません。 しかし、その衝動のままに行動する前に、一度立ち止まって「怒りの感情と向き合う」ことは大切です。

テレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」のメインキャスターである豊島晋作さんが、過去の失敗や苦い思いを通してたどり着いた「伝える技術・聞く技術」について徹底解説した書籍『不器用だった僕がたどり着いた「伝え方」の本質』より紹介します。

※本稿は、豊島晋作著『不器用だった僕がたどり着いた「伝え方」の本質』(日経BP)を一部抜粋・編集したものです。

 

「怒り」の感情と向き合う

会社で働く人に、会社でよく感じる強い感情はなんですか? と聞くと、多くの人が「怒り」と答えます。悲しみや喜びではなく、怒りやいらだちです。

多くの会社で、部下たちは理不尽な上司に怒っており、上司たちは働かない部下たちに怒っています。いつの時代も、会社組織の理不尽に怒る中堅・若手社員は多いものです。理不尽な顧客や取引先への怒りの声も、聞こえてきます。X(旧Twitter)など、SNS上でも誰かのコメントに対する怒りが常にあふれています。

当然この怒りの感情が最も危険です。他人を傷つけたり、あなた自身もピンチに陥れるからです。

しかし、眼の前の不条理や不正義に対して怒らないことは、道徳的にも正しい態度ではないでしょう。

怒りは、不正義を正す、理不尽を正す、問題を解決する、状況を改善する原動力にもなるからです。上司のパワハラを「見て見ぬふり」をするなど、不条理を放置することは、決して褒められたものではありません。つまり、怒りをめぐっては難しいジレンマがあると言えます。

ではどうすればいいのでしょうか。

私のひとつの結論は、ビジネスシーンにおいて何かを伝えるときは「感情的になってもよいが、それには条件がある」というものです。

特に、「怒り」には厳格な発動条件があります。

まず、物事を伝えたい理由が、怒りに基づいているとすれば、それは究極的には、自分が怒っているのか、自分に関係する他人のために怒っているのかを区別しなくてはなりません。

もし、自分の怒りの解消(=自分の利益)が目的なら、基本的に感情は表に出すべきではないでしょう。

自分の意見が採用されなかったことに腹を立てて「なんで自分の案が通らないんだ!」と感情的に反論するのは自分の利益のための怒りと見なされ、あなたが損をするので避けるべきです。例え合理的な意見であっても、怒りに任せた言い方では相手に伝わりにくく、結果的にチームの雰囲気を悪くしてしまうでしょう。

逆に、他人や組織の怒りの解消(=他者の利益)が目的なら、感情を表に出すことを検討してもよいでしょう。

例えば、チームのメンバーが不当な扱いを受けているのを目撃したとき、理不尽な状況を改善するために声を上げるのは、他者の利益を守るための怒りであり、時には必要な行動です。上司が理不尽な要求をしてきた場合、「この対応は現場の負担が大きく、結果的に業務に悪影響が出ます」と語気を強めて毅然とした態度で伝えるのも、正当な怒りの表現と言えるでしょう。

ここでの判断基準を簡単にまとめると、次のような形です。

①「自分のため」だったら、怒りや悲しみは排除して伝えるべき
②「他人のため」だったら怒りを交えて伝えることを考えてもよい

①の理由は、自分のために感情的になる人は、全体の利益よりも自分の利益を優先していると見なされ、他人から嫌われるリスクが高いからです。嫌われれば、あなたの話は聞いてもらえなくなります。つまり、そもそも話が伝わらなくなります。

逆に、②の理由は、他人のために感情的になる人は、場合によっては若干の称賛や尊敬を獲得する可能性があるからです。他人から獲得する称賛や尊敬は、あなたの伝える力を強めるでしょう。

このように自分の喜怒哀楽の根源が、「自己利益に基づいている」のか、「他者利益に基づいているのか」を冷静に区別し、他人のために感情を使うかどうかを一つの判断材料にするのです。

しかし、②の場合、つまり「他者のため」に怒りのエネルギーで伝えようと考えても、その前に、もう一度冷静になって踏みとどまることが重要です。感情の高ぶりが大きければ大きいほど、あえて、踏みとどまることを考えます。

「強い怒り」や「強い悲しみ」は、あなたの冷静な思考能力を低下させている可能性が高いからです。そうなると冷静かつ理性的に思考して相手に何かを伝えるのは困難です。

だからこそ、怒りや悲しみがあまりに強いときは、「まずは何も伝えない」という選択をするほうが賢明でしょう。少なくとも30秒は深呼吸して何も言わないことです。たばこを吸う人は一服してください。その後で、「やはり伝える」と決めた場合は若干の感情を込めて、あくまで冷静に伝えるのがよいでしょう。

 

【豊島晋作(とよしま・しんさく)】
1981年福岡県生まれ。テレビ東京報道局所属の報道記者、ディレクター、ニュースキャスター。現在、WBS(ワールドビジネスサテライト)メインキャスター。2005年3月東京大学大学院法学政治学研究科修了。同年4月テレビ東京入社。政治担当記者として首相官邸や与野党を取材した後、11年春からWBSディレクター、マーケットキャスターを担当。16年から19年までロンドン支局長兼モスクワ支局長として欧州、アフリカなどを取材。ウクライナ戦争や日本および世界経済の動きなどを解説した「豊島晋作のテレ東ワールドポリティクス」「豊島晋作のテレ東経済ニュースアカデミー」などの動画はYouTubeだけで総再生回数2億回を超え、大きな反響を呼んでいる。著書に『ウクライナ戦争は世界をどう変えたか』『日本人にどうしても伝えたい教養としての国際政治』(ともにKADOKAWA)がある。

 

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