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労働力不足にどう立ち向かう?カギを握る「ロボットフレンドリーな社会」

那須直美(インダストリー・ジャパン代表)

2025年08月13日 公開

少子高齢化の加速により、労働力不足がますます深刻化する日本。私たちの暮らしを持続可能なものにするには、限られた労働力をどう補うかが喫緊の課題です。

その解決策の一つとして期待されているのが「産業用ロボット」の活用です。

本稿では、現在どのような産業用ロボットが開発されているのかを紹介しつつ、その普及を後押しするために欠かせない「ロボットフレンドリーな社会」の重要性について、書籍『機械ビジネス』より解説します。

※本稿は、那須直美著『機械ビジネス メカ好きな人から専門家まで楽しく読める機械の教養』(クロスメディア・パブリッシング)を一部抜粋・編集したものです。

 

働き方改革と産業用ロボットの活用

労働人口減によって人手不足が進行すれば、長時間労働もやむを得ない状態になります。

そこで、働き方改革関連法により2020年から「時間外労働の上限規制」が適用されました。また、賃金アップ率拡大の動きも活発化する中、このままいくと八方塞がりになる企業が増え、倒産や廃業なども進んでしまうという深刻な問題があります。

帝国データバンクが発表した2024年の倒産件数は9901件でした。その中で見過ごすことができないのは、「人手不足」と「後継者難」による倒産が過去最多を更新してしまうという悲しい結果となったことです。

こうした時代に生きる私たちが豊かな生活を維持する方法の1つとして、産業用ロボットを活用した自動化・省人化の実現があります。例えば最近では、産業用ロボットを製造しているファナックが、塗装現場で使用する世界初の防爆協働ロボットを開発しています。

協働ロボットとは、ロボットと人が柵を隔てることなく、同じスペースを共有しながら一緒に作業できるロボットのことです。リスクアセスメントに基づいて設計・製造されており、協働運転中であることがわかりやすいような視覚表示がされていたり、巻き込みが起きにくい形状や、接触したときの圧力を減らすための丸みを帯びた形状をしていたりします。ちなみに防爆とは、可燃性のガスや粉塵などによる爆発・火災を予防するための対策が施されていることを意味します。

ほかにも、スマートフォンやカーナビ、液晶ディスプレイなどの電子機器の高性能化により、電機・電子分野ではロボットの普及拡大が見込まれています。例えば、ロボットをはじめ切削工具やベアリングなどの製造を行う不二越では、コネクター挿入工程に着目し、ロボットを活用した組立自動化ソリューション「コネクタ挿入アプリケーション」を開発しています。

詳しく説明すると、電機・電子分野の組立工程は、細かい部品を組み付ける必要があり、段取り替え作業の頻度も高くなります。特に電子機器の接続に用いられるケーブルの挿入作業は、ケーブル自体が柔らかく形状が一定ではないため、正確な取り付けが難しいこともあり、自動化が遅れていました。そこで同社では、視覚装置を内蔵した「ビジュアルフィードバック制御システム」による高精度位置決めによってコネクター挿入動作を可能にし、自動化に大きく貢献したのです。

高精度の位置決めを実現する鍵を握るビジョンシステムは、主に2つのカメラとLED照明、照明コントローラーで構成されたステレオカメラユニットと画像処理装置NVsmartによって構成されます。この2つのカメラは傾斜をつけて取り付けられ、異なる角度で対象物を検出することで、3次元の補正を可能にしています。ステレオカメラユニット部に取り付けられた機器は、イーサネットケーブルを通じて電力を同時に供給するPoE(Power over Ethernet)で接続されているため、LANケーブルのみで電源供給とデータ通信を行えるのです。

これらの事例はほんの一部ですが、機械産業でも、働き方改革の時流に合わせて、産業用ロボットによる自動化・省力化が進んでいるのです。

 

ロボットフレンドリーな社会に向けて

オフィスビルや商業・宿泊施設でも、積極的なロボットの活用が見られます。

ゼネコン各社も、設計・施工の前にロボットの実装を念頭に置き、建物の運用や維持・管理に活躍できるよう各種設備とロボットを一元管理するITプラットフォーム活用の検討を行っています。

2022年に発足した「ロボットフレンドリー施設推進機構(RFA)」は、経済産業省が設置した官民連携の「ロボット実装モデル構築推進タスクフォース」をもとに、ゼネコン、ロボットメーカーとユーザー、エレベーターメーカーなどが参画し、ロボッフレンドリーな環境確立に向け、規格化やマニュアル化を検討しています。そもそもロボットフレンドリーとは、「あらゆるロボットが移動の際にバリアのない環境づくり」を指します。

簡単に言えば、バリアフリーでは身体が不自由な人や高齢者の方が社会に参加しやすいよう、段差をなくすなど、障壁になるものを取り払うことを意味しますが、この概念をロボットに置き換えたのがロボットフレンドリーです。

最近では、レストランチェーンで料理やドリンクを配膳する配膳ロボットの活躍が見られるようになりましたが、これもロボットフレンドリーの代表例の1つです。

また、近年では、商業施設やオフィスビルの中を巡回するセキュリティロボットも登場しています。この利点は、センサーやカメラを搭載したアームなどを使って、人の目では確認が難しい箇所も点検できることです。

例えば、武器を持った危険人物と警備員が遭遇した場合、警備員に危険が及ぶ可能性がありますが、ロボットはこうした危険に直面してもひるむことなく、音声やライトで警告をしたり、煙を吹き出して威嚇したりできます。

セコムでは警備ロボット「cocobo(ココボ)」を市場投入し、商業施設やオフィスビルなどですでに導入されています。

少子高齢化の進む日本に対し、経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、人手不足や過疎化などで買い物がしにくい「買い物弱者」への対応の1つに、「自動配送ロボット」の活用推進を行っています。

自動配送ロボットの定義は、さまざまな商品を配送できるロボットを指し、一定の大きさや構造を満たすロボットは道路交通法に基づく「遠隔操作型小型車」として、公道の走行もできます。

先端技術を搭載したロボットを実社会に融合させていくことは、社会的課題を解決する手段の1つとして期待されています。また、社会実装に向けた研究開発においては、産学官だけでなく、私たち1人ひとりが「ロボットフレンドリーな社会構築に対する関心を高めること」も重要と言えるでしょう。

 

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