中国では絶滅したと思われた希少な「スライゴオオサンショウウオ」を日本で発見!専門家が語る魅力
2025年08月30日 公開 2026年09月03日 更新
東京・池袋のサンシャイン水族館では、夜や暗闇で活動する生き物に焦点をあてた特別展「真夜中のいきもの展」を、11月24日(月・振替休日)まで開催しています。本展では、中国原産で一度は絶滅したと考えられていた「スライゴオオサンショウウオ」が展示されています。
8月18日(月)には、スライゴオオサンショウウオについて学ぶサイエンスセミナーが行われ、オオサンショウウオ研究の第一人者である西川完途(にしかわ・かんと)教授が登壇しました。
スライゴオオサンショウウオ発見の経緯
スライゴオオサンショウウオは中国原産の特定外来生物です。
1960〜70年代に中国のオオサンショウウオが大量に日本へ輸入され、やがて在来種との交雑が問題になりました。2000年代半ばには交雑個体が鴨川で確認され、在来種が脅かされる事態が表面化しました。
「そこで、チュウゴクオオサンショウウオ、日本の在来種、そして交雑個体を遺伝子で鑑定しようと考えたんです。その過程で、日本国内にスライゴオオサンショウウウオがいることが判明しました」
当時確認されたのは岡山、新潟、広島、サンシャイン水族館の計4個体。その中の1個体は既に死亡(もう1個体は鑑別後に死亡)し、現在生存が確認されているのは広島とサンシャイン水族館のわずか2個体だけです。
サンシャイン水族館ではこれまでチュウゴクオオサンショウウオとして飼育されていた個体が、実はスライゴオオサンショウウオだと判明しました。チュウゴクオオサンショウウオとの形態的な違いはごくわずかで、スライゴは「鼻の穴の間隔が少し広い」程度。外見からの判別は困難だといいます。
飼育スタッフ魚類チーム 上市光之(かみいち・ひかり)さん
サンシャイン水族館の飼育スタッフである上市さんは、実はスライゴオオサンショウウオだったと判明したときは「とても驚いた」と語ります。
「とても驚きましたし、そんなに貴重な生き物の飼育を担当できて嬉しかったです。今回はスライゴオオサンショウウオとしての初展示ということもあり、お客様からの問い合わせも非常に多くいただいています」(上市さん)
日本でのスライゴオオサンショウウオの発見は中国でも大きな話題となり、「中国に返すべきだ」「川に放して繁殖させるべきだ」といった声も上がったそうです。しかし、中国側には飼育ノウハウがなく、移動による個体への負担も懸念されました。そのため「現在の良好な環境で飼い続けるのが最善」と判断されています。
日本では、外来のチュウゴクオオサンショウウオとの交雑が進み、在来種の減少が深刻化しています。
「何百年も前から日本で暮らしているオオサンショウウオの数が減り続ける一方で、数十年前に持ち込まれた外来種や交雑個体が増えている。困ったことですが、ここにいろんなヒントがあると思うんです。 交雑オオサンショウウオが増える理由がわかれば、日本のオオサンショウウオを増やせるはずなので。見方を変えて、逆に活用しようと思っています」(西川教授)
交雑個体が広まった背景には「人為的に放された可能性が高い」と西川教授は指摘します。
「一番大事なのは日本のオオサンショウウオですが、交雑個体やチュウゴクオオサンショウウオを一律に駆除してしまうわけにはいきません。スライゴのように世界的には希少な存在が紛れているかもしれないからです。日本では厄介者扱いでも、世界的に見れば貴重な存在なんです」(西川教授)
※チュウゴクオオサンショウウオもワシントン条約CITESⅠ類。外来生物でもあり希少種でもあります。
スライゴオオサンショウウオのような事例は世界各地でも報告されているといます。東南アジアの野牛がオーストラリアで繁殖したり、日本では福島原産の魚「クニマス」が山梨の湖で再発見されたりと、思いがけない形で希少種が姿を現すことがあるのです。
現在、西川教授の研究グループは日本のオオサンショウウオの遺伝的多様性を調査し、4〜5つの地域系統を特定。それぞれが生き残れるよう、各地にサンクチュアリ(保護区)を設けることを文化庁に提案しているといいます。
オオサンショウウオの魅力
餌のワカサギを丸のみにするスライゴオオサンショウウオ
「こんな細長い島国の一部に、世界で最も大きくなる両生類がいるのは非常に不思議なことです。アフリカにアフリカゾウがいるのは理解できますが、日本にこの生き物がいるのは"ちぐはぐ"に思えます」
オオサンショウウオの親戚にあたる「アメリカサンショウウオ属」は北米に分布しています。しかし体長は50〜70センチ程度と小型。
「大陸の広いアメリカで小さいのに、島国の日本で1メートルを超えるほど巨大になる。これも面白いことです」と西川教授は指摘します。彼らはなぜこれほど大きく成長するのか。生物地理学の観点からも大きな謎だといいます。
オオサンショウウオの化石は、ヨーロッパでも発見されています。研究によれば、少なくとも2300万年前から現在まで、骨の形はほとんど変わっていないそうです。
進化論を唱えたチャールズ・ダーウィンは「変わらないことこそ進化の証拠」と述べています。進化とは常に新しい姿へ変わることではなく、環境が安定していれば姿を変える必要がないのです。
「環境が変わると進化は起きて、目や手がなくなったり、羽が生えたりします。例えば、僕ら人間は目がなくなったら困りますよね。でも、洞窟に暮らす生物は、目を持たない方が有利です。暗闇では目を使わないし、むしろ病気のリスクになるからです。何千万年もの間、オオサンショウウオやシーラカンスの見た目が変化していないのは環境が変わらなかったということを意味しています」
オオサンショウウオが現在まで生き残った背景には、日本の安定した自然環境があるといいます。
「涼しくて、木が生えてて、よく雨が降っている。その条件が変わらず残り続けたからこそ、あんなどん臭くて、のそのそしたでっかい動物が生き残れた。これこそ日本の環境の優秀さを示す絶対的証拠です。もし環境が崩れれば、彼らは絶滅し、二度と現れることはなかったでしょう」
西川教授は、オオサンショウウオを「日本の自然環境の優秀さを示す生き証人」と表現します。
「進化しなかったのは"成功の証"なんです。そして、その環境が残り続けていたこともすごい事実だと思っています」
池袋・サンシャイン水族館 https://sunshinecity.jp/aquarium/