「よいチームがよい仕事を生むのではなく、よい仕事(の仕組み)が、よいチームを育てる」。組織開発ファシリテーターの長尾彰さんは、現場でこう伝えています。
チームビルディングを目的化させないために必要なのが、「仕事を通じてチームを育む条件」です。これは抽象的な考え方ではなく、具体的に16の項目に整理されています。
16の条件は「協働」「状況設定」「目標/ゴール」「フロー」という4つの視点に分類されます。
じつはこの条件もすべてが、制約そのもの。制約の設定を見立てるのが難しいと感じている場合は、この16の条件を見直すことから取り組むと良いそう。
本稿では「目標/ゴール」「フロー」の2つの視点から、8つの条件について、解説していきます。
※本稿は、長尾彰著『宇宙兄弟 「制約主導」のチームワークで、仕事が面白くなる! チームの話』(Gakken)を一部抜粋・編集したものです。
目標/ゴールの視点
条件9 ゴールが明確になっている
条件10 目標と指標を自分たちで決められる
条件11 再チャレンジが可能
条件12 現実と理想のギャップを明確にできる
【条件9】の「ゴール」とは、「どういう状態になれば、ミッションが終わりか」を確認するためのもの。ゴールラインが明確になっていないと、チームとして動き出すことができません。
「売り上げが500万円かもしれないし、1億円かもしれないけど、とりあえずやってみよう」というゴールが不明確な状態では、メンバーはどう動けばよいのかわからず、チーム化は難しくなります。
【条件11】の「再チャレンジが可能」とは、もし失敗してしまっても、何らかの形で再挑戦できる環境であるという意味です。「失敗は許されない」と思うと積極的に挑戦することを恐れますが、「もし失敗してしまったら、やり直そう」とポジティブに言える環境では、「やってみよう」という意欲が生まれます。
【条件12】の「現実と理想のギャップを明確にできる」とは、別の言い方をすると、「できている状態とできていない状態が、明確にわかる」ということです。
【条件8】の「自分の考えを整理するための省察(振り返り)と観察の機会が、十分にある」と似ていますが、【条件8】は個人の視点であるのに対し、こちらはよりチーム全体としての考え方になってきます。
「私たちのゴールはここだよね、そして今、あなたは(私たちは)ここにいる。あとどのくらいで、どこまで行けばいいだろう?」
ついゴールや目標だけを見て走りがちですが、メンバー間でチーム全体を見据えた振り返りをすることで、「現実」と「理想」にどの程度のギャップがあるのかが明確になります。
「自分のビジョンがわからない」「自分が何をしたいのかわからない」という人も、現実と丁寧に向き合い、今やっていること、自分が今いる場所を理解することで、「どこに向かいたいか」が見つかるはずです。
フローの視点
条件13 参考にできる事例が少ない
条件14 最初の時点では達成できるかどうかがわからない
条件15 難易度が調整できる
条件16 フローが体験できる
仕事でもビジネスモデルでも、従来のやり方を繰り返すだけで達成できてしまうものは、困難さが欠けるため協力する必要性も低く、チーム化はしづらくなります。
【条件13】のように参考にできる事例が少なく、成功体験に捉われず従来のやり方が通用しない取り組みのほうが、チーム化が進みます。
わざわざトラブルを持ち込む必要はありませんが、新しいやり方を考えて試してみるなど、試行錯誤とちょっとした挑戦を取り入れてみるだけでも効果があります。
また、やる前からできるとわかっている仕事よりも、【条件14】のように、「挑戦すればできるかもしれない」レベルの難易度のほうがチームの成長につながります。
仮に、総務部をひとつのチームと捉え、「社員の健康を守る」という共通テーマのもとで、「福利厚生をどう充実させるか」を考える状況を想像してみましょう。
社員食堂、ドリンクバー、100円で買える置き菓子サービス、どれにするかで難易度は大きく変わります。社員食堂は予算やスペース的にかなりの難しさが予想されますし、置き菓子サービスでは簡単すぎるでしょう。でも、ちょっと変わったドリンクバーなら、手間がかかりますが実現できそうです。他社での事例もあまり聞いたことがありません。
この「ちょっとチャレンジすればできそう」がポイント。
さらには、「オーガニックな感じのドリンクバーとかどうかな?」というアイデアも出てくるかもしれません。
そして、前述した【条件11】の「再チャレンジが可能」であれば、失敗してしまってもチャレンジすることへの気持ちが失せることもありません。
「ドリンクバーは利用者が少なくてダメだったかあ......」
「もう少し難易度を下げて、まずはコーヒーメーカーを置くことから始めてみる?」
【条件15】の難易度を調整することにより、「実現するためには」というテンションも維持されます。こうしたやりとりが、総務部をチームにしていくはずです。
【条件16】「フローが体験できる」の「フロー」とは、心理学者のミハイ・チクセントミハイ氏によって提唱された「フロー体験」がベースとなっており、時間や身体感覚すらも忘れるほど、何かに没頭している状態を指しています。
「チャレンジ」のレベルが「能力」よりも高すぎると不安が強くなり、「能力」が「チャレンジ」のレベルよりも高すぎると、今度は退屈を感じるようになります。このふたつのバランスの取れた状態が「フロー」です。
課題や仕事のチャレンジレベルを調整することで、その人のパフォーマンスを引き出す「フローマネジメント」は、チームの成長にも大きな影響を与えるでしょう。
これまでに紹介した【条件13】~【条件15】を何度も繰り返していくと「フロー体験」ができ、「仕事って大変だけど面白いかも」といった、少しの困難さが仕事にやりがいを生むことに気づけます。
以上が、「チームを育む16の条件」の概要です。
すべて当てはめることは難しくても、まずはこのなかのいくつかを参考にして、仕事への取り組み方を変えていくことができれば、少しずつチームに好ましい変化が起こるはずです。
【当てはまる項目がひとつでも多いほうが、「よいチーム」になりやすい】
◎条件1~8はこちらの記事で詳しく解説しています
https://shuchi.php.co.jp/article/12939