『THE21』2013年3月号[総力特集・「できる大人」のモノの言い方]では、各界のトップランナーに、プレゼン、商談、説明など、それぞれの場面に合わせた大人のものの言い方、話し方について教えていただいた。
<写真左から、本紙登場順>
・遠藤功(ローランドベルガー会長):「大人である」ことを過剰に意識しすぎない
・村上憲郎(元グーグル日本法人社長):「相手を操る」のではなく「相手の立場」で話す
・伊賀泰代(キャリア形成コンサルタント):相手の受け止め方のバリエーションを知る
・ショーンK(経営コンサルタント):断片的な言葉の奥にある「文脈」を読み取る
・川越達也(タツヤ・カワゴエ代表取締役):自分を主張する前にまずは相手を受け入れる
・南雲吉則(ナグモクリニック理事長):立場の違いを意識せずに相手の心に寄り添う
そのインタビューから導いた共通点、法則についてまとめてみよう。
[1]聞く人の印象を想像しながら話す
「相手(聞く側)」がどう感じるかを想像して話す、という意見は、全員が共通して述べている。元グーグル日本法人トップの村上憲郎氏は、「自分が相手の立場ならどうするかを想像する」と話してくれた。こうした真撃な態度で、グーグルが成し遂げてきた数多くの前例のないビジネスについて、多方面に説明し、理解を得てきたという。
元マッキンゼーの伊賀春代氏は、「コミュニケーションカとは、発信力ではなく、メッセージを受容する側の多様性を理解するカ」という。いくら論理的にすらすらと話そうが、相手が自分の発したいメッセージを受け取ってくれなければ意味がない。そのため、目の前の相手にはどんな伝え方をすれば伝わるのか、見極めることこそ重要なのだという。優秀なコンサルタントもこうした努力はしているのだ。
[2]自分に求められる役割を意識する
テレビにコメンテーターとして出演しているショーンK氏と川越達也氏の共通意見である。ショーンK氏は情報番組のコメントで、「ほかの出演者とのバランスを考え、経営コンサルタントという立場からすべきコメントをするようにしている」という。それは、その場で求められるコメントでもあるが、自分の専門分野に引きつけて話せば、コメントの内容が充実するという重要な利点もある。
川越達也氏は、たとえば料理に関してコメントするとき、観ている人にひと言で伝えるにはどうしたらいいか、どのようなコメントや表情ならわかりやすいかを考え、かつタレントとは違う料理人としての役割を意識したコメントをする。このように、自分の立ち位置を認識するのも、大人のコミュニケーションに必須だといえる。
[3]話すための準備や練習を欠かさない
南雲吉則氏は医師として、患者に病状や治療法について説明する際、「頭のなかの引き出しから、必要な情報を引用する」という。そのため、よどみなく話すことができ、不安を抱えた患者も安心して南雲氏の話を聞くことができる。これは、南雲氏が毎朝、診察が始まるまでの時間を情報のインプットにあてているからこそできることだ。
伊賀氏は、「仕事で話す機会があれば、必ず前日に練習をする。以前は録音して聞き返していた」という。マッキンゼー時代にはさまざまなコミュニケーションに関するトレーニングも受けたそうだ。一流のコンサルタントでも、こうした訓練は当たり前に行なっているのだ。
誰でも最初から話すのが上手なわけではない。話すことに苦手意識がある人は、まず準備と練習をしてみてはどうだろう。
[4]相手との心の距離を近づける努力をする
南雲氏は、「まず大事なことは挨拶。初対面ではお互いに緊張していることも多いので、相手の心の氷を解かすための共感や気遣いのひと言を大事にしている」と話してくれた。これは、医師と患者という立場にかぎった話ではない。
遠藤功氏は、地方での講演では最初にその地域に関することを話すようにしているという。そうすると聴衆が遠藤氏に興味をもち、親しみをもってくれるからだ。営業などにおいても同様で、相手が聞く態勢をとっていないのに自分の主張をしても、受け入れてもらえない。
主張をする前に、相手との人間関係を築くべく努力をする。こうした歩み寄りのなかで初めて、相手も聞く姿勢ができるのだ。大人のコミュニケーションはまさに、気遣いから始まるといえるだろう。