ジェフ・ベゾス アマゾンを創った男の名言
2013年10月25日 公開 2024年12月16日 更新
《PHPビジネス新書『ジェフ・ベゾスはこうして世界の消費を一変させた』より》
アマゾンを創った男、ジェフ・ベゾス。わずか20年で世界最大の通販サイトを築いた稀代の経営者だが、小売業界を震撼させる男として忌み嫌われる一方、消費者の望みを叶える革命児と讃えられるなど、その人物評は常に割れる。私たちの消費スタイルを根底から変えてしまったベゾスとは、一体どんな人物なのか。彼の言葉から素顔を読み解いてゆく。そこにはネットビジネスのみならず、あらゆる分野に通じる「成功の要件」が詰まっている。
ジェフ・ベゾスは、1986年にプリンストン大学を「最優秀」の成績で卒業。「全米優等学生友愛会」のメンバーにも選ばれるほどで、いくつもの大企業の面接を受け、毎回、内定を得たが、すべてを断りニューヨーク市のベンチャー企業「ファイテル」に就職する。
88年に「バンカーズ・トラスト」に転職、26歳で会社史上最年少の副社長となる。90年から働き始めた「D・E・ショー」でも28歳でやはり最年少の上級副社長となっている。
転機は94年に訪れた。「インターネットで本を売る」というアイデアをD・E・ショーで実現しようとしたが、当時それは「ばかげた考え」に過ぎなかった。会社でできないなら自分でやる。そう決めたベゾスはデビッド・ショーに退職の意思を伝える。
その時、ショーは「48時間かけて将来を考えるように」と再考を促している。
「今から、自分の人生を振り返ってみよう。私は、できるだけ後悔はしたくないと思っている。80歳になった私は、この仕事に挑戦したことを後悔したりしないだろう。このインターネットビジネスという大きな取り組みに挑戦することを後悔するつもりはない」
無限の可能性を秘めたネットビジネスをあきらめるほうが後悔する。たとえ失敗しても「何かをした」ことは、「何もしなかった」後悔よりもはるかに大きなものをもたらしてくれる。たしかにリスクはあった。しかし、そう考えると決断はとても簡単だったという。
ジェフ・べゾスは、インターネットを使ってものを販売するというビジネスに高い将来性があると考えた時、販売に最適な商品を20リストアップしている。そこには、コンピュータソフトやオフィス用品、衣類、音楽などが並んでいたが、検討に検討を重ねた結果、書籍と音楽がダントツの1位と2位となった。
ベゾスが注目したのは、書籍を販売するというビジネスが「合理的なビジネスとは言えない」点だった。需要予測ははずれ、出荷された本のうち、あまりに多くのものが返品されていた。こうした巨大でありながら合理的ではないビジネスに、効率の良い、顧客が望むやり方を持ち込めばチャンスがあるとベゾスは考えた。
「大きなことが非効率に行われている時、そこにチャンスがあるのです」
それは、アマゾンの新たな収益源となりつつあるクラウド・コンピューティングについても同様だった。アマゾンは2006年にサービスを開始しているが、今や圧倒的なトップシェアを誇るまでになっている。規模が大きく非効率なことが行われていれば、「アマゾンなら他社よりもっとうまくやれる」というわけだ。難しいことを易しく、辛いことを楽しく、非効率なことを効率的にやれるなら、そこに確実にチャンスは生まれるのである。
ちなみに、2位の音楽は、後にスティーブ・ジョブズによって変革される。
アップルを創業した当初から、スティーブ・ジョブズはしきりと「世界を変える」とか、「宇宙に衝撃を与える」という言葉を好んで口にしていた。こうした考え方に共鳴した若きエンジニアたちが、溢れるほどの情熱を注いだからこそ名機「マッキントッシュ」は誕生することになった。
世界を変えられると本気で信じている人だけが世界を変えることができる。それがジョブズのメッセージだった。
ジェフ・ベゾスは採用にあたり、学生時代の成績なども重視したが、同時に「あなたが発明したものについて教えてくれませんか?」と聞くことで、新しいことへのチャレンジを厭わない人を採ろうとした。「自分は世界を変えられると信じている人が欲しい」というのがベゾスの希望だった。理由はこうだ。
「世界が変わると信じていれば、自分がその一端を担えると信じるのはごく自然なことだ」
ベゾスはアマゾンによって本の売り方だけでなく、本の読み方までも変え、今では世界の流通業界にさえ大きな影響を与えている。アマゾンが登場する前と後ではたしかに世界が変わりつつある。世界を変えるには、世界は変わると信じることだ。そうすれば世界は確実に変えることができる。
ジェフ・ベゾスはアマゾンを創業して以来、「印刷された本」を売っていたが、2007年に「キンドル」を発売。4年後の11年、アメリカのアマゾンの顧客は「印刷された本」よりも「電子書籍」のほうを選ぶ人が多くなっていた。
キンドルの開発にあたり、ベゾスは「なぜ自分はインクの臭いのする本が好きなのか」を自らに問いかけた。答えは「自分がかつて夢中になった世界のすべて」に結びついていたからだが、本当に好きなのは「印刷された本」ではなかった。
「我々が愛しているのは、言葉とアイデアなのである」
大切なのは「言葉とアイデア」であり、「印刷された本」かどうかではなかった。本というカタチにこだわれば、新しいものを生み出すことはできない。しかし、「言葉とアイデア」を伝える機能に注目すれば、「印刷された本」よりも優れたものをつくることができる。
そして、そこには印刷された本にはできないことを盛り込むことだってできる。印刷された本と同様に「言葉とアイデア」をしっかりと伝え、かつ印刷された本よりも優れたものをつくればたくさんの人が利用してくれるに違いない。
ベゾスは、「本とは何か」を突き詰めて考えることでキンドルを生み、そして電子書籍が印刷された本よりも多く選ばれるという革命を起こすことになった。
グーグルの会長エリック・シュミットによると、テクノロジー業界には4人の騎手がいて、それはグーグル、アップル、フェイスブック、そしてアマゾンとなる。このリストにアマゾンが載っていることについて問われたジェフ・ベゾスは、マイクロソフトが除外されていることに疑問を呈したうえで、こう話した。
「こうしたリストを見て問わなければいけないのは、これが10年前だったら誰がリストに挙がったかということです。それを問うことで謙虚でいられます」
たしかに10年前ならアップルはともかく、ほかの3社に出る幕はないし、間違いなくマイクロソフトがトップランナーだった。しかし、さらに5年遡れば、そこにアップルの名前が載ることは考えられなかった。ベゾスはこう続けた。
「光があたるところは常にあるんです。けれども光に溺れてしまってはいけません。なぜなら、それは決して長続きしないからです」
ベゾスにとって大切なのは 「時代の寵児」になることではなく、顧客が本当に望むサービスをつくり、提供し、そして信顕を得ることだった。浮ついた評価に一喜一憂するのではなく、本物の製品、本物のサービスをつくる。そうすれば光に溺れることなく、企業は長く成長し続けることができる。
<書籍紹介>
ネットビジネス覇者の言葉
「世界が変わると信じていれば、自分がその一端を担えると信じるのはごく自然なことだ」――稀代のパイオニアに学ぶ、情熱と冷静の仕事術。
<著者紹介>
桑原晃弥
(くわばら・てるや)
1956年広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者、不動産会社、採用コンサルタント会社を経て独立。人材採用で実績を積んだ後、トヨタ生産方式の実践と普及で有名なカルマン株式会社の顧問として、『「トヨタ流」自分を伸ばす仕事術』(成美文庫)、『なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか』(PHP新書)、『トヨタが「現場」でずっとくり返してきた言葉』(PHPビジネス新書)などの制作を主導した。
著書に『スティーブ・ジョブズ全発言』『ウォーレン・バフェット 成功の名語録』(以上、PHPビジネス新書)、『スティーブ・ジョブズ名語録』『「ものづくり現場」の名語録』『サッカー名監督のすごい言葉』(以上、PHP文庫)、『スティーブ・ジョブズ 神の遺言』『ウォーレン・バフェット 賢者の教え』(以上、経済界)、『1分間スティーブ・ジョブズ』(ソフトバンククリエイティブ)などがある。