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メディアが報じない工程表の真相

上杉隆(ジャーナリスト)

2011年05月10日 公開 2022年08月18日 更新

「たんなる希望表ですよ」

 東京電力が工程表をようやく発表した。福島第一原発事故から1カ月、なぜこうまで時間がかかるのか不思議でならない。

 だが、連日、東京電力本社での記者会見に参加し、それまでの経過を知っている者からすれば、その事情もわかるというものである。

 おそらく新聞・テレビもそのつまらぬ面子が邪魔して、永遠に真相を報じないであろうから、会見に出ている筆者が本コラムでそれを知らせようと思う。

 3月末、一向に情報を出さない東京電力の対応に業を煮やしたフリーランス記者の日隅一雄氏と木野龍逸氏は、作業工程表の提出を求めた。

 東京電力の会見は1日に何回も行なわれている。だが、会見を行なっている現場の広報担当者に質問しても、「確認します」の一点張り。大事なことになると、まともな回答はいっさいなかった。

「工程表を出してくださいよ。当然あるんですよね。それならば隠す必要はないはずでしょう」

 普段は冷静な日隅氏が、いったい何度こうやって声を荒げただろうか。また、木野氏も同様に、東電に対して繰り返し「宿題」の提出を迫っていた。

 それから3週間が過ぎた4月17日、東京電力はようやく工程表を発表した。つまり、これまでのあらゆる事故情報と同様、今回も、東電から積極的に発表されたものではなかったのである。

「統合本部で作業中です」

「政府と調整中です」

 連日、このような苦しい言い訳をしなくてはならなかった広報担当者も、ある意味気の毒だった。だが、もっと気の毒なのは、事故以来、帰宅できるかどうかもわからず、生活の先行きも人生設計の再考もままならないまま不安な日々を過ごしている避難住民の方である。

 さて、政治家と専門家たちがそうやって長期間にわたって作成した工程表である。きっと詳細で、正確な内容のものになったであろう。

「これは工程表ではなく、たんなる希望表ですよ」

 発表直後、日隅氏はこう呆れた。

 工程表によれば、事故収束まで6~9カ月程度の見通しだという。冷却作業を終え、原子炉を安全な状態で停止することができ、避難住民の帰宅を検討するまでに6カ月から9カ月だというのだ。

 驚いた。政府・東電は世界中が感嘆するほどのスピードで原子炉を冷ます方法を見つけたのだろうか。

 だが、工程表によく目を通してみると、具体的なことはいっさい何も書いていない。新聞・テレビがトップニュースで大々的に取り上げると何か立派なようにみえるが、実際はなんら科学的根拠を示さず、たんに希望的観測を述べただけに等しい。

避難住民の気持ちを無視した「安心デマ」

 そうした科学的根拠の薄い道筋を一面トップで扱う新聞も新聞だが、なによりこの「工程表」をつくった政府・東電の罪は重い。仮に9カ月後にまったく状況が改善されていなかったら、どう責任を取るつもりであろうか。

 なにしろ、記者会見に現われた勝俣恒久東京電力会長自身がこういっている。

「工程表の計画は100%できるというものではない。とにかくやれることから行なって、原子炉の冷却を達成したい」

 ならば、東電は本当のことをいうべきではないか。チェルノブイリ、いやレベル5のスリーマイルの原発事故ですら、原子炉事故の収束までには年単位の時間がかかっている。

 不安な日々を過ごしている避難住民にとって、帰宅できるかどうかは1日、いや一刻を争う問題だ。

 不安を煽るべきではないが、過度な期待をもたせるのも、同様に罪だ。

 たとえば9カ月後に帰宅できると期待している住民が、我慢を続け、それが9年になったとして納得できるのか。「月」と「年」では、生活そのもののみならず、その後の人生設計自体も変わってくるだろう。

「待つべきか、移住すべきか」

 そうした住民の人生すべてに関わる判断材料となるのが、今回発表された「工程表」なのである。

 政府と東電は、本当に自信をもって提示できたのか。また大手メディアも、検証もなく発表に乗っかっていないだろうか。再考していただきたい。

 繰り返そう、またしても日本中に「安心デマ」がばらまかれている。避難住民の切実な気持ちを無視した「安心デマ」は、決定的な批判をかわしたい政府と東電の詭弁にすぎない。

 その罪悪は、結果としてこの1カ月間に起こった「現実」を振り返れば、誰もが気づくはずであろう。

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