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[薬毒同源]食べ物は毒にも薬にもなる

船山信次(日本薬科大学教授)

2015年04月02日 公開 2024年12月16日 更新

 

酒の効用と毒

 食べ物と毒との関係を考えるとき、お酒は大変に良い材料となりましょう。ご存じのように、お酒はおいしく、楽しく、適量を飲むことができれば、それこそ「百薬の長」ともいわれますが、飲み方を間違えたり、お酒を飲めない人が飲んだりすると、たちまち「気違い水」と呼ばれる存在になったり、「毒」となったりします。

 お酒には、日本酒やビール、ワイン、シャンペン、焼酎、ウイスキー、泡盛、ウォッカ、テキーラ、コニャック、ブランデー等々、実に様々な種類のものがありますが、人を酔わせる成分はいずれも共通で、エチルアルコール(エタノールまたは単にアルコールとも/CH3CH2OH)です。

 エチルアルコールは酵母による糖を原料としたアルコ-ル発酵の結果、得られる化合物ですが、それぞれのお酒に含まれる他の種々の化学成分の存在によってそれぞれ独特の風味が醸し出されていることになります。たとえば、日本酒のなかにはフルーティな香りを持つものがありますが、その主原因物質は酢酸イソアミル(CH3C00CH2CH2CH(CH3)2)という化学物質であり、この化合物は洋梨の香りの主成分でもあります。

 人がお酒を飲むことによって、ときに頭痛がしたり、吐き気がしたりするような症状が出るのはなぜでしょうか。それはエチルアルコールの代謝によって生じるアセトアルデヒド(CH3CHO)のなせる業です。体内に入ったエチルアルコールは酵素反応によって若干の毒作用のあるアセトアルデヒドに代謝され、さらにこのアセトアルデヒドは代謝されて毒作用の低い酢酸(OH3COOH)となります。そこで、体内にアセトアルデヒドが多くたまると、その作用によって頭痛や吐き気が起きるわけです。場合によっては心臓がドキドキしたり、といった作用が出るときもあります。一時はやったいわゆる「一気飲み」のような飲み方をすると、このような作用が強くなり、命を落とすようなこともあったわけです。

 日本にはお酒の飲めない、いわゆる「下戸」の人も結構多いのです。この人たちは体内にたまったアセトアルデヒドを酢酸に代謝する酵素を持たないか、あるいはその働きが弱いのです。そのため、わずかのお酒の摂取でもアセトアルデヒド中毒状態となります。したがって、下戸の人にお酒を無理強いするようなことは厳禁です。下戸にとってお酒はまさに「毒」なのですから。なお、下戸は日本人に多いのですが、たとえばヨーロッパ人種には少ないといいます。また同じアジア人種でも中国人にも少ないといわれます。

 昔から、「酒は微酔、花は半開」と申します。自分にあったお酒の量をわきまえ、楽しく飲んで、お酒を「百薬の長」として終生楽しみたいものです。

 

<著者紹介>

船山信次(ふなやま・しんじ)

1951年仙台市生まれ。東北大学薬学部卒業。同大学大学院薬学研究科博士課程修了、薬剤師・薬学博士。天然物化学専攻。イリノイ大学薬学部博士研究員、北里研究所微生物薬品化学部室長補佐、東北大学薬学部専任講師、青森大学工学部教授などを経て、現在、日本薬科大学教授。Pharmaceutical Biology(USA)副編集長。日本薬史学会評議員。
著書に『毒と薬の世界史』(中公新書)、『毒』(PHPサイエンス・ワールド新書)、『カラー図解 毒の科学』(ナツメ社)。『アルカロイド』(共立出版)、『〈麻薬〉のすべて』(講談社現代新書』などがある。

<書籍紹介>

毒があるのになぜ食べられるのか

船山信次著

本体価格920円

ギンナン、トウモロコシ、フグ、ウナギ……明らかに毒があるものや調理の仕方で毒になるものなど、身近な食材にも危険性がいっぱい!?

 

 

 

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