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仕事

人のために働けば100年連続増収も夢ではない

石川典男(成田デンタル社長)

2015年07月16日 公開 2024年12月16日 更新

《隔月刊誌『PHP松下幸之助塾』[特集:活力を吹きこむ]より》

 

成田から世界へ!歯科技工物販売という新機軸

入れ歯などを製作する技工所と、全国の歯科医院とを結ぶ日本初のシステムで、業界に新風を吹きこんだ成田デンタル。いまや年間売上70億円を超える同社だが、一時は巨額の負債を抱えて倒産寸前の状態に追いこまれた。再建不可能と言われた同社は、いかにして堅実成長を続ける企業に変貌を遂げたのか。最先端技術の輸入、新規市場の開拓など、絶えざる変革を主導する石川典男氏に、成田デンタルが描く未来と、その背骨となる理念について語ってもらった。
〈取材・構成:坂田博史/写真撮影:山口結子〉

 

 歯科業界に風穴を開けた成田リンクシステム

 私が社長に就任した1989(平成元)年以来、成田デンタルは増収を続けてきました。25年間、業績が堅調に伸びてきたのは、「売上が前年同月比を割らない」ことを日々心掛け、それを守り続けてきたからにほかなりません。

 毎月の売上が前年同月を上回れば、当然、年間でも前年を上回ることができます。数値目標として、私がこだわってきたのは唯一これだけです。前年同月比を上回り続けることができれば、年間で5パーセント以上は売上を伸ばすことができます。

 成田デンタルが取り扱っているのは、差し歯や入れ歯といった歯科技工物です。これらは、すべて歯科技工士による手づくりのため、急激に売上を伸ばそうと大量生産すると、品質が落ちてしまう恐れがあります。売上を重視するあまり、低品質の製品をお客様に提供するようでは、本末転倒です。私は、急激な成長をめざすのではなく、一段一段階段を上がるように成長していくことをめざしてきました。

 「売上が前年同月比を割らない」ために、いちばん腐心してきたのは、市場の変化をよく見て、新しい仕組みや製品をつくることです。

 たとえば、歯科技工士は仕事を受注するために歯科医師に対して営業を行わなければなりません。「製作の仕事」と「営業の仕事」を一人でやるのはたいへんです。職人さんが営業マンを兼ねるのはムリがある。歯科技工の業界で働き始めたころから、私はそう思っていました。

 この問題意識から生まれたのが、成田デンタルです。歯科技工物の販売会社を新たに立ち上げ、営業の仕事はそこで一手に引き受ける。そして歯科技工士には、技工物の製作という本来の仕事に専念してもらう。業界初の流通システムで新風を吹きこもうと、尊敬していた当時の先輩と一緒に、千葉県成田市で創業しました。

 歯科技工士は、一人または数人で技工所を運営し、数軒の歯科医院を回って仕事を受注する場合が多いのですが、これでは高品質の製品をつくることはむずかしいと思います。なぜなら、歯科技工物と一口に言っても、その内容はさまざまだからです。

 技工士のなかにも、入れ歯をつくるのが得意な人もいれば、差し歯をつくるのが得意な人もいる。セラミック素材の技工が得意な人もいれば、プラスチック素材の技工が得意な人もいる。一人であらゆる技工物の注文を受けるのではなく、専門特化して製作を行えば、技能はどんどん高まります。より早く、より多く、より品質の高い技工物をつくることができるようになるのです。

 そのために販売会社は、一人でも多くの歯科医師へ営業を行い、一件でも多く注文をいただかなければなりません。量を集めて規模を大きくすることで、技工士にそれぞれの得意分野で技能を磨いてもらうことが可能になります。

 これは、歯科医師にとっても、エンドユーザーである患者さんにとっても喜ばしいことでしょう。より品質の高い歯科技工物を、より早く、低価格で利用できるようになるからです。

 歯科医師の要望を聞き歯科技工士とマッチングさせる独自の営業を成田デンタルが担うことで、歯科技工士にも、歯科医師にも、患者さんにも喜んでもらうことができる。私たちは、この「成田リンクシステム」という新しい仕組みづくりに邁進してきました。現在では、約150社の技工所と連携し、約4500軒の歯科医院の要望に応えることができるまでになっています。

 

マーケット・インの発想でみずから市場をつくれ

 新システムの開発に加えて、私は毎年、最低でも一つは新製品を世に送り出すことをめざしてきました。ただし、医療にかかわる製品は許認可の問題もあるため、これまでにない画期的な製品をコンスタントに開発することはできません。使用している技術は従来のものであっても、その企画を市場の変化に合わせてどう打ち出すかが重要になってきます。

 新製品の開発は、むずかしく考えているだけではうまくいきません。身近なところに、思わぬヒントが転がっているというのもよくあることです。私は、あまり積極的に業界内で付き合いを持つほうではありませんが、外部の方々とはたびたび交流しています。歯科業界とは関係のない方でも、私が「入れ歯や差し歯を販売する仕事をしています」と話すと、意外に話がはずむのです。

 「私も差し歯を入れているけど、プラスチックはあんまりよくないね。品質がいいセラミックも、7万円っていう値段を考えると、ちょっと高い。保険もきかないし……」

 こうした消費者の生の声は、宝の山です。そこに、新製品開発のための大ヒントが隠されています。

☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の冒頭部分を抜粋したものです。

 

著者紹介

石川典男(いしかわ・のりお)

成田デンタル社長

1956年、千葉県生まれ。’79年東洋大学工学部卒業後、「大企業の歯車になるな、一人でも大将になれ」という父の言葉を胸に、中小歯科材商社に入社。取引先の新規開拓などが評価され、別の歯科技工物製造会社に引き抜かれる。’83年、当時の先輩社員と成田デンタルラボ(現成田デンタル)を設立。’89年より現職。若手経営者の勉強会である盛和塾では、千葉県佐倉地区の代表世話人を務める。

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