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カンボジア証券取引所の教訓

山形浩生(評論家兼業サラリーマン)

2011年08月29日 公開 2022年08月29日 更新

韓国の証券取引所が半分出資

 今年の7月11日に、カンボジアの証券取引所(CSX)がオープンした……とはいっても、いまだ上場企業はゼロなので、取引はなし。いま、一生懸命いくつかの国営企業などが上場準備を進めているところだが、会計監査などの上場基準が厳しすぎるとかで、まだ上場する側でもそれを監督する側でも、あれこれ詰めている最中だ。

 とはいうものの、数年前からずるずる遅れてきたのがやっとオープンしたことで、関係者もうれしそうだ。なにせ並行して進んでいたラオスの証券取引所は、昨年(2010年10月10日)にオープンし、今年頭から取引も始まってしまい、後れを取ったカンボジアはけっこう焦っていたもので。あとは年末に予定されている上場と取引開始がうまく運べば……。

 さて、このラオスとカンボジアの証券取引所だが、どちらも、韓国の証券取引所(KRX)が半分出資している。そしてその結果として、どちらにもKRXのシステムが入っている。むろん、そのまま入っているわけではない。じつはKRXはこうした取引システムの輸出に非常に力を入れていて、自分のシステムをスケールダウンし汎用化したグローバルシステムをつくっている。そしてそのグローバルシステムを各国の状況に合わせてカスタマイズし、システム開発を行なっている。

 こう書くと、変な誤解をする人が必ず出てくる。韓国はラオスとカンボジアの株式市場を押さえた、今後は韓国が両国の経済を自由に操作し云々といった誤解だ。当然ながら、システムつくったくらいで経済が牛耳れるわけじゃない。ラオスの株屋さんたちは「ちょっと韓国っぽいクセがある」とはいっていたが、それは慣れの問題もある。べつに株価操作もできないし、韓国系企業が上場に有利ということもない(ホントにそんなことができるなら、ラオスの株価をもうちょっとてこ入れしてほしいもんだ)。

 でも、この証券取引所を通じて韓国企業はたしかにビジネスを伸ばそうとはしている。当初の予定では、CSXの建物は首都プノンペンの少し郊外にある、新都市開発の中心に置かれるはずだった。その開発をやっていたのは韓国系のデベロッパーだ。証券取引所を有利な条件で誘致し、それを中心にビジネス機能を配置、その周りを高級住宅で取り囲んで分譲するという計画だ。

 結局のところ、これはポシャった。リーマン・ショックにともなう韓国経済の苦境もあって、開発の進捗が思わしくなく、とくにビジネス街の開発が進まなかったのだ。CSXオープンが遅れたのはその開発の遅れにともなって、入居するはずの建物がいっこうにできなかったこともあるという。ちなみに、いまはもっと都心の高層ビルに(一時的に)入っている。

お上が音頭を取る必要はない

 が、開発の計画としてはなかなかうまい。事業連携の考え方としても見事だ。震災絡みの話で一時中断したが、これが昨年末ごろにこのコラムでよく扱っていたインフラ輸出の一種だというのはご理解いただけるだろう。インフラ事業の本来の面白さは、こうした関連事業への展開でもある。日本も原発輸出絡みで齟齬はあるものの、まだ全体としてのインフラ輸出はやる気のようだ。そこで出てくる、国としてトップ営業が政府主導でオールジャパンのまとめ役を、みたいな話については以前にも論難した。

 そして韓国のこうしたやり方をみると、やはりそうしたお上頼みの主張は言い訳に思えてくる。KRXは、多額の出資をしてリスクを取った。システムだって、世界に売り込むという腹をしっかり決めて、汎用化するための開発投資を行なうというかたちで下準備をしていたわけだ。2008年ごろにはトラブル続きだった東証のシステムで、これができるだろうか。大臣が挨拶に来れば済む話じゃない。

 そしてそれを他のビジネスチャンスにつなぐのだって、お上が音頭を取る必要なんかない。民間が自分で絵を描いて手を組めばいい話だ。ちなみに日本のインフラ輸出だと、下請け企業が進出するという話はけっこう聞くが、関連事業への展開話はあまり聞かない。むろん、案件が決まるまでは伏せてあるだけかもしれないのだけれど。ただ、ベトナム都市部の水道案件など成功事例のみをみても、それ以外の関連分野への展開がもう少しあってもいいはずだ、とは思うのだ。

 むろん日本のインフラ関連企業というのが、民間企業といいつつ実態は往々にして親方日の丸、という事情もあるだろう。また韓国だってその都市開発も計画どおりには進んでいないし、取引システムだって、現地の株屋の話を聞いたところ、CSX開設時点ではまだ十分には稼働できていないとのこと。ただ、その売り込みや展開について、ぼくは韓国に見習うべき部分がかなりあると思うのだ。

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