※本稿は和田秀樹著『「損」を恐れるから失敗する』(PHP新書)より、一部を抜粋編集したものです。
「損」と「得」の心理学
心理学の立場から言うと、「競馬の最終レースは、本命に賭けるほうが得」という法則のようなものがあります。
たとえば、一日に12レースあるとすると、第11レースまでに儲かっている人はあまりいません。負けている人たちは、「今日の負けを最後のレースで取り返したい」と思って、大穴狙いをしたくなります。
その結果、最終レースでは、本命の馬のオッズ(予想配当率)が上がります。本来は2倍の馬が、3倍、4倍になったりします。そうすると、本命の馬が勝ったときに、より多くのお金を得ることができます。
確率的に見ると、かなりの「得」です。これは、人間の心理特性によって起こる現象です。
人間は、「得の局面」ではリスク回避志向になり、「損の局面」では、リスク追求志向になります。
第11レースまでで儲かった人は、「得」をした人です。「これだけ儲かったんだから、最後に変な馬に賭けて利益を失いたくない。堅い馬に賭けよう」とリスク回避志向になります。
一方、第11レースまでに「損」をした人は、「最後に、一発逆転で取り返したい」と思って、リスク追求志向になり、大穴を狙います。
競馬の場合、掛け金の一定割合が主催者に入るシステムですから、第11レースまでに「得」をした人と「損」をした人を比べてみると、「損」をした人のほうが圧倒的に多くいます。リスク追求型の人が多くなるために、本命馬のオッズが上がるのです。
第11レースまでに「得」をした人は、堅い本命馬に賭けて、さらに「得」をする可能性があります。
もともと、ギャンブルというのは「損」をする人の多いゲームです︒たとえば、100人が集まって、一人100円ずつ出して、勝った人一人が全部持っていくゲームは、掛け金100円で1万円を手にできる可能性があります︒「1万円をもらえるのなら、100円出してもいい」という人は多いはずです。
100人のうち50人が勝者となるゲームの場合は、勝っても200円にしかなりません。「200円もらっても仕方がない」と思う人は少なくないでしょう。ギャンブル性が低く、魅力がないので、参加者が集まらないかもしれません。
ギャンブルが面白いのは、少ない元手で高額を手に入れられる可能性があるからです。裏を返せば、損をする人がたくさんいるギャンブルほど、面白いギャンブルということになります︒
損をした大量の人は、どんどんリスク追求志向になります。損に損を重ねる人が続出して、ギャンブルとしてはものすごく盛り上がります。
主催者にとっては喜ばしいことでしょうが、個人としては、射幸性の高いギャンブルは、ギャンブル依存のリスクを高めることになります。