ネスレ日本CEOが考える「勝ち続けるマーケティング」
2017年05月22日 公開 2023年01月16日 更新
マーケティングを理解すれば、どんな場所でも勝ち方が見つかる
顧客の問題を解決すること。
それがすなわち「勝ち方を知る」ということだ。
顧客の問題を解決できるサービスや商品なら、必ず売れるし、お客様から感謝される。
日本では「マーケティング」という言葉を「販売促進」や「広告宣伝」に近い意味で捉えている人も多い。
だが、そもそも顧客の問題を解決できないサービスや商品であれば、いくらプロモーションに力を入れたところで、市場に受け入れられるはずがない。
裏を返すと、正しい意味でマーケティングを実践していれば、プロモーションしなくてもサービスや商品はヒットするということだ。
どんな場所で働いていても、どんな業務を担当していても、マーケティングを理解すれば、仕事の勝ち方を知ることができる。
日本だろうと海外だろうと、どこへ行っても通用する人材になれるのだ。
もし初めて外国で仕事を任されても、「自分にとっての顧客は誰だろう?」と考え、その国にいる顧客の問題を発見できれば、あとは小さく試しながら勝ち方を見つければいい。
海外へ進出したものの、現地で成功できずに終わる日本企業が多いのは、マーケティングを知らないからだ。
ビジネスの場所が変われば、当然ながら自分たちにとっての「顧客」も変わる。ところが日本の会社は、日本で成功した方法をそっくりそのまま外国でも行ってしまう。
日本で成功したのは、あくまで「日本の顧客」の問題を解決したからに過ぎない。
外国の顧客は、日本の顧客とはまた違った問題を抱えているのだから、それを発見しなければビジネスで勝てるはずがないのである。
中高生の心をつかんだ「キットカット受験生応援キャンペーン」
ネスレは世界191カ国で製品を販売しているが、その「勝ち方」は国や地域によって異なる。
もちろん、グローバルで共通する会社のビジョンや理念があり、各地で発見された問題はすべてスイス本社に報告されるが、スイスにいるメンバーがローカルの問題を完璧に把握できるわけではない。
よって、私たちのように各国で働く人間が、それぞれの場所で顧客の問題を発見するという重要な役割を担うことになる。
「Think Globally, Act Locally」という優れた哲学が生まれたのも、こうした企業風土があってのことだ。
「キットカット受験生応援キャンペーン」も、日本の顧客の問題を発見したことによる成功事例である。
2001年にネスレコンフェクショナリーのマーケティング本部長になった私は、「キットカット」の新たなマーケティングに取り組んだ。
1973年に日本で「キットカット」の販売が始まって以来、「Have a break, have a KITKAT.」というグローバル共通のスローガンを使ったテレビCMが放映されてきたことで、「キットカット」の名前は日本の消費者にも浸透していた。
だが、売上は安定しつつも伸び悩み、チョコレート部門のブランド第1位のグリコ「ポッキー」に大きく差をつけられていた。
従来のテレビCMによるプロモーションに頼っていては、ライバルに勝つことはできない。日本での売上を伸ばすには、ローカル独自の勝ち方を見つける必要がある。
そこで私は、「キットカット」のメインターゲット(=顧客)は誰かを考えた。
答えは、チョコレートを最も消費する10代の中高生である。
ところが、当時の「キットカット」はスーパーマーケットで販売される袋入りが主流で、実際に購入するのは中高生の母親たちだった。
実際に食べてくれる顧客にもっと訴求できるブランドにしたい。
それが私の思いだった。
では、顧客である日本の中高生は、どんな問題を抱えているのか。
それを考えるにあたっては、先に行ったある取り組みがヒントになった。
「日本人にとって“break”とは何か?」を明確にするため、日本の消費者に「あなたにとっての休憩(ブレイク)のイメージを、写真に撮って送ってください」と呼びかけたのである。「理想の休憩」でも「嫌いな休憩」でも、どちらでもOKとした。
そこからわかったのは、日本人が考える「理想の休憩」とは「ストレスからの解放」であるということだ。
仕事や勉強などストレスがかかることを終えた後に、のんびり時間を過ごすこと。それが日本人の求める「ブレイク」だった。
反対に、授業や仕事の合間の短い休み時間は、「嫌いな休憩」として送られてきた。
英語の「break」は「ちょっとひと休み」の意味合いが強く、その後はまたすぐ作業に戻ることがイメージされる。だがそれでは、ストレスから完全に逃れられないと感じる日本人が多いということだ。
この結果を踏まえて、「顧客はどんな問題を抱えていて、どうすればそれを解決できるか」と考えると、1つのコンセプトが浮かび上がってくる。
それが「『キットカット』で中高生をストレスから解放する」というものだった。
そして中高生のストレスと言えば、受験や恋愛、友人関係。
受験生応援キャンペーンは、こんなマーケティングから生まれたのである。
「キットカット」が受験生のストレスを癒すお守りのような存在になっていったのは、こうした経緯があってのことだ。
このように、マーケティングの基本さえ理解していれば、どんな国や会社にいても、必ず勝ち方を見つけることができる。
私は「21世紀はマーケティングの時代である」と確信している。
マーケティングを知れば、個人も企業も、そして日本という国全体も、成長していくことができるだろう。