サラリーマンが日本だけの「絶滅危惧種」となった”悲しき現実”
2019年09月04日 公開 2022年07月08日 更新
30代半ばまでに自分の専門を定めなければ間に合わない
── 会社勤めをしているうちに、オリジナルの「素材」を増やし、長く働き続けるために意識しておくべきルールはありますか。
いちばんのポイントは、「何でも屋にならない」ことです。日本人は自己紹介のときに会社名を名乗りますが、海外では職種を名乗ります。ビジネスで重要なのは、「どの会社に勤めているか」ではなく、「何の専門家なのか」ですから。
日本企業は、ジョブローテーションによってジェネラリストを養成しようとします。高度成長期は今ほど知識・技術の水準が高くなかったため、未経験の職種に異動しても、半年ほど頑張って勉強すればキャッチアップできました。しかし現在では、この水準がとてつもなく上がってしまって、付け焼刃ではどうしようもなくなり、多くのサラリーマンはあきらめてしまっています。
こうして上司(会社)にいわれたことだけをこなそうとするのですが、これはバックオフィスの仕事です。バックオフィスはマニュアル化された責任の少ない仕事。本来であれば、給料も定型化された仕事をこなす非正規の人たちと同程度しか払われません。
知識社会が高度化するいま、スペシャリストとしてキャリアを積んで、海外のライバルたちと渡り合っていけるくらいでないと評価されません。「いろいろやってきたけどスペシャルなものは何もない」。
そんな日本のサラリーマンは、もはや絶滅危惧種です。そうならないために、できれば20代のうちに、遅くとも30代半ばまでには、自分の「スペシャル(専門)」が何なのかを決めなければなりません。
どこで勝負するかを決めたら、あとはそこに人的資本のすべてを集中します。「1万時間の法則」では、ある分野のエキスパートになるには1万時間(約3年)の努力が必要だといいます。圧倒的な才能の持ち主でないかぎり、仮に生得的な能力の違いがあるとしても、ほとんどの場合その差は小さなものです。
プロ(スペシャリスト)になれるかどうかは、投入した時間、つまり「経験値の差」で決まります。経験を積んでいけば、「そのテーマなら彼が詳しい」とか「このトラブルなら彼女に聞いてみれば」といわれるようになるでしょう。
── とはいえ多くの組織では異動はつきもの。そんななかスペシャリストをめざすにはどうすればいいのでしょう?
今いる会社で、「スペシャル」を追求できない部署に異動を命じられたら、同じ職種を維持できる会社に転職するほうがよいでしょう。そもそもこれがグローバルスタンダードの働き方です。
アメリカでは、CEOになるには3~4回の転職が必要とされています。ヘッドハンティングされないような人材は、そのうち誰からも相手にされなくなってしまいます。だから海外のビジネスパーソンは、「営業から総務(経理)に異動した」などという話を聞くと非常に驚きます。
今後は日本でも、欧米のように、スペシャリストを集めてプロジェクト単位で仕事をするようになるでしょう。個人としての評判を獲得し、それがネット上で可視化されれば、自分に適したプロジェクトの依頼がやってくるようになる。だから新しい時代では、若いうちに経験値を上げ、自分の「評判ネットワーク」をつくることが大切になります。
ネットフリックスのような優秀な人材が集まる企業と互角に渡り合うには?
── 個として勝負する人が増えるなかで、日本企業の経営者は優秀な人材を惹きつけるために何に取り組めばいいのでしょうか。
日本企業は働き方をもっと柔軟にする必要があります。子育てしながら共働きしようと思っても、通勤に1時間もかけて週5回オフィスに出社し、フルタイムで働くのは「無理ゲー」です。
働く時間や場所を自由に選べるとか、あちこちにサテライトオフィスを設けるとか、働きやすい環境を意識的につくっていかないと、若くて優秀な社員はどんどん辞めていくでしょう。
現代は、「一人ひとりの自由な選択を最大化する」という意味での「リベラル化」が急速に進んでいます。アメリカでは西海岸を中心に、「仕事も人間関係も自由に選択できる」フリーエージェントの働き方が「クール」と捉えられるようになりました。
彼ら・彼女たちの多くはスペシャリストで、すでに充分なお金を稼いでいます。そのため、組織に所属して無理して働くより、子育てと両立させながら好きな仕事をすればいい、と考えるようになったのです。
すでに日本企業では、優秀な人材がどんどんGAFAなどのグローバル企業に流出しています。ネットフリックスは「優秀な人材には業界最高水準の報酬を支払う」と宣言しているし、シリコンバレーでは他社の優秀なプログラマーを年収数千万、あるいは1億円以上でヘッドハンティングしているという話も聞きます。日本企業とは、そもそも競争の土台が違うのです。