サラリーマンが日本だけの「絶滅危惧種」となった”悲しき現実”
2019年09月04日 公開 2022年07月08日 更新
成功のレールからはずれていたからこそ見えた、「人生の攻略法」
── これまで橘さんは、『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』 『言ってはいけない 残酷すぎる真実』 など、世間でタブー視されてきたものの、人生をよりよく生き、世の中の仕組みを知るために大事なことを本にされてきました。こうした執筆に共通する軸はあるのでしょうか。
私がいちばん知りたいのは「どうすれば自分が幸せになれるか」です。私は大学卒業時にまともに就活をしていません。24歳で友人と編集プロダクションを立ち上げ、40代以降は作家という自営業です。日本社会でこれまで「成功」とされてきたレールからは22歳でドロップアウトしました。
だからこそ、「社会のメインストリームから外れていてもどうすれば幸福になれるか」を真剣に考えるようになった。
いまから振り返ればですが、30代の頃に、人生は「ゲーム」で、「このゲームはどういうルールで成り立っているのか」「どうプレイすればゲームをクリアできるのか」を意識するようになっていたと思います。そのなかで気づいたことを本にして発信してきたのは、読者に「えっ、そうだったの?」と驚いてもらうのが楽しいからですね。
── 具体的に橘さんがとってきた攻略法はどのようなものだったのでしょうか。
一言でいえば「ニッチ戦略」です。優秀な人たちが集まる組織でトップをめざすのは、私からするとレッドオーシャンで、コスパが悪すぎます。その点、ニッチ戦略は小さなマーケットを開拓する手法なのでライバルが少ない。グローバル市場はもちろん、日本だっていまだに世界3位の「経済大国」ですから、小さなニッチでもささやかな幸福を手に入れるくらいの規模は充分にあります。
大きなインパクトを与えたのは、「進化論」の本だった
── 橘さんが人生を切り拓くうえで役に立った本は何ですか。
リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』 などの進化論の本です。ダーウィンの進化論は、1970年代頃から進化によって人間の感情を説明しようとする進化心理学へと発展しました。
とりわけ大きな影響を受けたのは、進化心理学者スティーブン・ピンカーの著書『人間の本性を考える』 です。アウシュビッツの反省から、第二次世界大戦後は、環境決定論が「政治的に正しい」とされてきました。
人の心は「空白の石版」であり、遺伝はいっさい関係なく、すべては子育てや教育で決まるという考え方です。それに対してピンカーは、人間の心や行動のベースには進化の過程でつくられた生得的なものがあるという膨大なエビデンス(証拠)を列挙し、人間に対するまったく新しい理解を読者に突きつけたのです。
身体的な特徴だけでなく、怒りや悲しみ、愛や喜びなどの感情も進化の過程でつくられていることがわかれば、他者(ひと)はなぜこの局面でこう考え、こんな行動・選択をするのかが理解できるようになる。これが「現代の進化論」を学ぶ意義です。
これから何を執筆するかについては、場当たり的に決めているのですが、そろそろまた金融系の小説を書きたいと思っています。そうやって好きなこと続けて、80代になったら時代小説を書くのが目標です。人生100年時代、まだまだチャレンジしていきたいですね。