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「うっかり忘れ」は記憶力のせいじゃない

飯野謙次(スタンフォード大学工学博士/東京大学特任研究員)

2019年11月29日 公開 2022年07月22日 更新

 

子どもの頃の「高い記憶力」の正体

先ほどの、「昔は問題なく覚えることができていた」という話で、もう一つ、「子どもの頃はもっとよく覚えられていました」ということを仰る方がいます。

たしかに、小学校や中学校で習ったことは今でも多く思い出せるものです。

一方で、大学以降に学んだこと……さらに言えば、社会人になって出会った人やモノの名前は覚えられない、という方も多いのではないでしょうか。

しかしこれも私は「記憶力が低下したから覚えられない」というのは主原因ではないと考えています。

子どもの頃に学んだことを覚えているのは、そのことが基本的なため、その後何度も繰り返し思い出しているから。言い換えれば、大人になって学んだことは重要ではないから、覚えていないのです。

その本質は、「学習の刷り込み不足」です。たとえば取引先の担当者名を思い出すことができず、相手を不快にさせてしまったとき、その原因は「思い出す力」ではなく、「そもそもちゃんと覚えられていなかった」ことにある、というわけです。

ただし、学習を入念にして自分の脳に覚え込ませようと考えても、日々膨大な情報を扱っている私たちにとっては、それは負担でしかありません。担当者の名前を覚え込もうとして何度も名刺を眺めているのは、仕事においてはまったくの無駄です。

それならば、メールの文章を書くたびに相手の名前を入れておくとか、資料に担当者の名前や所属を書いておくなど、定期的に思い出せる仕組みをつくるか、思い出さなくても自然に問題をクリアできる仕組みを考えたほうがよいでしょう。

 

「能力アップ」よりも大切な仕事の基本

この考え方こそが、大人の記憶力アップのもっとも簡単な方法であり、「うっかり」や「失念」を撲滅するための最短ルートです。
「自分で覚えなきゃ」「気づかなきゃ」という気持ちを捨ててしまえばいいのです。

日本にはとくに、

「以後気をつけます」
「徹底します」
「学習して、できるようにしておきます」

のような精神論がお好きな方が多いようですが、これらはミスや失敗に対してはまったく効果がありません。

そうではなくて、「自分がどんなに覚えられなくても、問題が起こらない仕組みをつくる」「自分がどんなにぼんやりしていても、気づける仕組みをつくる」という仕組み化の精神こそが、着実に仕事で成功していくため秘訣です。

そして、自身の記憶力や注意力は本当に大切なことに割くことにして、仕事にも私生活にも、メリハリを持つようにしてください。

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