「やらなかった」後悔の記憶が、健康に及ぼす悪影響
2019年01月28日 公開 2023年01月23日 更新
「加齢によって、記憶は衰える」は一般的なイメージだろう。だが、神戸大学大学院准教授の増本康平氏によると、人間のメカニズムはもっと複雑だという。
しかし、記憶力が衰えても消えない記憶が「後悔」である。そしてその感情と記憶は年齢を重ねるほどに、心身に悪影響を及ぼすという。
高齢者心理学の立場から、若年者と高齢者の記憶の違いなど、老化の実態を解説した増本氏の著書『老いと記憶 加齢で得るもの、失うもの』にて、「後悔の記憶」をコントロールする方法を示した一説を紹介する。
※本稿は増本康平著『老いと記憶 加齢で得るもの、失うもの』(中公新書)より一部抜粋・編集したものです。
認知機能が高いから感情のコントロールがうまいわけではない
ダニエル・ゴールマンの『EQ こころの知能指数』という本がベストセラーとなり、一般的にも知られるようになった感情知能(EQあるいはEI:Emotional Intelligence Quotient)という概念がありますが、感情調整は感情知能を構成する一つの機能でもあります。
EQは感情のコントロールや相手に共感する能力といった感情に関連する機能を指し、記憶検査を含むさまざまな認知機能の検査を統合して算出されるIQ(Intelligence Quotient:知能指数)とは区別されます。
そのため、IQが高いからといって必ずしもEQが高いわけではありません。高齢者の方に「人生の重要な出来事」を想起してもらう実験では、IQと関連するワーキングメモリや処理速度の検査に加えて、EQの検査も実施していました。
EQとワーキングメモリ、処理速度の成績にはやはり関連がなく、素早く複雑な課題を実行できるからといって、感情のコントロールがうまいわけではありませんでした。
しかしながら、「人生の重要な出来事」として想起された良い出来事および悪い出来事の個数とEQとの間には関連性が認められました。
つまり、「人生の重要な出来事」を思い出すように言われ、良い出来事を思い出す人ほど感情のコントロールがうまく、嫌な出来事を思い出す人ほど、感情のコントロールの得点が低かったのです。
この結果は、どれだけ記憶できるか、どれほど速く情報を処理できるかといった認知機能のパフォーマンスよりも、どのような情報を思い出すのかという、処理される情報の質がEQと関連していることを示しています。
そして感情は、経験に対する結果(反応)として生じるだけではなく、その後の行動の選択に大きく影響することが知られています。特に高齢期では、高齢者のQOLを維持し、後悔なく人生の最後を迎えるうえで、意思決定の役割が重視されています。