「死んでしまいたい」と絶望感を吐露する人に、誰がどう対応すべきか?
2020年07月22日 公開 2023年09月12日 更新
《日本の自殺死亡率は、G7のなかでワーストである。厚生労働省によれば、長らく十代~30代の若者における死因の1位が自殺であり、40代でも2位、50代前半でも三位に入る。どうして日本ではここまで自殺が多いのだろうか……。
自殺予防に詳しい精神科医・河西千秋氏は『Voice』8月号にて掲載された「コロナとの闘い、自殺対策を急げ」にて、自殺対策のために国、自治体がすべきことを挙げている。本稿ではその一部を紹介する。
本稿は月刊誌『Voice』2020年8月号より一部抜粋・編集したものです。
自殺対策に真剣に取り組む自治体は少ない
岩手医科大学神経精神科医師が舵をとり、自殺予防のための緻密な行動計画を策定し、実行した。さらに、自治体の保健師をはじめ、引退後の保健師や看護師の参画により、地域の風土を踏まえた啓発活動が行なわれた。
支援者たちによるネットワークの構築と、対面を重視したメンタルへルスの見守り活動など、人びとの気持ちが入ったメンタルへルス対策によって、自殺者数減少の流れを実現させている。
このような事例はたしかに存在するものの、ここまで自殺対策に真剣に取り組んでいる自治体は稀だ。多くのの場合は、国の自殺総合対策大綱をなぞるかたちで行動計画文書をつくり、そこに書かれたことを断片的に実施しているだけである。
もしかしたら、「いまは新型コロナ対策で自殺対策どころじゃない」という意見もあるかもしれない。しかし、久慈地域では災害時には災害弱者をいち早く同定した実績があり、東日本大震災の被災者支援にも自殺対策活動の枠組みが活かされている。
新型コロナのパンデミックは大規模自然災害に類するもので、住民が被る影響やメンタルへルスへの影響も類似している。つまり、自殺対策に強い自治体は、今回の非常時でも力を発揮できるはずだ。
北海道の別海町でも、町長の賛同を得てメンタルへルス・リテラシーの向上とネットワーキングの構築により、自殺を低減させようという地域活動が開始されている。しかし、北海道のような数多くの市町村を抱える地域でも、このような本格的な取り組みは初めてのことである。
自殺予防に求められる「マインド」
私はかつて、神奈川県・大和市で、3カ年計画において精力的に地域自殺対策に取り組んだことがある。役所では、「困っている人が役所の相談窓口に来るのだから、つねに自殺予防のマインドで対応にあたろう」ということになった。
具体的には、まずほぼすべての相談対応従事者が、自殺予防の基本を学ぶ研修会を受講した。窓口では、元気のない人をはじめ、「死んでしまいたい」「消えてなくなってしまいたい」「終わりにしたい」といった絶望感を口にしたり、「自分のせいで」と自己否定を表現する人にはより注意を向けた。
同様に、相談を受ける過程で、自殺未遂や自傷行為の既往があることが判明したり、自死遺族の方だとわかったときも、踏み込んだ対応をこころがけた。また、専門職などからなるコーディネート・チームを設け、とくに難しい相談にも対応。
各部署が参加する定期的な打ち合わせを行ない、窓口対応でのネガティブワードや、相談内容を振り返り、難易度の高い相談については対応の妥当性を確認した。
上記の実施内容を簡単にいえば、「相談者の身になって考える」というだけの話だが、市役所職員が、自殺対策を役所の業務の一環と認識し、対人支援の本質を理解(つまり具体的にその人の役に立つ支援を行なう)したうえで、行動するというマインドがなければ、なかなか自殺予防にはつながらない。しかし、コロナ禍のいまこそ、そういった対応が求められているのだ。