仕事と家族の世話との両立を図るために「最短距離」で「最大の成果」を生み出す仕事術を極め、多くのビジネスリーダーから支持される佐々木常夫氏。
そんな佐々木氏には自身の生き方働き方を教えてくれた言葉があるという。仕事やコミュニケーションの方法、家族との接し方など、あらゆる面で大きく変わろうとしている現在において、それでも変わらない働くうえでならびに生きるうえで大切なこととは。
※本記事は、佐々木常夫著『ビジネスマンの教養』(ポプラ社刊)より、一部を抜粋編集したものです。
時間は命。人生で後悔しないために
「時は命なり。時計の針は時間を刻んでいるのではない。自分の命を刻んでいるのだ。」
これは、日清食品の創業者で、「チキンラーメン」「カップヌードル」の開発者として知られる安藤百福の言葉です。
私もまた「時は命なり」という思いを抱きながら、生きていた時期があります。
それは妻が肝臓病とうつ病を併発し、療養生活を余儀なくされていた頃です。
当時、私は多忙な仕事と家族のケアで時間に追いかけられていましたが、「仕事も家庭も、絶対にあきらめない」という心境でした。
仕事では、「より強い影響力をもつポジションに就いて、自分の力をどこまで発揮できるか試してみたい」という強い思いがありました。一方、家庭では、「なんとかこの家族を守りたい。幸せにしたい」という思いもありました。
ただし、仕事と家庭を両立させるのは、大変なことでした。
妻が入退院を繰り返し、うつ病から死への思いが強くなっていた時期でしたし、私の長男は自閉症者でこの頃は幻聴がひどい時期であり、一人で自分の身の回りのことをするのが難しくなっていました。私は仕事に追われつつも、同時に妻と長男の世話や家事について、すべて自分がしなければなりませんでした。
朝早く起きて、自分と妻、長男の分の朝食をつくって食べると、すぐに家を飛び出して電車に乗ります。電車の中では「今日は12時までにあの仕事を片付けて、15時までにあの報告書を書き上げて、18時には会社を出て……」と、今日一日の自分のタイムマネジメントを考えていました。そして会社に着いたら、集中して仕事に取り組みます。
こんな話をすると、「家庭がそんなに大変な状況だったなら、仕事をやめるか、もう少し楽な仕事に替えてもらうかにして、家族のための時間をとるべきだったのではないか」と言う人もいました。
しかし、私はそうしませんでした。
なぜなら仕事は、私を支えてくれる大きな柱だったからです。
あのとき、家族のために仕事をあきらめていたら、おそらくそのことを一生後悔していたでしょう。自分の境遇を恨んだかもしれません。それは家族にとっても幸せなことではなかったはずです。
私には、家族もまた、自分の心の中で大きな比重を占める存在でした。だから私は、「仕事か家族か」の二者択一ではなく「仕事も家族も」両方とも取ることにしたのです。
人生ではときに選択を迫られます。二つのうち、どちらか一方だけを選ばなくてはいけないときがあります。
しかし、どうしても選べない。どちらも欲しいけれど、どちらかを取ったら、きっとひどく後悔するだろう場合があります。そんなときには覚悟を決めて、両方とも引き受けてみることです。
ただし、そのときは「時は命なり」という気持ちで、物事に臨んでいくしかありません。どうすれば両立が可能になるか。徹底的に考え抜いて、どちらの目標も勝ち取るのです。
これは大変なことですが、私は自分自身の経験から少々のことは「決意と覚悟があればできる」と思っています。そして、実現できたときには、大きな喜びと達成感を得ることができます。