実は「民」が「官」よりも時代遅れ!?
――官公庁が率先して改革を進める場面が今後も増えてくると、その流れについていけない民間企業が(悪い意味で)目立ってきそうですね。
【沢渡】実は意外と、官公庁よりも民間の方が古い仕事のやり方を温存しているケースが散見されます。支払いや請求といった日常における手続きについて、PDFを認めなかったり、紙の提出を求めたりする企業は少なくないです。紙ベース、判子ベースから抜け出せていないと感じる場面はまだまだありますね。
官公庁や行政は、法律に近いところにいる分、敏感な立ち位置なんですね。「ここまでは電子でOK」と法案が変わったとすると、それをすぐに察知して、これまでの慣習をやめたり緩めたりする。そんな肌感覚は感じますね。
ところが民間の場合、内部規定という形で、何気なく時代遅れの慣習を温存してしまう側面があります。改善のモチベーションも生まれにくいですし、「ウチはこのやり方がルールなんです」という思考停止フレーズを振りかざす組織も多いですよね。
――身近なところでも心当たりがあります……。耳が痛いです……。
【沢渡】今回の件をきっかけに、「イケてない」「進化できない」「ざんねんな」企業がどんどんあぶり出されていくでしょうね。その意味でも、官公庁が動いた意義は非常に大きいと思います。
PPAPは「ざんねんな組織」の象徴?
――「PPAPを放置している」という事実から、相手に無駄な手間を強いる身勝手さや、無自覚さまでもが透けて見えてしまうのが恐ろしいですよね。PPAPは氷山の一角で、その背後に無数の「ざんねんな仕事」や「ざんねんな思考」が見え隠れするというか。
【沢渡】そうですね。実際、PPAPを無自覚に放置している企業は、他の「身勝手」も放置しているケースが往々にしてあります。私も大企業のクライアントを何社か抱えていますが、PPAPを続けているところは、見積書や請求書が郵送のみ(押印必須)、オンライン打ち合わせ不可といったこともセットでついてくる傾向がありますね。総じて時代に取り残されていると感じます。
さらにいえば、そうした時代の遅れのやり方を放置する企業は、知らず知らずのうちに自社のブランド価値を下げているんです。「取引先にムダな手間をかけさせる身勝手な企業」というメッセージを社外に発しているようなものですから。「ざんねんな組織」のイメージしか与えないですよね。このことに無自覚な人が多すぎます。
中にいる社員や協力会社の人たちの、いわゆるエンゲージメント(会社への帰属意識、愛着)にも関わってくる話です。意味がない、集中力は削がれる、本業とは関係ないところで足を引っ張られる、そんな悪習が放置されている組織に対して誇りを持てるわけがないですよね。一方で、社内のエンゲージメントが高ければ社外からの評判も良くなるというサイクルもあります。社会の動きに適応する企業と取り残される企業の差は、ますます開いていくでしょう。
官公庁が動いたことで、民間もいよいよ言い訳が通用しないフェーズに突入しました。「官」ですら変われるわけですから、「民」だって変われないはずはないんです。ぜひこの波に乗って、PPAPに限らず、紙やハンコベースの仕事の進め方だとか、過剰なビジネスマナーなどの形骸化した慣習について議論して、時代遅れの「仕事ごっこ」をやめる企業が増えていってほしいですね。