「現場から改善提案が出てこない!」
「だれも本音を言ってくれない!」
「働き方改革」のかけ声のもと、しきりに業務改善を呼びかけるトップや人事部門。しかし現場がなかなかついてこない。表面的な「改善しぐさ」は見られても、結局のところ根本は何も変わっていない。
なぜほとんどの「改善プロジェクト」は失敗に終わるのか。業務プロセス・オフィスコミュニケーション改善士の沢渡あまね氏は、意見や提案がおこなわれないのは、社員やメンバーの「この組織を信頼していません」のメッセージである可能性が高いと指摘する。
本稿では、沢渡氏の共著書『業務改善の問題地図』より、あらゆる組織に通用する、「現場が本音を言わない理由」について書かれた一節をご紹介する。
※本稿は、沢渡あまね、元山文菜著『業務改善の問題地図 ~「で、どこから変える?」進まない、続かない、だれトク改善ごっこ』(技術評論社刊)より一部抜粋・編集したものです。
日本の組織にあふれる「かけ声だけの業務改善」
社長が「働き方改革」を強調。小さなことからでも改善するよう社内にメッセージを出し続けている。
役員が社員との対話会を開始。現場の社員に「無理」「無駄」「おかしい」を指摘してもらえるよう、全国の事業所を行脚している。
人事部が改善風土の醸成に必死。改善を啓蒙する社内講演会をやり、ポスターも貼り出して、社内への啓蒙活動をしている。
部課長が「改善をしてくれ」と部内、課内にしつこく言っている。
にも関わらず……
「現場から改善提案が出てこない!」
「だれも本音を言ってくれない!」
そして、今日もトップや人事部門だけが空回り。
「なんでここまでやっているのに、ウチの社員は動かないんだ!」
だんだんと、トップも人事部門の人たちも虚しくなり、モチベーションが下がってくる(人間だもの)。
この事象、日本の組織あるあるです。なぜ、現場から改善提案が出てこないのか? 社員が本音を言わないのか? まずは、その背景を見てみましょう。
現場が「改善提案しない」「本音を言わない」9つの背景
現場が意見を言わない。改善提案がおこらない。本音を言わない。それどころか、日常のヒヤリ・ハットすら共有されない。その背景は組織によりさまざまですが、大きく9つに分類することができます。
(1)怖くて言えない
職場では、ましてや役職者の前では、社員はなかなか本音を言えないものです。
(2)空気を読んで言わない
「この報告書、毎日作成する意味あります?」
「これ、電子でもよくないですか?」
「この定例会議、対面じゃなくてもよくないですか? リモートにしません?」
そうは思っていても、わざわざ言わない。なぜなら、みんながんばっているから、そんなことを言ったら「空気を読まない子」だと思われるから。
「だったら、その場で言わずに、日をおいて言えばいいのでは?」いやいや、そんな時間も隙もありません。なぜなら「働き方改革」で雑談はおろか、ちょっとした相談すら憚られますから。
(3)テーマがない
いきなり無理、無駄を洗い出せといわれても、何らかの基準や考え方の指針、あるいは具体例など「テーマ」がなければ、思考停止して当然。何を無理、無駄と言っていいものかが、そもそもわからない。当然、改善策にも思いを馳せられない。
(4)言語化できない
意外と気づきにくいボトルネックがこれ。問題や課題を言葉にできない。よって、みんなモヤモヤと心に不満を抱えているだけで、それが組織内で問題・課題として顕在化しない。
(5)気づかない/気づけない
「無駄を洗い出せ」そう言われても、ポカン。なぜなら、自分たちの仕事に無駄があるなんて思っていないから。
ある意味当然で、たとえば同じ人が同じ仕事を5年、10年続けていたら、そのやり方が無駄などと思わないようになります。あるいは、前任者に気を遣って、口が裂けても「無駄」だなんて言いません。私たちは、心優しい日本人だもの。
(6)無力感
もっとも闇深い背景。
なぜ、社員が改善提案しないか?
現場が本音を言わないか?
些細なヒヤリ・ハットすら報告しないか?
無力感しかないからです。
・頭ごなしに否定される
・実行されたためしがない
・報告書を作成する作業や、説明するのが面倒
そりゃ、わざわざ改善提案なんてしなくなりますわ。
(7)トクしない
改善提案しても、評価されない。改善して仕事を効率化しても、残業代が減るだけ。あるいは、その分、面倒な仕事が新たに降ってくる。
だったら、何もしないほうが得策。
(8)サポートしてくれない
改善提案したら最後、自分がすべてやるハメになる。いわゆる「言ったもの負け」。
(9)愛着がない
そもそも、組織に愛着がない。よって、わざわざ意見する義理もない。
いかがでしょう? あなたの所属する組織では、どれが最も当てはまりそうでしょうか?(え、全部当てはまるですって!?)