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中学数学レベルでもメディアは勘違い? コロナ禍の「接触8割減」の正しい意味

小山信也(東洋大学理工学部教授)

2021年07月02日 公開 2024年12月16日 更新

 

「外出」が2倍、3倍になれば「接触機会」は4倍、9倍に

【優】僕は、「外出を8割削減するもの」と、すっかり誤解していました。

【ゼータ】当然、外出が増えれば、接触機会も増える。こういうとき、人は無意識に「比例関係」を想像してしまいがちなんだ。

【景子】比例関係とは、「外出が2倍、3倍になれば、接触機会も2倍、3倍になる」という意味ですね。

【ゼータ】数学は、人が無意識に抱いている数や図形に対する感覚を、論理的に正しく考え直す学問なんだよ。

【優】正しく生活していくうえで、数学は必要なんですね。

【ゼータ】さっきは4人家族で説明したけど、同じ原理は街の人出にも当てはまる。100人が外出した街は、こんな100×100のマス目で表せる。

【優】家族のときは、縦軸と横軸に家族Aと家族Bをとりましたが、街のときは、どうするんですか?

【ゼータ】家族どうしはもともと濃厚接触だけど、街では全員と新たな接触が起きる。この場合、縦軸と横軸を同じ100人とすればいいよ。

【景子】自分自身との接触だけは例外ですね。図の対角線上のマス目です。

【ゼータ】その例外は、全体からみればごくわずかな割合なので、無視しよう。ここで、50%の外出削減をすると、接触は色付けのマス目になる。

【優】色付けのマス目は全体の4分の1ですね。25%に減っています。

【景子】やはり、家族のときと同じように、50%の外出削減により、接 触機会の削減は75%となりますね。

【ゼータ】外出と接触機会の関係は比例ではない。外出が2倍、3倍になれば、接触機会は4倍、9倍になる。これが正しい関係なんだ。

【優】「8割の外出削減」は、自分以外が自粛しない、以前と同じ環境を仮定した場合ですよね。ああ、何で気づかなかったんだろう!

【ゼータ】まあ、実際に自粛を始めたら、電車や飲食店が空いた光景が日常的に見られるようになったので、この矛盾に気づいた人もいただろうね。

 

マスコミも違いを分かっていなかった?

【景子】でも、緊急事態宣言が発令された当時は、どのマスコミもこの点を指摘していませんでしたね。

【優】日本国中が、「外出の8割削減が目標」と、誤解していたのでしょうか。

【ゼータ】「何の8割なのか」をきちんと考えていない報道が多かったね。

【景子】緊急事態宣言では、「接触機会の8割」と明言していましたが、それが「外出の8割」のことと思い込んでしまった人が多かったんですね。

【優】できれば、緊急事態宣言で国民に、「外出は何割削減すればよいか」を言って欲しかったな。6割と知っていたら、少しは安心できたのに。

【ゼータ】数学を知る者は、皆、当初から違和感を持っていたよ。

【景子】「数学をする」って、こういうことなんですね。

【優】生きていくうえで、あなどれないことですね。

【景子】でも、みんなが「外出の8割削減」を目指して頑張ったおかげで、なんとか6割削減が達成できたのかもしれませんね。

【優】最初から「6割でいいんだ」と知っていたら、目標は達成できなかったかもしれません。知らなかったとはいえ、第一波の収束のためにはよかったですね。

 

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