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温泉が目的の“一人旅”...全国3600湯を巡ったマニアが教える「いい湯」の見極め方

高橋一喜(温泉エッセイスト)

2021年08月13日 公開 2022年02月04日 更新


栃尾又温泉(新潟県魚沼市)

「温泉」は、日本人にとって所縁のある文化の一つだ。家族や友人との温泉旅行は、年に数回の特別な行事であることは言うまでもない。

温泉エッセイストの高橋一喜氏は、1人で温泉旅をする「ソロ温泉」を推奨している。ストレスの多い現代人には、温泉をたしなむ時間が必要であり、人との接触を控えたいコロナ禍こそソロ温泉が有効だと主張する。

ソロ温泉を実行してみたい。でも不安もある…。本稿では、そのような不安を解消し、ソロ温泉をさらに充実させるための知識を紹介する。

※本稿は、高橋一喜 著『ソロ温泉―「空白の時間」を愉しむ―』(インプレス社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

長くつかるなら「ぬる湯」

「せっかく温泉に行っても、熱くてすぐにあがってしまう」といった悩みをよく聞く。温泉に長くつかれないなら、温泉や自分自身と向き合うのもむずかしい、と心配する人もいるかもしれない。

たしかに、長くつかっていられる湯船のほうが、ソロ温泉のコンセプトとは相性がよい。

先に断っておくと、「温泉=熱い湯」とはかぎらない。地中から湧き出してくる温泉の泉温はさまざま。100℃を超える温泉もあれば、水のように冷たい温泉もある。

「冷たいなら『温泉』ではないのでは?」と疑問をもつかもしれないが、1948年に施行された「温泉法」では、地中から湧き出す温水が25℃以上であれば温泉と認められている。25℃といえば、体感はほぼ水だが、法律上は立派な温泉なのである。

実際の温泉施設は、41~43℃くらいの少し熱めの湯が主流である。だが、ソロ温泉を満喫するには、夏場であれば35~37℃くらい、春・秋であれば38~40℃くらいのぬる湯がベストである。

ぬるめの湯は、人間の体温と近いので最初は冷たく感じるが、長時間つかっていると、じんわり体の芯まで温まってくる。長風呂になれば、その分、温泉成分を十分に肌から吸収することもできる。湯上がりのさっぱりとした清涼感も、ぬる湯ならではの気持ちよさである。

私は、ぬる湯なら平気で1時間くらいつかれてしまう。ただただ湯船につかることで、脳も体も軽くなり、リフレッシュされていく。

42℃以上の熱い温泉は、緊張や興奮状態の交感神経が優位に立ち、戦闘態勢となる。一方、37~40℃のぬるめの温泉だと、気持ちをリラックスさせる副交感神経が優位に立ち、落ち着いた気分になる。日常のストレスを解消するのがソロ温泉の目的であることを考えれば、ぬる湯のほうがよりふさわしい。

ちなみに、最近はサウナがブームであるが、個人的には蒸し蒸しとした熱さに耐えられない。すぐに息苦しくなってしまう。サウナは熱効果により短時間で戦闘態勢になるには適しているかもしれないが、ソロ温泉のコンセプトに照らし合わせると刺激が強すぎるように感じる(サウナ後の水風呂も交感神経を刺激する)。

私のお気に入りのぬる湯は、新潟県魚沼市にある栃尾又(とちおまた)温泉である。ぬる湯の名湯として知られ、泉温は約36℃。加温も加水もされていない100%かけ流しだ。透明の湯はピュアそのものである。

体を湯船に沈めると、最初は少々冷たく感じるが、すぐに体になじむ。体温とほぼ同じ泉温なので、熱くも冷たくも感じない不思議な感覚に襲われる。湯と体の境目があいまいになる、心地よい一体感。

そんな絶妙な泉温だから、どうしても長風呂になる。1回の入浴で2時間つかるのは当たり前。常連客の中には5時間入浴する強者もいるとか。

入浴客のほとんどは目を閉じ、お地蔵さんのようにじっと動かない。湯口から注がれるドボドボという音だけが、浴室内に響きわたる。私もそうだったが、あまりに気持ちいいので眠気に襲われ、いつのまにかウトウトと夢の中へ。だから、気づいたときには、あっという間に1~2時間が経っている。

栃尾又温泉は、3軒の宿が寄り添うように建つ静かな温泉地。ひたすら入浴して、おいしい地元のご飯をいただいて、たっぷり眠る。ソロ温泉で英気を養うにはもってこいの環境である。

なお、ほかには駒の湯温泉(新潟県)、貝掛温泉(新潟県)、下部温泉(山梨県)、岩下温泉(山梨県)、川古温泉(群馬県)、祖谷温泉(徳島県)、長湯温泉(大分県)、湯川内温泉(鹿児島県)などがぬる湯の名湯として知られる。

熱い湯が苦手な人には、ぜひぬる湯の温泉にチャレンジしてもらいたい。

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