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思い通りに「意見が通る」テクニックとは

和田秀樹(精神科医)

2012年05月11日 公開 2022年12月26日 更新

「仕事で意見が通らない」、「やりたいプロジェクトを任せてもらえない」といった悩みを抱えてはいないだろうか。そんな時には、相手にYESと言わせる心理テクニックで状況を打破できるかもしれない。精神科医・和田秀樹氏が、「意見を通す」ためのノウハウを紹介する。

※本稿は、和田秀樹著『なぜあの人の意見が通るのか』(PHP研究所)より一部抜粋・編集したものです。

 

なめられたときには牙をむけ

東日本大震災にともなって福島第一原発で事故が起き、これを機に始まったのが「東京電力叩き」である。これまで東京電力は、テレビ、メディアの大スポンサーだった。だからテレビで「電気科金が高い」などというコメントは、口が裂けでも一言えなかった。

それなのに最近は、価格そのものへの不満のみならず「なぜ、電気料金に社員寮費や福利厚生費まで乗っけているのか」という突っ込みまでが聞かれ始めた。会社の福利厚生費は、人件費の一部と考えていいはずであるにもかかわらず、だ。

それを言い始めたら「東京ガスだって同じだろう」とツッコミたくなるが、いまや東京ガスはテレビ局にとって、東電に代わる大スポンサーだ。だからマスコミは一切触れない。つまり悪口を言う側も、「言ってもいい相手」を選んでいるのである。

いじめの対象に選ばれるのは、いじめても反抗しない人だ。会社員なら、一度は上司から怒られた経験はあるだろう。でもそこで牙を見せないと、ずっと怒られ続ける。「いじめられっ子」になってしまう。

東京電力だって、いまでもテレビ局に全く貢献していないわけではない。自粛広告や節電のお願いなど、一定の広告費をメディアに投じている。もっと言うなら、福利厚生費用どころか、広告費だって電気料金に乗っかっているのだ。

だからいっそ「これらの広告宣伝費用をすべて福島の復興費用にあてます。違約金はいくらお支払いしても構いません」と言い、すべての宣伝費用をテレビ局から回収するという戦法だってとることができる。でも、叩いてもそこまでやらないと思われているから、いじめられ続けているのだ。

もし私が東京電力の社長なら「電気料金には福利厚生費や広告費が含まれているため、見直しを図ります。ただし、ガス料金についても同じだと思うので、合わせて見直していただけませんでしょうか」と言うだろう。

「ずっと黙っている奴ではない」と思わせなければ、さらにいじめられ続けるからだ。「怒られて済むんだったらそれでいい」と思ったが最後、怒られ屋になってしまうのである。とはいえ、下手に牙をむいて、社内で不要に敵をつくるのは避けた方がいい。敵に回した人が巡り巡って牙をむき、攻撃側になって再登場することもあるからだ。

2001年9月に起こった米同時多発テロの首謀者であるウサマ・ビンラディン氏は、10年後の2011年、アメリカ政府に殺害された。血で血を洗うような事態がこれで収束するのかはともかくとして、そもそもビンラディン氏がアメリカを攻撃したのは「恨み」があったからだ。

確かに90年代以降のアメリカは、少し行きすぎたように思う。湾岸戦争を起こし、紛争地城に空爆を加えて制圧した。だからテロ攻撃を受けたとき、世界中が悲しみに包まれる一方で、「ざまあみろ」と思った人も少なからずいたのではないだろうか。

勝負とは、そのときに勝てばいいというものではない。アメリカのように、しこりを残したら最後、大きなしっぺ返しをくらう可能性がある。

だからテロ後のアメリカは、大規模な情報戦を行った。悲しみに暮れる遺族の姿を大写しにして取り上げ、世界中がアメリカに同情するような環境を作り上げた。さらに、ワールド・トレード・センタービルに飛び込んでいった消防士を「勇者」として讃えた。「自己を犠牲にしてもテロに屈しない」ことをよしとしたのだ。

さらに世界中が「テロと戦う」モードになったところで、アフガニスタンへの攻撃を開始した。戦争をするにもかかわらず、その正当性を全世界に広めたうえで、恨みを少なくする方法をとったのである。

これでさらなる恨みを買っている可能性もなきにしもあらずだが、湾岸戦争のときに比べたら、「やられた相手には牙をむいてしかるべき」という風潮ができ上がっていた。

なかには、不当な評価をしたり、モラル・ハラスメントのように言葉によるいじめで追い込んだ挙句、自主退職を迫る上司や会社もあるだろう。そうなれば、精神や人生まで台無しになってしまう可能性もある。

泣き寝入りせず、必要なときは牙をむくことが必要なのだ。

いじめっ子は、いじめても怒らない人を選んでいる。意見を通すためだけでなく、身を守るためにも「黙っている奴ではない」と思わせる必要がある。

 

有言実行でハクをつける

議論の強い弱いは、会議室だけで決まるのではない。会議が終わった後の活動にもかかっている。自分の意見をきちんと実行に移す人は、その後の発言力もどんどん強くなる。つまり、目指すべきは有言実行だ。

野田佳彦首相は一見地味だが、誰もがやりたがらない消費税の増税とTPPを進めている。もちろんそれなりの思惑があるのだろうし、そのことがいいとは思わないが、ただ首相の座にいるだけの人に比べると、このような言動をすることによって存在感が増す。

有言実行タイプの人は、その行動力から社内でも一目置かれる存在になりやすい。そのうえで新たな企画を出すと、「本当にやるつもりなんだな」という耳で聞いてもらえる。企画の内容はさておいても、相手は真剣に聞いてくれるはずだ。

インターネット創成期に、私の周囲にいるITに詳しい連中は口々に「あの検索の仕組みは俺も考えていた」「ネットショッピングは僕の方が早くから考えていた」と言っていた。

しかし、誰でもできるものであれば、やらないと意味がない。実行に移さなければ、それは考えていないのと同じなのだ。

その意味で、褒め讃えるべきはGoogleだろう。Yahoo!もMSNもすでに浸透している中で、あえて新たな検索エンジンを投入してきた。Facebookが日本に進出したのもmixiの何年も後だったが、急激にユーザー数を伸ばしている。だから、やるかやらないか、の差は大きいのだ。

歴代首相の中で、野田さんは地味な方だ。しかし消費税やTPPの問題に取り組んでいるという意味では、おそらく「やるオトコ」の部類に入っただろう。駅前での演説活動も、財務相に就任する前日まで24年間続けたと聞く。

岩のような粘り腰が、少なくとも彼の意見に信憑性や信頼性を与えているのではないだろうか。「これまでやってきたこと」も、その人の意見を判断するうえで重要なファクターだ。

とはいえ、あなたの過去の言動には、正しいものだけでなく失敗の1つや2つもあるだろう。上司があなたの過去の失敗にこだわり、GOサインを出してくれないのであれば、最後の手段に出ることもできる。ズバリ「やってみないとわからない」作戦だ。

ハンバーガーチェーンのマクドナルドは、業界の値下げ兢争をリードする会社と認識されている。しかし円安でコスト増になった2002年から、実質的な値上げ戦略を行った。そしてその結果客が離れ、次の一手としてまた値下げをした。

これを方針が定まっていないと見る向きもあるだろうが、実のところはやってみないとわからなかったのではないか。

客離れを予想していたスタッフもいたかもしれない。でも、だからといってコスト増を吸収できるほどの対策を簡単に講じることはできない。だから一か八か、値上げにかけたのかもしれない。やってみるまでは、それが本当に間違っているとは言えないのだ。

不景気のとき、いままではずっと金利を下げ続けてきたが、それでも景気は上向かない。だとしたら、金利を上げてはどうなのか。これまでの常識が通用しなくなっているわけだから、それが確実に失敗だとは誰にも一言えないはずだ。

だからいくら議論を重ねてもわかってもらえないときは、「やらせてください」「やってみないとわからないじゃないですか」で押し通す。不確定要素が多く前提条件すら読めない世の中なのだから、「やってみないとわからない」は間違いではなく、一理ある意見なのである。

ちなみに蛇足ながら付け加えると、「プロジェクトが失敗したら責任をとって辞めますから」というようなノリの発言は止めた方がいい。あなたは「やってみないとわからない」と強引に意見を適しているのだから、本当に責任をとらされることになるかもしれない。

言ったことは実行する。これに勝る説得力はないのである。過去の実績が不足しているなら、「やってみないとわからない」で押し通す方法もある。

 

ギャラリーを味方につける

私は議論を取り巻く人々のことを「ギャラリー」と呼んでいる。

意見を通す際に周囲を取り囲むギャラリーの存在はとても重要で、ギャラリーがどちらの側につくかによって、その議論の明暗が分かれることも多々ある。

田中眞紀子さんは、ギャラリーを味方につけるのが上手かった。

外務大臣時代、外務省のお役人と対立していた眞紀子さんは、外務省を伏魔殿と呼んでいた。眞紀子さんの意見すべてが正しいかどうかはわからないが、彼女はギャラリーであるマスコミを通じて、これまた最強のギャラリーである国民に、自らが置かれている境遇を上手く訴えた。

すると最強のギャラリーは「外務省が田中眞紀子さんをいじめている」「眞紀子さんを追い詰めるために、外務省は外交機密をリークしているのでは」という憶測を始めた。ギャラリーの心を上手くつかんだ例である。

ギャラリーの心理に訴えかける長大の武器は「涙」だろう。小泉元首相が田中眞紀子氏を外相から外したとき、田中氏は一生懸命やってきたつもりだったんですが」とマスコミの前で涙を見せた。歯に衣着せぬ物言いと行動力で強気なイメージが強かった田中氏だけに、涙を見せたのは意外で、心に訴えかけるものがあった。

涙が武器になるのは、女性だけではない。山一詮券の野澤正平元社長も廃業発表の場で涙を流した。会社を潰したくさんの失業者を出したという意味で、被は同情を集められる立場ではない。しかし自分の非を認め、涙を流したことで、実際に犯した罪以上の悪い印象は残らなかった。

もちろん、ビジネス上の会議ではそうそう簡単に涙を流せない。むしろ泣き始めると「こんな奴に仕事を任せておいてよいのだろうか」と心配を与えてしまう。でも泣きたくなるほど窮地に追い詰められたときが、逆にギャラリーの心をつかむチャンスであることは間違いない。めげずに、真摯に言葉をつむぐことだ。

ちなみに心理戦は、自分が有利に立っているときにも使える。中には、優勢になったことをいいことに、ただやみくもに攻めていく人もいるが、それは上手いやり方とは首えない。

一番理想的な意見の通し方とは、相手をねじ伏せることではなく、相手とwin-winの関係を築くことにある。だから自分が主導権を握っているとき、つまり相手が困っているときに、自ら和解策を提案するといい。

いずれにしても、最後まで勝負は終わっていないと思うことだ。少なくとも、不祥事を起こした後、攻め立てるマスコミに対して「私だって寝てないんだよ!」と逆ギレした雪印乳業の元社長のような態度には注意したい。

涙をはじめ、こみ上げる感情を表に出すのも手段の1つ。意見を通す際は、ねじ伏せるよりも、ギャラリーを味方につけて平和に話を進めるのが後のためだ。

 

和田秀樹(精神科医)

1960年、大阪市生まれ。東京大学医学部卒。東京大学附属病院精神神経科助手、米国カールメニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は国際医療福祉大学大学院教授、一橋大学経済学部非常勤講師、川崎幸病院精神科顧問。アンチエイジングとカウンセリングに特化した和田秀樹こころと体のクリニック院長。緑鐡受験指導ゼミナール代表。
著書に『受験は要領』(PHP文庫)『頭をよくするちょっとした「習慣術」』(祥伝社)『"捨てる"勉強法』(PHPビジネス新書)『大人のための勉強法』『「がまん」するから老化する』(以上、PHP新書)『テレビの大罪』(新潮新書)など多数。

 

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