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社会

NHKの「PL法」違反

高山正之(ジャーナリスト)

2010年11月08日 公開 2022年10月27日 更新

 

カリフォルニア州に住むウィリアム・グリーンマン氏が日曜大工道具で角材に旋盤をかけていた。それで聖杯を作るつもりだった。それらしい形になってきたところで突然、取りつけていた旋盤が外れ、回転しながらグリーンマン氏の額を直撃した。

大怪我だった。氏は病院から戻るとユーバー・パワー社製の日曜大工道具を調べた。取扱説明書どおりに旋盤を取りつけ、事実、事故が起きるまでそれは順調に作動していた。

 大怪我を起こした原因はユーバー・パワー社の商品に欠陥があったからだと確信して、氏はカリフォルニア州地方裁判所に民事訴訟を起こした。

 メーカー側は正しい取り扱いをしなかったせいだと反論したが、原告側は日曜大工道具の旋盤やドリル取りつけ部に不具合があることを証明した。

1963年、州最高裁では製品の欠陥によって被害が出た場合、製造者はその責任を負うとする判決が下され、グリーンマン氏は65,000ドルの賠償金を得た。

 この判決はのちに法律に格上げされ、一般にPL(製造物責任)法の名で知られる。力の弱い消費者を保護するという立派な法律だが、米国では「欠陥があれば金になる」点が注目され、日本企業に因縁訴訟を吹っかけるケースが激増する。

 ジョージア州でカローラが追突事故を起こした。運転者はカローラのアクセルが戻らなかったと訴えた。陪審員はみな米国人。トヨタの負けは目に見えていたが、トヨタは事故車を科学研究所に持ち込みアクセルが正常だったことを証明した。

 運転者は参ったとはいわずに、今度はブレーキが利かなかったと因縁付けのネタを変えた。卜∃夕はこれも科学的に排除した。運転者はアクセルペダルの下のフロアマットが折れ曲がり暴走したと3度、因縁ネタを変えた。さすがのト∃タもマットの折れまでは科学的に否定できず、陪審員は嬉しそうに200万ドルの賠償をトヨタに命じた。

 このケースは今度のトヨタ車暴走事件のモデルになり、運転者の一人は暴走が止まらないとパトカーまで呼んで証人にし、卜∃夕をPL法で訴えたが、それが金に困っての狂言だったことがばれた。

 米国での流行を受けて、日本もPL法ラッシュが起きた。三菱トラックのタイヤ脱輪に始まって製品の欠陥で怪我や病気にでもなれば、みなPLになった。

 平成14年、料亭で出たイシガキ鯛の刺し身で客の6人が毒に当たり不快感や吐き気を覚える事件が起きた。毒のある藻を食べた魚が引き起こす中毒の一種だが、東京地裁は刺し身も製造物と認定、PL法を適用して料亭に1200万円の損害賠償を命じた。

 この伝でいけば、NHKはどうなる。まともな番組をつくります、ニュースは直ちに流しますという契約で金を払っているのに、朝の通勤時に起きた福知山線脱線事故では発生の一報から3時間後の昼のニュースまで「死者は二人」のまま。他所の民放はとっくに100人以上を報じていた。

 それ以上に問題なのは朝日新聞記者が捏造した「従軍慰安婦」をあたかも真実のように教育放送で特集したり、大河ドラマでは北条時宗に朝鮮語を喋らせたり、朝鮮戦争は北朝鮮が攻め込んだという史実を「ニュースセンター9時」で磯村尚徳が否定し、「あの戦争は自然発生しました」ことにしたり。見ているだけで不快感と吐き気を催す。

 NHKに受信料を払い、まともな番組と思っていたら、受信する番組は嘘と歪曲の欠陥製品。見るだけで生理的に悪寒を感じるとなれば、これは立派なPL法の対象だ。

 そう思っていたらNHKが9月初め、立川市の受信料不払い者に強制執行をやった、家具など差し押さえ、残額も本日までに取り立てた、と誇らしげに発表した。

 米国と同じ、法律は悪い者が勝つようにできているでは哀しすぎないか。

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