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実は地球も太陽みたいに光っている? 宇宙研究者が明かす“知られざる仕組み”

澤田涼(東京大学宇宙線研究所研究員)

2026年03月05日 公開

「太陽はあんなに光っているのに、なんで地球は光ってないの?」子どもの頃にそんな疑問を抱いたことはありませんか。

でも実は、「太陽と同じように地球も光っている」のだと、東京大学の宇宙線研究所研究員である澤田涼さんは語ります。本稿では、物理学者のちょっと変わった視点から、"光って見える太陽"と"光って見えない地球"の違いについて解説します。

※本稿は、澤田涼著『東大研究員がゼロから考えてみた「宇宙の常識」』(大和出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

「牛を球とする」――単純化という魔法

「まずは牛を球と仮定してみます」

この不思議なセリフは、複雑な現象をいったんシンプルな構造に落とし込んでから本質を探ろうとする、物理学者の思考法を茶化したジョークです。

たとえば、「ただし、摩擦はないものとする」「空気抵抗は無視する」など、理科の教科書でも見覚えがあるかもしれません。この「球形の牛」は、世界を簡単化しすぎていることへの皮肉めいたジョークながら、物理学者が世界を描くときの「初めに、細かいことは全部切り捨ててみよう」という姿勢をうまく説明していると思っています。

この一見乱暴な単純化に支えられて、私たちは重力、電磁気、流体など、目に見えない自然の振る舞いを数式で描くことができてきました。

この「単純化」の力を示す1つの例が、「ベルクマンの法則」です。ベルクマンの法則とは、「同じ種の恒温動物においては、寒冷な地域に生息するものほど体重が大きくなる」という生物学の法則です。

たとえば、北極圏のホッキョクグマは、温暖な地域のクマよりずっと大きい。これは、体温維持に関わる体重と体表面積の関係から説明することができます。ここで一度、まずはクマを球と仮定してみましょう。

恒温動物であるクマは、常に体内に熱を抱えています。それと同時に、体表面からは発汗によって熱が放出されています。つまり、体内に抱える熱の量はほぼ体積に比例し、放熱量はおおよそ表面積に比例するというわけです。

クマを球と仮定すれば、放熱する面積は半径の2乗、熱を抱え込む体積は半径の3乗に比例します。半径(体長)が大きくなるにつれて、同じ体積当たりの表面積は小さくなるため、より寒い地域では体温を効率よく保持できる。

反対に、温暖な地域では効率よく放熱をおこなうために体積当たりの表面積は大きいほうがよく、小型であるほうが好まれる、というわけです。このように、「牛を球とする」思考は、複雑な自然の振る舞いを、世界をシンプルに見つめ直すことで、ざっくりでも説明するヒントを与えてくれます。

 

カギは万有引力の法則と星の構造

「地球は光っていないのに、太陽は光っている」

この違いの根本を探るために、私たちも「牛を球とする」視点にならって、大胆に仮定してみます。地球と太陽を「中身のまったく同じ球体」として考えてみましょう。

この宇宙にあるすべての物質は、共通の法則に則っています。それは、「万有引力の法則」。星も、惑星も、小さな衛星ですら、自分自身の重さ(重力)によって中心へ中心へと引っ張られています。

もしその重力に抗う力がなければ、ゆっくりと、その天体は重力に押しつぶされていくはずです。でも、実際にはつぶれていない。なぜなら、内側から「押し返す力」があるからです。

地球と太陽の姿の違いは、この押し返す力の違いにあります。太陽の質量は地球のおよそ33万倍、想像もつかない数ですよね。地球は「軽く」て、太陽はとてつもなく「重い」ために、自分自身を支えるための「物質の状態(相)」、そして天体の姿を変えてしまうのです。

たとえば地球は、宇宙的なスケールで見れば非常に「軽い」天体です。そのため、自身を内側へ押しつぶそうとする重力も、比較的穏やかです。この程度の穏やかな重力に抗うためには、私たちが日常でよく知る物質そのものの「硬さ」で十分です。

岩石や金属を構成する原子同士が、つくる分子間力や電子の斥力、物理の言葉で言えば「電磁気力」が、外から押されてもつぶれにくい「硬さ」を与えます。重要なのは、この力は温度に左右されにくく、おおよそ熱に頼らず星を支えることができる点です。結果として、地球の表面温度はほとんど外からの影響で決まるほどには、「冷たい」姿をしているわけです。

一方、太陽は地球の33万倍もの質量を持つ、圧倒的に「重い」天体です。この強大な重力の前では、物質の「硬さ」はまったく意味を成しません。それどころか、分子間の結合は引きちぎられ、あらゆる物質を原子レベルで粉々に砕いてしまいます。

では、どうやって支えているのか? 

その答えは、粒子の熱運動です。バラバラになった物質の原子核と電子自身が飛び交うエネルギーで、内側から膨張圧を生み出します。まるで巨大な熱気球のように、太陽は熱そのものの力で膨らんで自己崩壊に抗っています。

実際に計算をしてみると、太陽の重力を支えるのに必要な温度は、中心部でおよそ1500万度。その熱が外へと伝わり、結果として太陽は表面温度ですら約6000度という、非常に「熱い」姿をしています。

ちなみに少し補足すると、ここの説明では、地球が"構造として冷たい"という話をしてきましたが、表面温度そのものは別の話です。現在では当たり前のように、地球の表面温度は「太陽の放射から受け取る熱量と、大気による温室効果のバランス」で決まると理解されています。

 

表面温度の違いが見た目を変える――「黒体輻射」

さて、ようやく「光る」「光らない」の本質にたどり着きます。ここで登場するのが、「黒体輻射(こくたいほうしゃ)」というしくみです。

まず知っておいてほしいのは、温度を持つ物体は、必ず自ら光を放っているという事実です。その抱えている熱を、光の姿で放出しているのです。この光のことを物理学の言葉では「黒体輻射」と呼びます。温度が低いと赤っぽく、高いと青白くなるように、温度だけで光の波長や強度が決まるのが特徴です。

そして重要なのは、「その物体が何でできているか」は関係ないという点です。鉄でも水素でも、物質の種類にかかわらず、温度が上がれば、ある決まった波長と強度で光を放つのです。温度が低ければ赤外線(目に見えない光)しか出ませんが、温度が高くなるにつれて、放たれる光の波長は短く、エネルギーは高くなり、可視光(人の目に見える光)や紫外線の成分が増えていきます。

身近な例を挙げると、「サーモグラフィ」で体温を測るのは、この黒体輻射を利用したものです。実は人間の身体も、外からの光を反射するだけでなく、自らの体温に応じた光を放射しています。

体温程度の温度であれば、私たちの身体から放射されているのはとても弱い赤外線です。サーモグラフィは体温程度の物体が放つ赤外線を感知して、そこから逆算して身体の温度を「見る」しくみになっているのです。

 

実は地球も光っている?

「温度を持つ物体はすべからく自ら光を放っており、温度が低いと赤っぽく、高いと青白く、温度だけで光の波長や強度が決まる」

この物理学の原理に照らせば、興味深い事実が浮かび上がります。実は、地球も光っているのです。ですが、地球の表面温度はおよそ人間の体温よりも低い温度。それは私たちの身体から放たれるのと同程度の、とても微弱で人間の目に見えない赤外線の光であって、可視光ではありません。

一方で、太陽はその自重を支えるために非常に高温を必要としたため、表面の「熱い」姿になっています。その表面温度はおよそ6000度。この温度の黒体放射は、ちょうど500ナノメートル前後の光、つまり可視光のど真んなかを最も強く放ちます。 

人間の目が進化の過程で敏感になった光の波長も、この可視光の領域。これは裏を返せば、私たちは、"太陽の黒体輻射を受け取るための目"を進化させてきたとも言えるのです。

もし太陽がもっと冷たければ赤外線、もっと熱ければ紫外線を主に放つ星になっていたことでしょう。つまり、「地球は光っていないのに、太陽は光っている」という疑問は、ちょっとした誤解です。正しくは、

「地球も太陽も光っている。ただし、地球は軽いので、微弱な赤外線しか放たない表面温度の星だった。太陽は非常に重たいために、強力な可視光を放つほど熱い表面温度を持つ星になった」

「牛を球とする」視点にならって、地球と太陽を「中身のまったく同じ球体」として考えてみると、ただ質量の違い一点だけで、地球と太陽の、「支えるしくみの違い」「温度の違い」「放つ光の強さ」までがすべて自然につながっていきます。

著者紹介

澤田涼(さわだ・りょう)

東京大学宇宙線研究所研究員

奈良県出身。東京大学 宇宙線研究所 ICRRフェロー。
京都大学理学部卒業、同大学院理学研究科物理学・宇宙物理学専攻博士後期課程修了。博士(理学)。2024年4月より現職。2016年度京都大学総長賞(共同受賞)など受賞多数。専門は宇宙物理学。(2026年1月時点)
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