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「志」あるストーリーで新興国需要をつかめ

楠木建(一橋大学教授)

2011年01月17日 公開 2022年08月17日 更新

 

経済の成熟化は日本のチャンス

しかも、このようなストーリーがほんとうに必要になってくるのは、高度成長期ではなく、経済が成熟してからである。

先に経営に「必殺技はない」と述べたが、高度成長時には「出会い頭の一発」が有効だった。しかし、成熟社会へ移行するにつれ、そのような飛び道具はどんどん少なくなっていく。そしてそれにともなって、「合わせ技一本」というストーリーが必要とされてくるのだ。

そもそも筆者は成熟というものをもっと、肯定的に捉えるべきだと考えている。政府の「新成長戦略」が俎上に載せられているが、2.2%成長など「成長」とすら呼べるものではないだろう。

そうではなくて、成熟社会でしか生まれえない強み、成しえない価値をどう生かし、それを製品やサービスに落とし込んでいくか、ということがもっと議論されるべきではないか。いわゆる「きめの細かいサービス」などがその一例だろう。

しかもいま世界には、そのような成熟した製品、サービスを求める新たな新興国マーケットが開きはじめている。「このような戦略をとればみなが喜ぶだろう」「商売になるだろう」ということを新たな地平で日本企業が考えられる、絶好のチャンスが到来しているのだ。

そこで「きめの細かいサービスで勝負しよう。あとは頑張れ」ではなく、「このような手を打ったらこういうことが起きて、われわれの得意とするきめの細かいサービスが理解されるのではないか」というストーリーを構築すべきなのである。

逆にいえば、「中国がいよいよグロスでみれば世界第二の経済大国になる。日本はもう凋落の一途をたどるしかない」という議論に対しては疑問を感じてならない。

かつてわが国が急激な高度成長を遂げたとき、世界各国の人びとの多くが、なぜ第二次世界大戦で敗北した人口1億人足らずの国が、わずか20年で世界第二の経済大国になれたのか、と驚いたはずである。一方でこれだけの時間をかけて、中国がやっと成長期に入った。しかもかの国の人口は13億人。このような条件が揃っているならば、世界第二の経済大国にならないほうが不思議だろう。

自らが歩んだ道を他国が歩むことに怯えるのではなく、それをどうチャンスと捉えるのか。いまこそ発想の転換が必要とされているのだ。

繰り返しになるが、だからこそ経営者は「生き残りのために……」「……せざるをえない」などという言葉を使うべきではない。結局のところ、独自の価値を顧客に提供できなければ、その企業は生き残ることができない。「いったい生き残って何をしたいんですか」。いま一度経営者はその思いを胸に刻み、「志」をもって戦略ストーリーを打ち立てるべきだろう。

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