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「独身税」と呼ばれる「子ども・子育て支援金」を正しく理解 国民全体へのメリットを考える

馬場順也(社会保険労務士)

2026年06月16日 公開

2026年4月にスタートした「子ども・子育て金支援制度」。SNSなど一部では「独身税」と批判・揶揄されているこの制度によって、具体的に何がどのように変わったのでしょうか?大槻経営労務管理事務所の社会保険労務士、馬場順也氏に解説いただきました。

 

「子ども・子育て支援金制度」とは

2026年4月、新たな少子化対策の柱となる「子ども・子育て支援金制度」が動き出しました。これは「こども未来戦略(加速化プラン)」に基づいた制度です。2025年の出生数は約70万人と過去最低水準に落ち込みました。想定を上回るスピードで少子化が進むなか、人口減少を食い止めるには「2030年までがラストチャンス」とされています。今回の新制度は、まさにその少子化トレンドを反転させるためプロジェクトの財源を確保するものです。

「支援金」という名前から「子どもがいる家庭にお金が配られる制度」とイメージされるかもしれません。しかし、実態はむしろその逆です。子育て施策を拡充するため、私たち国民が広く負担を分かち合う仕組みです。国民は支援金として毎月一定の拠出金を納めることになります。

SNSやネット上では「子どもは社会全体で育てるものだ」と制度に理解を示す声がある一方、「独身税ではないか」「手取りが減るステルス増税だ」という厳しい声もやみません。さらに、この負担は従業員個人から徴収するだけではなく、雇用主である企業にも労使折半で同額の負担が求められるため、経営の現場からも大きな関心が向けられています。

この支援金制度は、実際に誰がどの程度負担するものなのでしょうか。そして、誰がどのような形で恩恵を受けるものでしょうか。本記事では、その全体像と実務的な影響を解説していきます。

 

“支援金”なのに引かれる?名前が生む誤解

支援金を「もらえるお金」だと思った人も多いのではないでしょうか。実際、この制度が誤解されやすい最大の理由はそのネーミングにあります。

これまでよく耳にしてきた「支援金」は、国や自治体から困ったときに振り込まれるお金を指してきました。たとえば、地震や台風などの自然災害で住宅が全壊するなど、大きな被害を受けたときに支給される「被災者生活再建支援金」です。最近の物価高騰の影響を受け、住民や企業に対して「物価高騰対策支援金」などの名前でお金を配るケースもありました。こうした背景があるため、今回もお金がもらえるのでは、と感じるのも自然な反応です。

しかし、今回の「子ども・子育て支援金制度」は性質が大きく異なります。現役世代から高齢者までの幅広い世代、そして企業から、社会全体で子育て世帯を支えるため、新しく拠出金(出し合うお金)を納付する仕組みです。

この支援金は健康保険料に上乗せするかたちで徴収されます。多くの会社の給与明細では、社会保険料の欄に子ども・子育て支援金という新しく控除項目が追加されているはずです。給与明細を見て、身に覚えのない新しい項目でお金が控除されていれば「ステルス増税」「手取りが減った」と批判の声が上がるのも無理はありません。一方で、この子ども・子育て支援金がどのような影響を及ぼすのか、何が変わるのか、制度の中身を具体的に見ていきましょう。

 

払うだけじゃない。支援金はどう還元されるのか

この制度は、子どもがいても、子ども・子育て支援金という名前のお金が直接振り込まれる仕組みではありません。そのため、この事実だけを聞くと、多くの人が「払うだけで何も戻ってこないのでは」と感じてしまうことも無理はありません。しかし、実際には、特定の個人に直接配るのではなく、子育てに関する施策を通じて私たちの生活に還元される設計になっています。

最も恩恵を実感しやすいのは、既存の手当や給付の拡充です。たとえば、子育て世帯の家計の応援として児童手当が支給されていますが、所得制限が撤廃され、支給対象も高校生の年代までに延長されました。これにより、多くの子育て世帯が継続的に支援を受けられるように見直されています。

共働き世帯への支援も手厚くなっています。育児休業中の所得を補償する育児休業給付金は、両親がともに14日以上の育児休業を取得したときには、給付率が80%へと引き上げられます。社会保険料の免除や、給付金の非課税措置を考慮すると、条件によっては休業中の手取り100%相当が保証される計算です。

さらに、子どもが2歳になるまで時短勤務を選択した際、賃金の10%相当が支給される時短就業給付も新設されました。

妊娠届出時や出産届出時に一定額が支給される出産・子育て応援交付金などの仕組みが整備されています。他にも、親の就業条件を問わずに保育を利用できる「こども誰でも通園制度」の開始など、支援金は負担の大きい子育て世帯の負担を減らすために使われています。これらは、支援金を財源の一部として、子育て世代を社会全体で支えるための重要な施策です。

毎月の負担は給与明細ではっきりと見える一方で、これらの恩恵は一定の条件に当てはまったときに受けられるため、実感が湧きにくいことが難点です。しかし、支援金は給与から引かれるだけのものではなく、制度のなかで確実に還元されています。

大切なのは、拡充された手当や新設されたサービスを、必要なタイミングで確実に活用していくことです。制度の中身を正しく理解して、自身のライフステージに合わせて制度を把握しておくことが重要です。

 

全世代で分かち合う未来のコスト。支援金の負担と還元。

この支援金の特徴は、子育て世代や現役世代だけではなく、社会全体で負担を分かち合う点にあります。自営業やフリーランスが加入する国民健康保険、75歳以上の後期高齢者医療制度の加入者に至るまで、医療保険に加入しているほぼすべての国民が、健康保険料とあわせて支援金を拠出する仕組みになっています。

現役世代が加入する被用者保険の場合は、令和8年度の支援金率は0.23%とされています。標準報酬月額や標準賞与額にこの料率をかけて負担額が決まります。ただし、従業員個人と雇用主である企業で労使折半となるため、従業員個人の負担率はその半分の0.115%となります。

具体的に、標準報酬月額が30万円の従業員を例に挙げると、負担額は以下の通りとなります。
300,000円×0.115%=月額345円

なお、支援金率は令和10年まで段階的に引き上げられる計画であり、企業側も同額を負担していく点には、経営の観点からも注意が必要です。

前章で触れたとおり、この制度は社会全体で子育てを支えるという仕組みです。そのため、独身世帯や子どもがいない家庭にとっては、目に見える形で直接的な現金還元はありません。SNSなどで「独身税」といった厳しい声が上がる背景には、このような構造があるといえます。

しかし、この制度は月数百円の損得だけで評価できるものでもありません。この制度が成功して日本全体で子どもが増えることになれば、長期的な視点から恩恵を受けることもできます。

日本の公的年金制度は、現役世代が現在の年金受給者を支える「賦課方式」をとっています。次世代の人口が増えるということは、将来私たちが年金を受給する際の担い手を確保し、社会保障制度を安定させることに直結します。

また、深刻な労働力不足の解消や、人口減少に歯止めがかかることで、日本経済全体を維持・発展させる可能性を考えると、間接的に大きな恩恵を受けることになります。

 

制度の是非より正しく理解することが重要

子ども・子育て支援金については、その実効性や公平性をめぐり、今後も様々な議論が続いていくでしょう。実際に、負担の在り方や制度設計に対しては賛否が分かれているのも事実です。

一方で、制度の是非とは別に、すでにこの仕組みが始まっている以上、私たち一人ひとりがその内容を正しく理解しておくことには意味があります。負担の仕組みや、還元されてくるルートを正確に把握することは、自分自身の生活を守るための第一歩と言えます。

まずは正しく知ることが、出発点になっていくのではないでしょうか。

著者紹介

馬場順也(ばば・じゅんや)

社会保険労務士

2016年4月に社会保険労務士法人 大槻経営労務管理事務所に入所。2022年に社会保険労務士登録。『中小企業の支援をしたい』という想いから、新卒で金融機関に就職。そこで、一緒に仕事をした社会保険労務士の仕事に感銘を受け、もっと専門的な立場からの支援の必要性を感じ社労士の道を志す。
労務相談やアウトソーシング業務を通してクライアントの企業理念やビジョンの達成をサポートすることを目標とする。また、採用定着士として企業の採用支援にも力を入れている。
大槻経営労務管理事務所HP:https://otuki.info/

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