1. PHPオンライン
  2. 生き方
  3. なぜ「心が折れやすい」のか?逆境に強い人が持つ、自己肯定感の育て方

生き方

なぜ「心が折れやすい」のか?逆境に強い人が持つ、自己肯定感の育て方

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2026年06月17日 公開

つらい現実に直面したとき、心が折れてしまう人と、自己肯定感を失わず、前に進める人がいます。その違いはどこにあるのでしょうか?
心理学の世界で注目される「レジリエンス(逆境から立ち直る力)」の正体は、生まれつきの才能ではありません。
本書では、過酷な環境を生き抜いた人々の事例をもとに、自己肯定感を生み出す「自我の統合性」の重要性と、劣等感にとりつかれた自分を変えるための「注意の転換」という具体的なアプローチについて解説します。

※本稿は、加藤諦三著『「なんとなく不安」が消える本』(PHP文庫)より一部抜粋・編集したものです。

 

自分に噓をつかない人の強さ

レジリエンス研究者のヒギンズの著作にたびたび出てくる、ダンという少年とシーボンという少女がいる。
二人とも、ひどい親にあたってしまった子どもである。

ヒギンズはダンに「あなたは自分に誇りを持っているか」と問う(註1)。
彼は誇りを持っていると言う。
ダンはよりよい人生に向かって、自分は戦っていると分かっている。
ダンは虐待に苦しめられる。父親の殴打が怖かった。
ダンは殺されると思った。4歳くらいの頃である。
ベッドの下に隠れた。
小さかったので発見されなかった(註2)。

大切なことは、ダンもシーボンも「真実は自分たちを解放してくれる」と信じていた。自分には「もっとよい場所がある」と信じていた(註3)。
彼らの状況は極限まで厳しい。しかし二人とも、戦っている自分に誇りを持っている。
そこが犠牲者に甘んじて、悩んでいる人と違うところである。

ダンは極限まで厳しい状況の中で、人生を頑張って生きている。
そして「僕は勝っても負けても、成功しても、失敗しても、その対処の仕方で自己肯定感を持てる」と言っている(註4)。
ダンにとって大切なのは「かたち」でなく「こころ」である。
そして、この「かたち」でなく「こころ」を大切にする態度から自己肯定感が生じている(註5)。

彼らが誇りを持てるのは、「自我の統合性」が確立しているからである。つまり自分に噓をついていない。
「意識と無意識の乖離」がない。

そしてその「自我の統合性」は、自然と生じて来るものではなく、「達成された」ものである。
自分の存在をしっかりと感じることは、レジリエンスのある人の生きる態度から来るものである。

「自我の統合性」が確立していない人、自分に噓をついている人の例である。
夫が愛人のもとへ行ってしまった女性がいる。
彼女は、「夫を信じて待っています」と言っている。
辛い現実に対する、このような対処の仕方が問題なのである。
無意識では夫に怒っている。
だから、彼女の中には「意識と無意識の乖離」がある。
この対処の仕方では、彼女は自己肯定感が持てない。
自分の存在を確かなものと感じることはできない。
彼女は「自我の統合性」が確立できない。

「私はこういう男と結婚した」、これが「人とは違った私固有の人生」である。
そう決意して、「夫を愛人に奪われた」という現実に対処する。
そして前に進む。

しかし彼女はそうしなかった。
現実から目を背けた。
「私は、妻を捨てて愛人のところに行ってしまうような、無責任な男と結婚した」という現実を認めなかった。
彼女の場合は、ダンやシーボンと違って「自我の統合」が失われている。
自分の存在感が確かでない。
甘えた姿勢で「あれも欲しい、これも欲しい」と言っている人は、死ぬまで生きがいを感じることはない。

愛することではなく、愛されることを求め続ける人は、自分の人生に意味を感じることはない。
ダンを恐ろしい虐待から救ったのは何であったか。恐ろしい虐待を癒してくれたのは何であったか。
ヒギンズによれば、それは愛他主義である。

愛他主義は人を変える偉大な力を持っている。それは癒しにとって本質的なものであるのだろう(註6)。
ダンはさまざまな困難に遭遇する。
そして最後には、大洪水のような残虐さに打ち勝つことが、ダンを異常に強くした(註7)。
誰もがこんなに強くなれるものではない。
誰の心にもこんな強力なレジリエンスが育成されているのではない。
しかし何が自分を強くするかという点を間違ってはいけない。

 

注意を向ける対象を変えると自分が変わる

アメリカの心理学者シーベリーは『問題は解決できる』という本で、第二次大戦中のイギリスの女性消防隊長の話を紹介している(註8)。

彼女は生まれつきおとなしくて、困難に立ち向かう気力など全くなかった。家に閉じこもり、劣等感にとりつかれ、自分の存在に負い目を感じていた。
そして自分の性格を嫌がり、容姿のことで悩み、考え方には自信が持てず、話をする時にはためらいがちであった。
彼女はまるで、現代の日本の引きこもりの若者のようであった。

しかし戦いの火ぶたが切られ、イギリスに恐ろしい空襲が始まる。
すると彼女は勇敢な消防士になる。
爆撃されたビルから犠牲者を救い出す。

声は強く、目は輝き、彼女は揺るぎない自信に満ちていた。
この奇跡はどうして起こったのか。
いろいろなものを恐れてばかりいる彼女を、勇敢にしたものは何であったか。

「それは、今まで自分自身のことばかり気にしていた心を、自分を委ねた職務の方へ向けたことです。つまり注意を向ける対象の転換をはかったのです。自分自身の精神的、肉体的力を少しずつ目覚めさせ、それらの力を積極的な仕事へと投じたのです」
とシーベリーは説いている。

(註1)“This will either kill you or it will make you very strong.”Gina O’Connell Higgins, Resilient Adults-Overcoming a Cruel Past, Jossey-Bass Publishers San Francisco, 1994, p61.
(註2)同前、p48.
(註3)“Both Dan and Shibvon certainly believe that the truth shall set you free. There is a better place to be.”同前、p49.
(註4)“Whether I win or lose in whatever the situation is, I just feel good about the style in which I approach it.” 同前、p62.
(註5)“He has achieved a highly differentiated and integrated sense of self.” 同前、p62.
(註6)“Thus altruism holds great transformative potency and may be essential to one’s healing from horrific abuse.” 同前、p64.
(註7)“Finally, Dan feels that surmounting such potentially cataclysmic cruelty has rendered him unusually strong.”同前、p64.
(註8)David Seabury, Stop Being Afraid, Science of Mind Publications, Los Angeles,1965, 加藤諦三訳『問題は解決できる』1984年、三笠書房

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

関連記事

アクセスランキングRanking