逃げ恥のセリフ「気持ちを因数分解した」が問題解決の理にかなっているワケ
2023年02月20日 公開 2024年12月16日 更新
「先行きがまったく読めない」「成功法則がすぐに陳腐化してしまう」...そんな現代に求められるのは、「自ら深く考え、答えを出していく」こと。そしてそのために不可欠なのが「数学的思考」です。
人生である問題が立ち現れた時、数学的に考えることが解決策となります。その手法について、ビジネス数学教育家の深沢真太郎氏が解説します。
※本稿は、深沢真太郎著『数学的思考トレーニング 問題解決力が飛躍的にアップする48問』(PHPビジネス新書)を一部抜粋・編集したものです。
「分析」とは何をすることか
分析するというと、あなたはどんな行為を思い浮かべますか。データをかき集めてエクセルを使ってこねくり回すこと? あるいはじっと深く考えること? さっそく私の定義からご紹介しましょう。
「分析する」の定義:問題解決を目的とし、考える対象についてはっきりさせることである。
まず目的があるということ。例えば、会社の売上が落ちているという問題があったとします。当然ですがその問題を解決したい。この目的があるから、その会社の経営者やマーケティング担当者は数値を把握したり、市場の動向について調査を行ったりします。そして原因を明らかにする、つまりはっきりさせるのです。
ですから、いくら膨大なデータをこねくり回しても、どれだけ長時間じっくり考えても、そもそもそれが問題解決を目的としていなければ、あるいははっきりさせることができなければ、それは分析をしたとは言いません。
さて、この「分析」という言葉には、分けることを意味する「分」という文字が使われていることに注目してください。なぜこの文字が使われているのか、あなたは考えたことがありますか。結論を言えば、分析とは「分ける」ことがその多くを占める行為だからです。具体例を挙げましょう。
ご存知のように、人間の血液型は4タイプに分かれます。A型、B型、O型、AB型です。まさに分ける行為。「人間の血液には違いがあるのか」という問題があり、血液は4つに分類できると明らかにした。私たちはこれを分析した結果と言います。
似たようなものとして、いわゆるタイプ別の診断テストも挙げられます。「あなたの性格を分析した結果、あなたは○◯タイプです」といった類の診断テストですね。お好きな人も多いのではないでしょうか。これも人間の性格や個性などを分類している、つまり分けることに他なりません。
少し方向性の違う例も挙げましょう。
『いかにして問題をとくか』(G・ポリア著、柿内賢信訳/丸善出版)という名著があります。ポリアは著名な数学者であり、この書籍は数学の問題を解こうとする教師と学生のために書かれたものです。
タイトルの通り、問題解決をするにあたりどのように思考すればよいのかを体系立てて解説している教育書であり、現在ではビジネスでも役立つとのことで多くの人に読まれている(くどいようですが)名著です。本稿の読者の中にもご存知の方は多いのではないでしょうか。
この書籍の中で著者のポリアは、問題を解くという行為についてこのような整理をしてくれています。
第1に、問題を理解しなければならない。
第2に、データと未知のものとの関連を見つけなければならない。関連がすぐにわからなければ補助問題を考えなければならない。そうして解答の計画を立てなければならない。
第3に、計画を実行せよ。
第4に、得られた答えを検討せよ。
詳細はぜひ読んで確かめていただきたいのですが、ここで申し上げたいのは問題を解くプロセスを4つに分けているということ。4ステップあるとはっきり示している点です。
ポリアは「問題を解く」という行為を徹底的に分析したに違いありません。そして、どんな場面でも「問題を解く」という一連の行為は共通してこの4ステップを行うことに他ならない、と明らかにしているのです。
分析するとは「分解」していくこと。本稿ではこの「分解」という極めてシンプルな行為についてあなたと一緒に理解を深め、そしてあなたの頭が自然に「分解」をしてくれるようにトレーニングをしていきます。
「分解脳」を手にしよう
いよいよトレーニング開始です。まずは身近なテーマからまいりましょう。
【演習問題】
カレーライスを分解してください。
ふざけているわけではありません。真剣にお願いします。カレーライスという食べ物を細かく分解してほしいのです。きっとあなたはこのような分解をすることでしょう。
■カレー
・スパイスA ・スパイスB ・スパイスC
・たまねぎ ・ジャガイモ ・にんじん
・肉 ・水
■ライス
・米 ・水
あなたは今カレーライスという食べ物を分析しています。こうすることでカレーライスの味を美味しくするためには何が必要か、シーフードカレーを作るためには何を用意すればよいか、といった問題を解決できます。繰り返しますが、これが分析するという行為の基本です。
ではこの感覚が残っているうちに、次の問題に進みましょう。
【演習問題】
プレゼンテーションという行為を分解してください。
あなたが学生であれビジネスパーソンであれ、プレゼンテーションという行為をする機会はきっとあるでしょう。就職活動の面接、企画会議。あなたにとって重要な局面でする可能性が高い行為ではないでしょうか。
だからこそ、その行為の中身を明らかにし、「プレゼンで失敗しないためにすべきことは?」という問題を解決したいところです。
例えばこのような分解はいかがでしょう。
■シナリオ作成
・【定義】プレゼンテーションの相手を定義する
・【結論】納得してもらいたい主張を明らかにする
・【根拠】そのための根拠を用意する
・【順序】ストーリーになるように順序を組み立てる
■資料作成
・配布資料
・投影資料
・参考資料
■デリバリー(実際に伝えること)
・【冒頭】まず主旨や目的を伝える
・【本編】作成したシナリオを簡潔に伝える
・【最後】締めに「想い」を伝える
仮にあなたのプレゼンテーションが失敗したとしたら、この分解が失敗の原因を特定するヒントになります。
そもそもシナリオが良くなかったのか。資料に致命的なエラーがあったのか。伝え方がまずかったのか。もしシナリオが良くなかったとしたらそれはなぜか。根拠となるデータがなかったから? 組み立てたストーリーに矛盾があったから?......
失敗の原因を分析し、今後に向けた改善点を明らかにできるでしょう。
私はこのような思考が自然にできるアタマを「分解脳」とネーミングしています。知っていることとできることは天と地ほど違います。ぜひ日々の生活や仕事の中で、できるだけ身近なテーマで、分解脳を手にする訓練をしてみてください。
そのような意味も込めて、次はこのエクササイズをあなたに預けます。
【自習問題】
データを活用してPDCAサイクルを回すという仕事は、いくつのプロセスに分けられますか?(P・D・C・Aの4つという回答はちょっと浅すぎます。もう少し細かく分解してください。もちろん漏れなくダブりもなくお願いします)
ビジネスパーソンなら誰もがご存知のPDCAサイクル。まさに知っていることとできることは天地ほど違うことがよくわかるテーマではないでしょうか。
加えて、先ほどご紹介したポリアの事例は「問題を解く」という行為を4つのステップに分けていましたが、このエクササイズとよく似ていることに気づいていただければ幸いです。
ちなみに、私の回答は拙著『徹底的に数字で考える。』(フォレスト出版)にて、「ファクトベースで仕事ができるようになる13の質問」として紹介しています。もしよろしければそちらでご確認ください。