イラスト・たまゑ
可愛くて愛しくて楽しくて、私たちを豊かにしてくれる猫との暮らし。ただ、どうしても避けられないのが病気や別れの苦しさ・哀しみです。「ほかの人たちはどう向き合っているのか教えてほしい」と悩む人も多いでしょう。
本稿では、著書『獣医さん、聞きづらい「猫」のこと ぜんぶ教えてください!』を上梓した、ペットロスカウンセラーとしても活躍する獣医師・宮下ひろこ先生にお話を伺いました。
※本稿は、宮下ひろこ著『獣医さん、聞きづらい「猫」のこと ぜんぶ教えてください!』(日東書院本社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
どこまでが「自然」なのか考える必要がある
老猫の治療について、怖い思いをさせたくない、自然に任せたいというのは、さまざまな葛藤があるなかで悩んだ末に、最終的に愛猫に最善な策として出した結論なのでしょう。
猫さんのことをいちばんわかっている飼い主さんが決めたことならその決断を支持したいと思っています。飼い主失格だなんて決して思わないでほしいです。
ただ、「自然に任せる」とはどういうことなのかをもう一度考えてみたいですね。
動物病院へ連れていく日は、前日から憂鬱になるといった話をよく聞きます。出かけようとキャリーバッグを出しただけで逃げ回り、家を出るまで悪戦苦闘。病院に来るだけで飼い主さんも猫も疲れてしまっていて、特に老猫であればそれだけで体力を消耗します。
あるいは、連れてくる途中で恐怖心から毎回おしっこを漏らしてしまってかわいそう...どうにかならないかといった相談もありました。待合室や診察室でいつもは出さないような不安そうな声でずっと鳴かれたりすると、こんな思いをさせてまで必要なことなのかと考えるのもわかります。
自分と愛猫にとっての「自然」を見つける
猫の治療にはさまざまな選択肢があります。例えば、腫瘍などが見つかったとき、若ければ麻酔下で切除することがいちばんでも、老齢で体力的にも精神的にも負担をかけるので体にメスを入れるのはかわいそうだからしない、という選択もあります。
一方で、大きくなってしまった腫瘍を猫が舐めてしまい自壊しているようなときは、手術を選ぶ人もいます。舐めないように装着するエリザベスカラーを一日中つけているのはかわいそうだからというのがその飼い主さんの理由でした。
食欲が低下して体重が減っているとき、高齢だから仕方がないと考えるか。病院で検査するとかわいそうだから何もしないのか。それとも一度は必要な検査をして、それに合った治療を状況を考えながら選ぶという選択をするのか。
高齢猫に多い腎不全であれば、入院が必要な静脈点滴はしなくても、皮下点滴や食事療法、投薬などの治療の中で選ぶか。血液検査も治療内容が変わらないなら、検査の回数を減らすか。
獣医師が提示する治療は病状や進行具合によって変わっていきます。まったくしないのか、一部分だけするのか、どこまで行うのかの線引きはしないといけません。
口の中が痛くて食欲が落ちているのであれば、痛み止めなどを投与することで改善し、食べられるようになるかもしれません。通院や注射などが苦手でとても怖がるからといっても、症状がひどいときだけ注射することでQOL(生活の質)が維持できるかもしれません。
飼い主さんによって「自然」の捉え方がちがうので、獣医師とじっくり話し、あらゆる選択肢の中からご自身と猫さんらしい「自然」を見つけられるとよいですね。