やらなくてはいけないことをさっさと片づけて、余裕のある毎日を送りたいのに、いざやろうと思うとめんどくさくて動けない...。作業療法士の菅原洋平さんが、脳の仕組みをもとに、「先延ばし癖」を解消する方法について紹介します。
※本稿は、『PHPスペシャル』2023年5月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。
【 菅原洋平(すがわら ようへい)】
作業療法士。国際医療福祉大学卒業後、作業療法士の免許を取得。国立病院機構にて脳のリハビリテーションに従事したのち、現在は、ベスリクリニックで睡眠外来を担当する傍ら、企業研修などを全国で行なう。『「めんどくさい」が消える脳の使い方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。
脳の仕組みを知って、エネルギーを効率よく使おう
仕事や家事、人づきあいなど、「やらなければ」と思いながらついめんどうで、先延ばしにしてしまうことってありますよね。なかには、常にそういう状態という人もいるかもしれません。
一方で、やるとなったらすぐにテキパキと動ける人もいます。その違いはどこにあるのでしょう。そもそも私たちは、なぜ「めんどくさい」と感じるのでしょうか?
その答えのキーワードとなるのが「脳」です。あらゆる行動は、脳が指令を出して体を動かすことで成り立っています。脳のエネルギーは燃費が悪いのが特徴。
そこで脳は、体に指令を出す前に、過去の記憶や新たに得た情報をつなぎ合わせ、どのくらいの力で、どのくらい手足を動かせばいいのかを予測することで、エネルギーの消耗を防いでいます。
ところが、新しいことを始める場合や、なんとなく「〇〇しなきゃ」と思っているだけだと、脳は過去の記憶や具体的な指示がない状態で行動計画や予測を立てなければならなくなり、多くのエネルギーを使うことになります。
すると脳が疲弊して「どうしたらいいかわからない」状態となり、結果、体への指令は途絶え、「めんどくさい」と感じるのです。
では、どうしたら「めんどくさい」がなくなるのでしょうか? やる気や性格の問題ではなく、「めんどくさい」に打ち勝つには、科学的戦略が必要です。その戦略とは、脳が無駄なエネルギーを使わなくてすむように、情報(=脳に届きやすい命令)を与えて状況をわかるようにしてあげること。
その方法を実践すれば、誰もが「めんどくさい」から解放され、先延ばしせずにテキパキと動けるようになります。
なぜ「すぐやれない」のか?
「めんどくさい」と感じるときは、脳が困って体に指令が出せないときです。では、実際に脳がどんなときに指令を出せなくなるのか、脳の仕組みとともに理解しておきましょう。
【理由1】脳への命令があいまい
たとえば顧客にプレゼンをするとき「社内でプレゼンの練習をしたときと同じように、口を大きく動かして話そう」と自分に言い聞かせれば(=脳に命令すれば)、脳はあのときと同じようにすればいいとわかるので、当時の記憶を引き出してきて、体への指令をスムーズに出せます。
一方、「緊張しないようにリラックスしてプレゼンしよう」と自分に言い聞かせたとしたら、どうでしょうか?
「緊張しないでリラックスする」ためには何をすればいいのかが不明確なので、脳は体にどう指令を出したらいいのかわかりません。このように脳にあいまいな命令を出すことが「めんどくさい」感情を生むのです。
【理由2】脳のネットワークの切り替えができていない
脳の働きは、2つのネットワークで成り立っています。文字を読む、スマホの画面を見るなど「情報を取り込む」ネットワークと、何もせずにぼーっとしているときに働く「情報を消化する」ネットワークです。この2つのネットワークをうまく切り替えることで、作業の効率が上がります。
ですから、会議終了後などに、まったく休憩せずスマホでネット検索をしたり、SNSや動画を見たりするなど、情報を取り込むネットワークを使い続けるのはNGです。
脳が疲弊してしまい、他の作業を「めんどくさい」と感じるようになります。集中して作業をしたら、必ずぼーっとする時間が必要なのです。
【理由3】初めてのことが多すぎる
初めてのことに対しては、一から行動計画を立てなければならないので脳への負担が大きく、めんどくさく感じます。さらに、初めてのことが多すぎると、脳の中にある過去の記憶だけでは正確に予測することができません。
たとえば、知人の結婚式に初めて出席するときに「めんどくさい」と感じるのは、式場に行ったことがない、服装が決まっていない、ご祝儀袋がないなど、脳にとっては予測不能な情報ばかりになるからです。
この場合、式場のHPをチェックする、着ていく洋服を着てみるなど、事前情報を追加していくと、予測の精度が高まって、めんどくさくなくなっていきます。
\新しいことを始めるのは、「変化の少ない時期」に/
世の中が変わりやすい時期を避けたほうがいいでしょう。とくに4月は人事異動などで職場環境が変わる、テレビの新番組が始まる、新聞に新しいコーナーができるなど、脳が予測していなかった刺激に多く遭遇します。
結果、脳のエネルギーが大量に消費されて、新しいことを始めても途中で挫折してしまう可能性が高いです。