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「3兆円の国富が流出している!」メディアが報じない電力会社の嘆き

夏目幸明(ジャーナリスト)

2012年07月06日 公開 2022年05月23日 更新

福島第一原子力発電所の事故以降、日本は原発の稼働を停止し、主に火力発電で電力需要を賄っている。火力発電には液化天然ガス(LNG)が必要だが、なんと日本は従来の4倍もの値段でLNGを購入しているという。燃料費の高騰は「日本存亡の危機」をも招くと、電力マンは悲痛な叫びをあげる。夏目幸明氏が、メディアでは報じられない現場の声を詳報する。

※本稿は、夏目幸明著『大停電(ブラックアウト)を回避せよ!―電力マンたちの暑すぎる夏』(PHP研究所)を一部抜粋・編集したものです。

 

このままでは、年に約3兆円もの国富が日本から流出する

日本のエネルギー事情が今、どれだけ逼迫した状況にあるかを一言で説明できる事実がある。日本が発電のために輸入しているLNG(Liquefied Natural Gasを略してLNGと呼ぶ。液化天然ガスのこと)は、ヨーロッパやアメリカなどがパイプライン経由で買っている価格の約4倍で購入させられているのだ。韓国、台湾も約3倍の値段で買わされている。

これらの現状は、なかなかテレビでは放送されず、だから、広く国民の知るところになってはいない。相当長い特集番組でも組まないかぎり、今までの事情をこと細かに説明することはできないから、どうしても"LNG価格が上昇している"程度の紹介で終わってしまう。加えて、福島第一原子力発電所の事故以降、電力会社の声を紹介しづらいという事実もある。

そこでここでは、ある電力会社の幹部に取材した、生の証言を紹介していきたい。なぜなら"LNG価格が上昇している"という事実であれば、経済産業省などが出している資料をひもとけばわかるからだ。現場では何が起きているのか、その証言にこそ、伝えるべきものが宿っているに違いないからだ。

電力会社の幹部が具体的な証言をする。

「日本が震災に見舞われた直後、弊社のトップが産出国を訪ね、国営のガス会社に、これまでと変わらず供給してくれるよう、お願いに行っています」

"懇願"に近い雰囲気だという。

「商習慣に従えば、お金を受け取る側が、お客さんの元に出向いてきてくれますよね。でも、今回は逆なんです。"どうか譲ってください"と産出国を訪ねています」

理由は、東日本大震災で原子力発電所が動かせなくなり、日本のエネルギー事情はLNGなくしては成り立たなくなってしまったからだ。原子力発電所が動かせなくなり、今、火力発電所が全力で運転して日本の電力需要を支えている。当然、燃料が必要だ。この急な需要増に"ご対応いただく"ためには、頭を下げ、お願いに行く必要があったのだ。

「弊社は今までも産出国の首脳と良好な関係を築いてきました。どの国とはいえませんが、ことあるごとに王族の皆さんを訪ね、燃料の供給が滞らないようにしてきたんです。同時に、技術や資金の提供もしてきました。もともと、その国のLNGの設備は日本の技術でつくられたものなんです。すべては電力の安定供給のためでした。代わりのエネルギーがない、それだけで交渉は一方的に不利になってしまうから、技術と資金を提供したんです。

そんな経緯があるからこそ、先方も、東日本大震災後のエネルギー危機に乗じて値上げをするような動きはありません。むしろ日本の事情を案じて"欧州など別の地域に向けてつくってあったLNGを日本に供給するから必要な分は伝えてほしい"とまでいってくれました。だから最悪の事態――世界のどこからもLNGが買えないという事態は避けられました」

LNGは液化などの作業が必要なため、急な増産はできず、調達は長期契約をもとに行う。その商習慣を崩してまで、日本にLNGを供給してくれたことに関しては、日本人としても感謝すべきかもしれない。だが、冷徹なビジネスの世界では、また別の力学が働くのも事実だ。

電力会社幹部が唇をかむようにしていう。

「実は、天然ガスの価格と日本向けのLNGの価格が乖離して以来、我々は国を挙げて、LNGの値段を下げるべく、ねばり強く価格交渉を行ってきたんです。しかし、原子力発電所の事故で、交渉カードを失ってしまったのが痛すぎました。もう、価格交渉は当分、絶望的です。相手もビジネスですから、仕方ありません。むしろ、値上げせず、緊急対応をして日本へエネルギーを融通してくれたことに対し、感謝をするべき状況です」

売ってもらって、頭を下げる。その光景からは資源がない国の哀れな姿が浮かび上がる。LNGを緊急融通してくれたのはよいとしても、それは輸出国側にとっても好機ではあったのだ。

なぜなら、日本向けのLNGのほうが値段は高い。東日本大震災によるエネルギー危機を理由にすれば、別の場所へ譲るべきだったLNGを日本向けに売ることは同意が得やすい。すると、彼らの懐にはより多くのお金が入ってくるのだ。

そのお金は誰が出しているのか。我々、電力を使う日本国民だ。電力会社幹部が話す。

「燃料費の増大は、当然、電力会社の経営状態を悪化させています。今のところ、内部留保(いざという時のために取ってあるお金)を取り崩して支払っていますが、いつかは電力料金に乗せるしかありません」

その幹部についていた人が、資料をもとに話す。

「これは我々の統計ではなく、日本政府がつくった資料です。日本の電力会社は、東日本大震災前に比べ、1年当たり約3兆円も多く、燃料代を支払っています。LNGや原油が急騰していたうえに、原子力発電所が動かせなくなり、その分の燃料費が積み増しされているからです。

以降は、電力会社の公式発表では絶対にいえない試算かもしれない。

 

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電力会社社員が切なく語る「片思い」

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