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中米の奴隷制度にもルーツあり? “社交ダンス”の知られざる歴史

山本英美(統一全日本ラテンチャンピオン),棚橋健(三笠宮スタンダードファイナリスト)

2023年09月15日 公開

 

陽気で情熱的な南米のダンス


↑パッション溢れる「タンゴ」。競技中にダンサーが「吠える」こともあるほど情熱的

ルンバとチャチャチャはキューバに起源を持っていますが、他にも南米にルーツがあるダンスは2つあります。タンゴとサンバです。

タンゴはアルゼンチンに起源をもち、スタンダード種目の中で唯一、ラテン系のダンスと言われており、現在踊られているタンゴは、「アルゼンチン・タンゴ」というダンスに起源を持ちます。

アルゼンチン・タンゴは、19世紀後半にアルゼンチンの首都ブエノスアイレス近郊にあるボカ地区の下層民の間で踊られていた踊りが発祥とされています。この踊りに、キューバ人、スペイン人、アフリカ人などの要素が加わり、タンゴの原型が誕生しました。

タンゴは他のスタンダード種目と比べると、ビートがはっきりしている点が特徴的で、キレのあるアクションも多い情熱的なダンスです。欧米諸国に起源をもつ優雅で軽快な他の4種目と比べて、タンゴにラテン種目に近いパッションを感じるのは、ルーツによるものなのかもしれません。


↑リオのカーニバルで踊られているようなサンバ

南米に起源を持つもう1つのダンス、サンバはブラジル発祥のラテンダンスです。サンバといえばおそらく多くの人が思い浮かべるのは、リオのカーニバルではないでしょうか。

しかし、社交ダンスのサンバは、本場ブラジルの「カーニバルスタイルのサンバ」ではなく、イングリッシュスタイルとして標準化されたものをサンバと呼んでいます。

つまり、英国によって構築された「男女がカップルになって踊る社交ダンス用のサンバ」なので、リオのカーニバルのサンバとは異なるものです。

ルンバ、チャチャチャと同様に、サンバも踊りの中で男女の駆け引きを表現しますが、それがどういった駆け引きなのかはダンサーが個々で自由に解釈してOK。「これを表現しなければならない」という決まりはなく、自由なイメージを表現しています。

また、サンバは膝を曲げ伸ばしする「バウンス・アクション」が特徴で、それによって跳ねたり弾んだりするような、軽快なダンスになっています。


↑男女が一組になって踊る社交ダンスの「サンバ」

 

アメリカで誕生したダンス


↑走ったり跳んだり、見ていて楽しい「クイックステップ」

今まで登場してこなかったスローフォックストロット、クイックステップ、ジャイブはすべてアメリカ生まれのダンスです。

スローフォックストロットは、その名の通り、「フォックストロット」というダンスのテンポを遅くしたものです。フォックストロットは、キツネの忍び足を連想させる「キャッスルウォーク」という自然歩行が特徴的です。

スタンダード種目の多くはクラシックバレエの価値観が根底にあるため、つま先を使うことが多いですが、フォックストロットは自然歩行、つまり普通に歩くときと同様にかかとに体重をかけるムーブメントが採用されています。

「ヒールリード」と呼ばれるこのムーブメントは、つま先を使う「トゥリード」がほとんどであった社交ダンスの概念を覆す画期的なものでした。スローフォックストロットは、このキャッスルウォークをより重厚かつ滑らかに表現することが特徴です。

フォックストロットは一説によるとアメリカのキャッスル夫妻によって創始された踊りと言われており、20世紀初頭にアメリカから台頭してきたジャズと表裏一体の存在として誕生したダンスでした。

スローフォックストロットと同じくこのフォックストロットから生まれたのが、クイックステップです。こちらもその名の通り、フォックストロットよりテンポの速い音楽です。

「フォックス=キツネ」、「トロット=馬の早歩き」を語源としているフォックストロットも軽快さや早足が踊りのベースにありますが、クイックステップはより速いテンポでスピーディーに、軽快に飛び跳ねたり走ったりするシーンが出てくるのが特徴的です。

また、チャールストン(リズムに合わせて足を交互に跳ね上げる動作)やポルカ(チェコの民族舞踊)など社交ダンス以外の要素も加わり、スピードだけでなく若々しさやパワフルさも表現されています。

スタンダード種目の中で唯一、両足が床から離れる瞬間のあるクイックステップは「楽しいダンス」の代表格です。


↑床を跳ね回るように踊るスイングダンス

そしてラテン種目の中で唯一アメリカ生まれのダンスがジャイブです。ジャイブは1920年代に流行したスイングダンスの一種「リンディホップ」が原型となっています。

スイングダンスとは、スイングジャズに乗せて軽快に踊るペアダンスのことで、古いアメリカ映画などを見ているとたまに登場する、床をリズミカルに跳ね回るようなダンスのことです。

その一種であるリンディホップが、アメリカ南部の黒人が親しんだ「ジルバ」に変化し、さらにロックン・ロールと融合して発展。最終的に英国で改良が施され、競技用の踊りとしてジャイブが誕生しました。

速いテンポでスピーディーかつ軽快に踊られているジャイブは、ルンバやチャチャチャより複雑な体の動きが必要なため、かなり難易度の高いダンスですが、遊び心満載で茶目っ気たっぷりに踊るダンサーたちは、見ていてとてもワクワクしてきます。

一口に社交ダンスと言ってもそのルーツはダンスによって全く異なります。それぞれのルーツや歴史背景を知ることで、よりダンスを楽しく見られるかもしれません。

【写真】kaoring*works,【イラスト】IORI KIKUCHI

 

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