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『刀剣乱舞』の蜻蛉切役が見つからず...多才なミュージカル俳優・spiの転換点

spi(俳優)

2023年07月04日 公開

演劇ファンの間で知名度急上昇中の俳優・spi。ミュージカルにストレートプレイ(せりふ劇)、2.5次元舞台まで、あらゆるジャンルで主役級の役柄をこなす稀有な「オールラウンダー」だ。

なぜ不動の人気を得てからも「登竜門」とされる2.5次元舞台に立ち続けるのか。そもそも歌やダンス、演技はどこで身につけたのか。質問を重ねるにつれ、演劇界で異彩を放つ彼の素顔が見えてきた。【取材・構成:横山由希路】

※本稿は、『THE21』2023年7月号に掲載のインタビュー記事を再編集したものです。

 

物心つく前から「ミュージカル」が傍らに

――劇場によく足を運ぶ人には広く知られた存在のspiさん。アメリカと日本双方のバックグラウンドをお持ちの他、最近増えてきた「フリーランス」の俳優でもあります。spiさんは物心がつく前から有名ミュージカルの歌を歌い、舞台に立つような環境で育ったそうですね。

【spi】父が横須賀のアメリカ海軍基地の劇団で座長をしていたので、そこで子役としてミュージカルに出ていました。両親が僕に歌をやらせてみようと思ったのは、僕が4歳か5歳の頃と聞きました。『ライオンキング』の曲を自然に歌い上げるのを見て、ひどく驚いたとか。

――まさに歌と演劇にあふれた環境ですね。となると、舞台に立つことにも、幼い頃から憧れがあったんでしょうか。

【spi】僕の場合、昼間は映画館に、夜は劇場にというような生活だったので「子どもは皆、舞台に出るものだ」くらいの感覚でいましたね。それほど、ステージが当たり前にある環境でした。

歌についても同様で、「歌」というより「音程のあるリリック(詞)」と認識していたんです。実は、ボーイソプラノのソリストとして、横須賀の少年少女合唱団にも高校まで在籍していました。

――子どもの頃から舞台で経験を積んでいくと、途中で芸能活動をお休みされる方も多いですよね。spiさんが「ステージ上で生きていこう」と感じたのは、いつ頃のことなのでしょう。

【spi】高校の頃には、もうそのつもりだったと思います。神奈川の私立高校で非公式のブレイクダンス部として活動していたときから「俺は将来舞台に立つんだから」と、漠然と考えていました。舞台に立つならダンスは必須だよな、みたいな。

高校からダンスをしていたおかげで、大学のダンスサークルでも即戦力として声をかけてもらえて。今で言うラップバトルのようなもので、当時はダンスバトルや大学対抗のダンス選手権、コンテストがたくさんあったんです。それに端から出まくっていました。

――そこから、またミュージカルにシフトされるわけですよね。きっかけは何だったんでしょう?

【spi】実は大学時代、モデルにスカウトされて、ダンスと並行してそちらの活動もしていて。その事務所で大学3年のときに組んだダンスボーカルグループが、大きなきっかけになりました。

というのも、あるときダンス系の関係者から「ミュージカル『RENT』で、ドラァグ・クイーンのエンジェル役を探している」と聞いて。そこでオーディションを受け、2010年にアンサンブルとして出た『RENT』が、大人になってから初めて出演したミュージカルです。

当時は、まさにEXILEのブレイク前夜。ダンスの仕事で知り合った人がEXILEのメンバーになって、どんどん有名になっていくのを見ながら「いい就職先だな~」なんて思っていましたね(笑)。

 

日本発の舞台で世界を圧倒できたら

――日本の若手俳優は、漫画やゲームをもとにした2.5次元作品で名を馳せると、海外原作のミュージカル(いわゆる「翻訳もの」)や映画、ドラマに活動の軸を移していく例が多いもの。2.5次元は「登竜門」という雰囲気があります。しかしspiさんの場合、とっくにキャリアを確立しているのに、大作ミュージカルも2.5次元も、満遍なく出演されていますよね。その理由はどこにあるのでしょう?

【spi】僕は、母が日本人、父がアメリカ人なんです。でも20代の頃、ニューヨークでオーディションを受けたら「君はアジア人だ」と言われて。日本にいるとなかなかそう言い切れなかったのが「なんだ、アメリカの人から見ると、俺ははっきりとアジア人なんだ」と思ったんです。ならアジアで活動しよう、日本に住んで、日本でメイド・イン・ジャパンの舞台に出よう、と。

だって、日本で今上演されている主要なミュージカルって、だいたいが海外原作の翻訳ものじゃないですか。日本を世界地図で見たとき、もっぱら海外から日本に、矢印が内向きに入ってくるイメージ。でも、文化は本来外向きに、国外に出ていくほうがずっと良いはずなんです。

そうなると、日本の強みはやっぱり漫画やアニメ。それらを原作にした日本発の2.5次元舞台を海外に持っていく。それを、ニューヨークのブロードウェイでステージにかける。そして、海外の人に「日本の漫画原作モノも捨てたもんじゃないね」と思わせる。それができたら、もう日本の勝ちだと思うんですよ。

――なんとも心の躍るビジョンです。spiさんが現段階で「これなら海外に打って出られる」と感じている原作はありますか?

【spi】海外でウケるには、やっぱりまずビジュアルが派手なほうが良い。そう考えると、ド派手なスプラッタ系の『チェンソーマン』や、大がかりなアクションやプロジェクションマッピングが駆使される『進撃の巨人』あたりがその筆頭だと思います。あとは(スタジオ)ジブリ作品ですね。特に推したいのは『千と千尋の神隠し』。ゲーム原作では『ウマ娘』に期待しています。

それと、やっぱり『刀剣乱舞』ですね。すでに海外公演も行なっていますが、このシリーズは「日本刀」という日本文化の面でも注目してもらえるのが強みです。

――spiさんが考える「2.5次元ミュージカルの魅力」について教えてください。

【spi】まず1つ目に、元々の「原作」があること。舞台を通してそれまでと違った形で原作を愛でられる面白さがありますよね。原作に寄せたヘアメイクなんかもすごいハイレベルで、メイクに対するアーティスティックなインスピレーションを、ものすごく感じることができると思います。

2つ目は俳優の熱量です。若手俳優の登竜門的な役割がある2.5次元作品では、俳優も決して器用な人ばかりではありません。でも皆、ものすごい熱量で頑張っている。千秋楽の舞台で、ボロ泣きしながらステージに立つ俳優がいるほどで、どこか「甲子園」を彷彿とさせるものがあるんですよ。

アイドルと似ていて、応援しているうちに、本当にキラキラした奇跡的な瞬間に立ち会える、と言うか。それが2.5次元ミュージカルの魅力の一つですね。

――なるほどspiさんご自身は、2.5次元の舞台に立つときどんなことを考えているんでしょうか。

【spi】演者として立つ場合の醍醐味は、元のキャラクターをねじ伏せるぐらいの技量と存在感を見せることですね。もちろん原作は尊重しますが、原作とそっくりそのままじゃなくても、観客の方々に「それもアリだな」と思わせるような演技をしたい。キャラクターを超えていくことに面白さがあると思います。

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舞台人生を激変させた「運命的な出会い」

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