近年では特に、パワハラやセクハラなどの問題もあり、部下に対してどこまで指導していいのか悩む上司も増えています。
ですが、数多くの企業風土改革を支援してきた経営コンサルタントの加藤芳久さんは、「時には、部下に厳しい指摘をすることも必要。ただし、感情的に怒鳴ったり叱ったりするのではなく、"フィードバック"として伝えることが大切だ」と言います。部下を成長させる2つのフィードバックについて解説します。
※本稿は、加藤芳久著『売上を追わずに結果を出すリーダーが見つけた20の法則』(かんき出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
部下に厳しい指摘をすることも時には必要
最近、『ゆるい職場 若者の不安の知られざる理由』(古屋星斗著,中公新書ラクレ)という本が話題になりました。
それによると、「自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないか」と感じている新入社員が5割近くもいたそうです。職場を「ゆるい」と感じている新入社員は6割超もいました。
「もっとビシバシ鍛えて欲しい」「一度も叱られたことがない。今どきの子には厳しくしても意味ないから、と親戚の子供のように扱われている」と、物足りなさを感じている若者が多いそうです。
そうは言っても、厳しく叱ったらパワハラだと言われる恐れもあり、リーダーとしてはどのように接すればいいのか、難しい時代になりました。
部下に厳しい指摘をするのは、指導する側もつらいので、できれば避けたいところです。それでも覚悟して部下の成長のために厳しいことを伝えるのが「厳愛」です。
私は、心を鬼にしてフィードバックする際には、とてつもないエネルギーをかけています。話すタイミングやどのように伝えれば傷つけずに済むのか、いつも悩みながらフィードバックしています。
その不安や苦痛から逃れるためには、部下が何をしても「いいんだよ」と流すのが一番楽でしょう。しかし、それでは部下は成長できないままですし、不燃人にしてしまうかもしれません。
だから、厳しいことこそ伝えなくてはならないのだと考えています。
「叱る」のではなく「フィードバックをする」
ただし、内容的には厳しくても、感情的に怒鳴るのは厳禁です。それをしたら、せっかくよくなった関係の質はいっぺんに崩れます。
厳愛の匙加減がわからないなら、部下に「今伝えたこと、どうだった?」と直接聞いてみるのもアリかもしれません。部下が深く傷ついている様子なら、厳しさが強すぎたのだと判断できます。
誰でも部下には嫌われたくありません。そういう場合は、「嫌われ役は演じても、嫌われ者にはならない」のだと考えましょう。
「役」を演じているのであって、本当の自分自身ではない。厳しい指摘は伝える側も言われる側もメンタルを削られますが、いつか「自分のためを思って言ってくれているんだ」と相手が気づいてくれるかもしれません。
自分の心の負担を軽くするために、「叱る」と考えるのではなく、「フィードバックをする」と考えたら、楽になれると思います。
フィードバックには2つの種類があります。
①承認のフィードバック
私は基本的に、いついかなるときでも承認から入ります。「いいね」「よくできてるよ」「いつも頑張ってるね」「いいチャレンジだね」のように、相手の行動を受け止めていることを示すための承認のフィードバックです。
部下がトラブルを起こしたときでも、「全力で頑張ったからこそ、トラブルは起きるものなんだよ」という感じで、まず相手の行動や考えを承認します。相手に聞く耳をもってもらうためには、こちらから相手を承認しないと心を開いてもらえません。だから、「あなたを認めてますよ」という姿勢を示すのが大事なのです。
承認から入らず、「なんで、そんなことをしたの?」「それぐらいのこと、事前にわからなかった?」のように否定から入ったらどうでしょう。
部下は萎縮して、いずれトラブルやミスを隠すようになります。そうなったら企業がダメージを受けるのは言うまでもありません。
日ごろから何でも言いやすい雰囲気をつくるためにも、承認から入るのは基本です。できれば、大きなトラブルやミスが起きたときこそ、「報告してくれてありがとう」と承認するところから入るのがベストです。
もし、どうしてもほめるところが見つからないときは、とっておきのマジックワードがあります。
それは「筋がいいね」の一言。
何かちょっとでも光るものがあったら「筋がいいね」「センスがいいね」とどんどんほめましょう。何なら、職場に来ただけでやる気はあるので、「筋がいいね」と言ってもいいぐらいです。