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疲労が回復しづらくなる...「副交感神経の低下」を放置すべきでない理由

小林弘幸(順天堂大学医学部教授)

2023年12月28日 公開 2024年12月16日 更新

何をするにも面倒で、すぐに疲れてしまう...。そんな悩みを抱えている人はいませんか? 医師の小林弘幸さんは「副交感神経の働き」の影響を指摘します。男女とも加齢にともなって低下する「副交感神経」を高めるにはどうしたらいいのでしょうか。その方法を紹介します。

※本稿は、小林弘幸著『「ゆっくり動く」と人生が変わる』(PHP文庫)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

「副交感神経の働きを高める」ことの重要性

現代においては、「副交感神経の働きを高めること」こそが、もっとも根本的かつ、最高の健康法と言えると思います。とくに年齢を重ねれば重ねるほど、それが大切になります。

なぜなら、10代~20代の若い頃は、ほうっておいても副交感神経の働きが高いからです。

若い頃は新しい変化にすばやく順応できたけれども、年をとるほど新しいものに出合ったり環境を変化させたりするのが、どんどんおっくうになる──。これも、じつは副交感神経の働きが下がったことの影響です。

若い頃は、副交感神経の働きが高いですから、新しい出合いや変化がもたらすストレスによって一瞬、自律神経が乱れたとしても、すぐに副交感神経がリカバリーしてくれる。

けれども、男性は30歳、女性は40歳で、副交感神経の働きが下がりますので、ほうっておくと、自律神経が乱れたまま、なかなかリカバリーしてくれない。

そして、そのままの、副交感神経が下がったまま=交感神経が優位なままだと、血管が収縮し、血流が悪くなり、筋肉に血液が行かなくなるので、疲れやすくなる。脳の血流も悪くなるので、決断力や判断力も鈍くなる。それで、新しい変化に向かうのが面倒くさく感じたり、何かあると「疲れた」が口癖になったりしてしまうのです。

でも、安心してください。これからはもう「年のせいだから」とあきらめなくていいのです。

なぜなら、副交感神経は、たとえいくつになっても、鮮やかなリカバリーショットを打つことができるからです。そして、副交感神経の働きを高める=自律神経のバランスを整える、その鍵こそが、本稿のメインテーマである「ゆっくり」というわけなのです。

 

「ゆっくり動くと健康になる」医学的メカニズム

では、なぜ「ゆっくり」を意識することが、それほど自律神経のバランスにとって重要なことなのでしょうか。

それは、ずばり、さまざまな動作を「ゆっくり」行うようにすると、「呼吸」が自然とゆっくり深いものに変わるからです。

自律神経のバランスを整える上では、「呼吸」というものがきわめて重要なポイントとなってきます。なぜなら、自律神経のバランスと呼吸はまさにダイレクトにつながっているからです。

浅く速い呼吸は、交感神経の働きを高めます。すると、瞬間的なやる気やアグレッシブな気分は高まりますが、それが長く続くと、血管が収縮し、血流が悪くなり、結果、心も体もいいパフォーマンスができにくくなります。

逆に、ゆっくり深い呼吸は、副交感神経の働きを高めてくれます。すると、それまで収縮していた血管がゆるみ、質のいい血液が、体のすみずみまで流れるようになります。さらに、心も体もいきいきとよみがえり、継続的に自分のパフォーマンスもよくすることができます。

ですから、もしもストレスや加齢によって自律神経のバランスが乱れ、それによって心身に不調が出てしまっているとするならば、何よりも、「ゆっくり深い呼吸」が欠かせないということなのです。

健康増進のために「ゆっくり深い呼吸」が大事というのは、いまや目新しい話ではないかもしれません。実際、腹式呼吸や丹田呼吸など、「呼吸法」に関する情報が巷にはあふれています。

「ゆっくり深い呼吸が大切なのはわかった。でも、別に動作を『ゆっくり』にしなくても、呼吸自体を『ゆっくり』にすればそれでいいのでは?」と思われた方もいるでしょう。

しかし、腹式呼吸や丹田呼吸法を実践できている人というのは、非常に少ないのではないでしょうか。また、人間の体というのは微妙なもので、「呼吸をこうしなければいけない」と意識した瞬間に、それ自体がストレスとなって、かえって自律神経のバランスが乱れてしまうことが多いのです。

つまり、私たちに必要なのは、「とくに呼吸を意識しなくても、いつのまにか呼吸がゆっくり深くなっているような方法」です。

そして、そのために誰もがいつでもどこでも手軽に実践できる最高の方法が、「ゆっくり動く」なのです。

人間は、せかせかと動いている最中は、呼吸が浅くても意外と平気です。ところが、ゆっくり動き始めた瞬間に、何もやることがなくなるからか、自然とゆっくりと深い呼吸をし始めるのです。つまり、

さまざまな動作を「ゆっくり」行う
   ↓
「自然と」呼吸がゆっくり深くなる
   ↓
副交感神経の働きが高まり、自律神経のバランスが整う
   ↓
血流がよくなり、体のすみずみにまで質のいい血液が流れる
   ↓
健康になる

これこそがじつは、「ゆっくり動くと自律神経のバランスがよくなる」医学的なメカニズムなのです。

 

「ゆっくり動く」がもたらす効能

ゆっくり動くと、自然に呼吸がゆっくり深くなり、副交感神経の働きが高まり、自律神経のバランスが整います。そうすると、血流がよくなり、細胞のすみずみにまで質のいい血液が行きわたるようになります。

ですから、「ゆっくり動く」を実践するだけで、偏頭痛や肩こりが改善してしまうことも少なくないのです。なぜなら、偏頭痛や肩こりというのは、そのほとんどの原因が「血流の滞り」、言い方を変えれば、「今、血流がかなり滞っていますよ」という体からの訴え=シグナルだからです。

偏頭痛や肩こりでお悩みの方には、ぜひ、「ゆっくり動く」こと=副交感神経の働きを上げて血流をよくすることを、おすすめしたいのです。

ちなみに、「肩こりでマッサージに行ったら、そのマッサージ屋さんに着いた途端に、不思議と肩こりが軽くなっていた」というような話を聞きますが、それも、副交感神経と肩こりの因果関係を知っていれば、まったく不思議なことではありません。

マッサージ店に着いた途端に、ほっと安心する。その「ほっと」した気持ちが呼吸をゆっくり深いものにし、副交感神経の働きを高めた結果、血流がよくなり、肩こりが改善したということだからです。

また、意外かもしれませんが、便秘も、「ゆっくり動く」ことで改善できます。

腸は副交感神経とダイレクトにつながっています。そして、ストレスなどで副交感神経の働きが下がると、途端にその動きが悪くなってしまいます。ですから、ストレスを感じやすい人は、便秘や下痢になりやすいのです。

逆に、私が担当している「便秘外来」で「初診を受けた直後にもう便秘が治ってしまった」という方が多いのは、「便秘外来」を受けたというその安心感がストレスを軽減し、副交感神経の働きが上がり、それで腸の働きがよくなったという面もあるのです。

もちろん、ヨーグルトや納豆などの発酵食品をとったり、バナナなどのフルーツや野菜など食物繊維の多いものをとったりなど、食事のとり方を改善して腸内環境をよくすることも大切ですが、便秘の解消には副交感神経の働きを上げることも不可欠なのです。

そして、そのためには、やはり「ゆっくり動く」ことです。

「ゆっくり動く」ことで、自然に呼吸がゆっくりになる。そうすると、不規則な生活や睡眠不足、ストレスなどで低下していた副交感神経の働きが高まり、腸管の動きも健やかに活発になるのです。

 

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