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“ウナギ”の不思議…その生態は謎だらけだ!

塚本勝巳(海洋生命科学者/世界的ウナギ博士)

2012年07月25日 公開 2022年11月10日 更新

陸を這う謎

海と連絡のない山上の池が干上がったとき、自然に湧いてきたとしか思えないくらい大量のウナギが出てくることがある。

これは海からやってきた稚ウナギが湿った地上を這って移動し、池に棲みついたもので、ウナギが空気中でも驚くほど長時間活動できる能力のあることを示す例である。水の中から取り出すとすぐ死んでしまう、通常の魚の常識からは到底考えられない。

アリストテレスの「ウナギ自然発生説」の起源も、実はこのあたりにあるのではないかと思われる。

ウナギが空中でも長時間生きていられるのは、皮膚呼吸が発達しているためである。通常の魚は鰓でガス交換して酸素をとりこむが、ウナギの場合は鰓だけでなく体表からも酸素をとって利用する。

皮膚呼吸による酸素摂取量が全呼吸の6割以上にもなることがあるという。それを可能にしているのは、体表に分泌される多量の粘液だ。

一般に魚の鱗 〈うろこ〉 は、外部からの物理・化学・生物的刺激に対して体表を防護する役目をもつが、ウナギの場合、鱗は退化して小さな小判型の鱗が皮下に埋没している。

その代わりに、表皮に粘液細胞が発達して、多量の粘液を分泌して体を保護する。と同時に、この粘液を通じて空中の酸素が体内に取り込まれる。

さらにウナギは他の魚に比べて、低酸素環境に強いというメリットも持っている。ウナギの特徴ともなっているぬるぬるの粘液が、陸上における皮膚呼吸と体の保護の役目を果たし、陸上長距離移動を可能にしたのだ。

 ウナギはほとんど鉛直に切り立った壁もよじ登ることができる。利根川から遡上してきたウナギが、100メートル近く落差のある日光の華厳の滝を登って中禅寺湖へ入ったという例もある。

また、アフリカ大陸東部にできた高地にある滝をよじ登って、海岸から2000キロメートルも奥地に棲み着いたウナギも知られている。ウナギはクロコウナギになってはじめて川を遡上し始めるが、あまり大きく育ったウナギには強い力はないといわれている。

定着前に長距離移動をするのは、主に陸上移動能力や登坂力に優れる幼期のようだ。

 

【PROFILE】塚本勝巳 東京大学大気海洋研究所教授

1948年、岡山県生まれ。東京大学農学部水産学科卒業。東京大学大学院農学研究科修士課程修了。東京大学海洋研究所助手、助教授を経て、現在、東京大学大気海洋研究所教授。農学博士。専門は魚類の回遊生態。世界で初めて天然ウナギの卵を採集、二ホンウナギの産卵場を特定するなど、ウナギ研究で前人未到の成果をあげてきた文字通りの「世界的ウナギ博士」である。2006年日本水産学会賞受賞、2007年日本農学賞受賞、2011年太平洋学術会議畑井メダル受賞、2012年日本学士院エジンバラ公賞受賞。
著書に“Eel Biology”(共編著、Springer)『海と生命』(編著、東海大学出版会)『魚類生態学の基礎』(編著、恒星社厚生閣)『旅するウナギ』(共著、東海大学出版会)などがある。

 

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