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社会

“世界的ウナギ博士”からの提言「ニホンウナギを守ろう!」

塚本勝巳(海洋生命科学者/世界的ウナギ博士)

2012年07月26日 公開 2022年11月10日 更新

二ホンウナギが絶滅の危機にさらされている。海洋生命科学者の塚本勝巳氏は、二ホンウナギを守るべく、乱獲と河川環境の問題解決に取り組んでいる。

※本稿は、『ウナギ大回遊の謎』(PHPサイエンスワールド新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

どうすれば効果ある保全活動ができるのか

ここ3年間のニホンウナギ資源の激減ぶりをみていると、ただならぬものを感じる。それは大西洋の2種にも匹敵する減り方だ。

ヨーロッパウナギは2007年にワシントン条約の付属書IIに記載されて国際商取引が制限されるようになった。また2008年には「国際自然保護連合(IUCN)」の絶滅危惧種としてレッドデータブックに記載されるに至った。

このままいくといずれ、ニホンウナギも絶滅危惧種に指定されかねない。そうなる前にわれわれはできることから着手してウナギの保全に努めなくてはならない。

すなわち、海の彼方の海洋環境についてはひとまず研究レベルにとどめ、人が改善可能な乱獲と河川環境の問題に取り組みたい。

ウナギの乱獲は卵やレプトセファルスを除くすべての発育段階に及んでいる。ウナギは接岸直後のシラスウナギから、クロコウナギ、黄ウナギ、河川の下りウナギ、さらには沿岸を産卵回遊する銀ウナギまで漁獲される。

韓国でウナギの資源をめぐって紛争があった。黄ウナギや銀ウナギを獲っている河川組合は河口や沿岸でシラスウナギを獲るシラス採捕組合に「お前たちがシラスを獲るから、俺たちの川にウナギが遡上してこない」となじり、逆にシラス採捕組合は「下りの銀ウナギをもう少し獲らないでいてくれたら翌年シラスが増えるのに」と要求する。結着のつかない水掛け論だ。

ウナギの生活史はすべての発育段階がぐるっと円になってつながっているので、どこで個体数が減っても最終的には資源減少につながる。逆に資源を増やそうとするなら、生活史の全段階について保護の手当てを払わねばならない。

生活史の多くの段階で人びとに利用されつくしている魚であるために、様々な利害関係が生じて、ウナギの保護はひと筋縄ではいかない。人に近すぎる魚であるが故の、難しさである。

では、どうすれば効果ある保全活動ができるのか。

まずは、銀ウナギや下りウナギの捕獲制限であろう。産卵回遊の準備を始めた銀ウナギや実際に産卵のために降海中の下りウナギを1匹でも多く産卵場に返してやることで、次世代の資源のかさ上げにつながる。

人工種苗生産の技術がまだ実用化されておらず、今後もしばらくは、養鰻業の種苗を天然のシラスウナギに100%依存しなくてはならない現状を踏まえると、今の時点でシラス漁業は続けざるを得ない。

下りウナギを規制しておいてシラス漁業を続けるのは不公平で、先ほどの韓国のウナギ騒動と変わりはないが、日本人一般の蒲焼きに対する大きなニーズを考えるとシラスウナギを採って養鰻業の種苗とするのは致し方ない。その代わり、下りウナギで生計を立てている河川漁業者には適正な補償の行政処置や代替収入源の斡旋をしたい。

こうして下りウナギの保護が実現すると、カンフル剤のように比較的短期間で効果が期待できる。シラスウナギ1匹と下りウナギ1匹の資源回復に対する効果は全く違う。

脂ののった下りウナギを賞味するのを楽しみにしている人もいるが、人数はそれほど多くない。こういう人は天然のウナギを食べず、養殖もので我慢していただきたい。

ウナギでも根強い天然もの信仰があるが、今の養殖技術は最高レベルにあり、天然ものを凌ぐ高品質の養殖ウナギも各地で作られている。天然の場合は棲み場所や餌の種類、年齢、性別、季節などにより、味や品質に大きな差がある。

しかし、養殖ものの品質は高レベルで安定している。ウナギにおいて、天然信仰はおそらく迷信であろう。それに天然ウナギは食べると危険な場合もある。特に下りウナギの場合、長い年月、河川生態系のトップに君臨して成長した個体なので、水域に流れ込んだPCBやDDTなど様々な有害汚染物質を多量に蓄積している場合がある。

特に汚染物質が蓄積しやすい河口汽水域や沿岸干潟域に棲み着いたウナギはそのおそれが大きい。しかし、残念なことに、こうした場所にこそ多くのウナギが棲み着いているのだ。

穴釣りやウナギ筒を使ったウナギ捕りはおもしろい。しかし、これらが数年して銀化し、下りウナギとなってマリアナ沖で再生産に加わることを考えると、できることならウナギの遊漁も極力控えたい。

川遊びでウナギを捕まえる楽しみは子供や孫の代にまた復活させることにして、今はじっとウナギを見守ってやりたい。全国のウナギ捕りファンが10年我慢すれば、必ず効果はあるはずだ。

また、全国的にウナギを漁業権の対象魚種から外すことも一考に値する。河川漁業や遊漁の対象からウナギが外れることで、産卵場へ旅立つ下りウナギの数が大幅に増えるだろう。さらに、漁業権魚種からウナギを外すことで漁業権に付随する義務放流の必要がなくなる。

 

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