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職場の「信用できない人」にどう接する? 消耗しない人付き合いのコツ

佐々木正悟(タスクシュート協会理事)

2024年09月03日 公開 2024年12月16日 更新

相手に信用できない人だという印象を持つと、予防線をはって接してしまうものです。しかし、ごくささいな言動一つで、相手との関係は大きく変わります。人間関係を良好に保つためのシンプルな秘訣を、書籍『「ToDoリスト」は捨てていい。』から紹介します。

※本稿は、佐々木正悟著『「ToDoリスト」は捨てていい。』(大和出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

なぜ私たちは「他人を変えたい」のか?

「人を変えようとせずに、自分が変わることを考えましょう」というふうに、よく言われます。私自身も言われた経験があります。

たしかにもっともです。とはいえ、そう言っている人だって、まさにそのように告げることで、私のことを変えようとしているように聞こえなくもありませんが。

私たちはたしかに「他人を変えよう」としたがります。私にしても、なるべく他人には好意をもって欲しがるし、なるべく悪意をもたれないように工夫します。

ところが、このような努力をするまでもなく、じつはそもそも私たちは「他人を変えてしまう」のです。私たちは人と話をするだけで、相手に影響を与えないではいられません。

それはごくささいな言動から始まります。

たとえば、飲み物を持ってきてもらったときに、「すみません」と言うのと「ありがとう」と言うのとでは、相手のその後の振る舞いはたしかに変わります。どちらのほうがいいとか悪いとかいうのは、このさいおいておきます。

ただ、どちらかを選ばなければなりません。「なにも言わない」としても、相手はその沈黙を受けとめて変化してしまいます。つまり、「相手を変えようとしない」というよりも、「相手を変えてしまう自分をもう少し控える」のが消耗しない人間関係のコツです。

とくに「悪い方向に相手を変えてしまう」のをやめるだけで、たいていの関係はとても良好になります。

たとえば、仕事ではよく「予防線をはる」ことがあります。予防線をはるからには、警戒心が働くのでしょう。
これをなるべくやめるだけで、仕事の人間関係で疲れなくなります。

ここで、あなたから取引先のAさんに、予防線をはるメールを送ったと想像してみましょう。「おたくはこの予算でやれと言うし、やってみるけど、それでいい仕事はできないかもしれませんよ」とやんわりと伝えるわけです。

どれほど伝え方をマイルドにしても、ここには不信や不快感がありそうです。つまり低予算を提示してきたAさんのことが、信用できないわけです。相手の思うところに沿っていたら、ひどい目にあいそうだと感じてもいます。だから、悪いことが起きてもいいように「予防」しておきたいわけです。

 

その不信感は、あらゆる言動から相手に伝わる

私たちはこれを、たんに「内心にとどめている相手についての印象」とでも思っています。しかしそれでは済みません。このような考えは、必ずAさんをそのように「していく」ものです。相手のことを「信用のならない人だ」と考えていると、相手は必ず「こちらの信頼を裏切る振る舞い」をするようになります。

これは決して、オカルトではありません。「そんな低予算ではいい仕事はできませんよ」と伝えられたAさんは、必ずその「不信の念」を読み取ります。それを伝えるのが目的のメールですし、人間はバカではありません。Aさんは「この人は予算が低いのを理由に、質の低い仕事で済ませるつもりなのだろう」くらいに考えるでしょう。こうして不信感が相互に高くなっていきます。

「予算が低いのは本当に恐縮です。しかし、最低のラインは守ってもらう必要があります」といったメールをマイルドによこしてくるかもしれません。

こういうメールをもらったら、あなたはどう思うでしょうか? きっと「予算もちゃんとつけないくせに、自分を監視し、トコトン働かせて搾取しようとしている! もともとAはそういう人間だとわかってはいたが......」という暗い気持ちになるのではないでしょうか。このようにして、当初あなたが考えたとおりの「信用のならない振る舞い」をAさんは「してしまう」のです。

どうしたらいいのか、と思われるかもしれません。Aさんのように「信頼できない人間」といっしょに仕事をするのがいけないのかもしれません。

しかし、Aさんはいっしょに働く人の言動次第では、まったく別人のようになっている可能性があります。

「予算があまり確保できない」と告げられても、別の人は「それで大丈夫です! できる限りのことをさせていただきます。いつもありがとうございます」とだけメッセージを送っているとします。

それに対してAさんは「本当に申し訳ない。もう少しなんとかならないか、上司とかけ合います!」と言うかもしれません。どっちが「本当のAさん」なのだろう、と考えるのは、こういう場合にはほとんど意味がありません。人間とは、他人が想定しているとおりに振る舞う生き物だからです。

私は、もしこのようなケースが本当にあったとしたら、あなたはずいぶん損をしていると思います。きっとあなたは、低予算だとしても仕事の手を抜いたりせず、もちろん「最低のライン」など確実に確保するに違いありません。いっぽうでAさんを喜ばせた人にしても、あなたよりずっといい仕事を成し遂げられるというわけでもないかもしれません。

しかしこの場合には、あなたのほうがずっと消耗してしまうのはたしかです。もらえる金額は変わらず、実際に仕事にかける労力もあまり変わらず、ただ人間関係における消耗度だけは格段にひどくなるわけです。これは、予防線をはった結果だと私は思うのです。だから「人を警戒しておく」のをまったくおすすめできないのです。

 

著者紹介

佐々木正悟(ささき・しょうご)

タスクシュート協会理事/ビジネス書作家

1973年北海道生まれ。タスクシュート協会理事。ビジネス書作家。1997年獨協大学外国語学部を卒業。2004年Avila University心理学部卒業。2022年タスク管理・時間管理術であるタスクシュートの普及と、自分らしい時間的豊かさの提唱を目的として「一般社団法人タスクシュート協会」を設立。タスクシュートのユーザー数は、25000人を超える。ポッドキャスト「働く人に贈る精神分析チャット(グッドモーニングボイス)」を平日にSpotifyから配信中。

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