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社会人が読書をできなくなる原因? 中学校で刷り込まれた“理想的な本の読み方”

大賀康史(フライヤーCEO)

2024年09月24日 公開

発売1週間で累計10万部を突破した書籍『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆,集英社新書)のヒットは、現代人が抱える「もっと読書をしたいのに読めない」という悩みを浮き彫りにしました。忙しい日々の中で、読書とどのように向き合えば良いのでしょうか。

ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約サービス「flier(フライヤー)」CEOの大賀康史さんにお話を伺いました。

 

終身雇用の崩壊、新型コロナのパンデミックが、ビジネス書にも影響した

――昨今のビジネス書の傾向について教えてください。

従来のビジネス書は、戦略やファイナンスなど、経営層向けの専門的な内容が中心でした。しかし近年では、一般的なビジネスパーソンが抱える、仕事や人生に関する悩みに寄り添う書籍が大きく増加しています。当社のデータから見ても、『落ち込んだときに前向きになれる書籍』へのニーズが顕著であることがわかります。

さらに、ビジネス書と他のジャンルの書籍の境界も曖昧になっています。メンタルヘルスやフィットネス、子どもの受験まで...多岐にわたるテーマを取り扱うビジネス書が増えています。

――なぜ、そのように変化しているのでしょうか?

ビジネス書の内容が多様化した背景には、社会環境の変化が影響しているのではないでしょうか。

従来は、大企業に勤めれば安定したキャリアを築けると考えられていましたが、近年ではAIなど新しいテクノロジーの登場や、グローバル化などの影響により、終身雇用が崩壊し、リスキリングが求められる時代になりました。

さらに、ここ3~4年では新型コロナウイルスのパンデミックによってリモートワークが普及し、これまで何となく会社に行って、何となく過ごしていた時間を見つめなおすきっかけが生まれました。こうした社会環境の変化が書籍にも影響したのだと考えられます。

 

ネットで情報が手に入る時代に、ビジネス書を読む意義

――YouTubeやTikTokなど、ネットで手軽に情報を得られる時代です。現代で、ビジネス書を読むことの意義とはどこにあると考えられますか?

ビジネス書を読むことは、仕事へのモチベーションを高めることに繋がります。仕事で課題を発見し、ビジネス書から解決策を学び、実際に自分の仕事に活かすという行為はとても前向きなものです。このサイクルを繰り返すことは自身の成長にも繋がり、素晴らしい好循環が得られるでしょう。

もちろんYouTubeでもビジネスに関する情報は得られます。しかし、動画は相手のペースで、受動的に情報に触れることになります。動画を一本見終わっても、情報を整理する時間もなく次の動画が流れてきます。

一方、読書はじっくりと自分のペースで読み、考えを巡らせられるという点に大きな特徴があります。経営者であれば、書籍を読みながら「このアイディアを自分の事業に反映するとどうなるか...」と考え事をすることでしょう。これは主体的に時間を過ごしている証拠ではないでしょうか。

高速で読み飛ばすこともできるし、熟読して考え事をすることもできる。読書は受動的な情報収集の手段ではなく、知見に対してオーナーシップを持った触れ方が出来るのです。

 

読書は一字一句、すべて読む必要がある?

――普段は動画ばかり見ているけれど、「本当はもっと本を読みたい」と考えている方も多いはずです。しかし、読書は心理的ハードルが高いように思います。

おそらく多くの方が、中学や高校で学んだ現代文の授業を"読書の理想的なあり方"だと考えているのではないでしょうか。"本は前から順番に一行一行読んでいく"のが、正しい読書のありようであると刷り込まれていて、ちょっとでも読み飛ばしたりすると「自分はいけない読書をしてるんじゃないか...」と感じてしまうのです。

しかし、読書はもっと自由に楽しめばいいのだと思います。「著者が言っていることを、同じ型で、行間もすべてハイスピードで読み取らないといけない」というものでなくて良いのです。

一字一句味わって、一冊を読み終えるのに一か月以上かかるような読み方も尊いものだと思いますし、私がビジネス書を読む場合は、自分に関連する部分をより深く読みたいので、そこに多くの時間を割いて、そうでないところはパラパラっと見出しだけで通過していくという読み方をしています。

現代の本の読み方としては、もっと読者側に主導権を持って、本という素材を活かしながら自由に時間を過ごして良いのではないでしょうか。読書に対する気持ちのハードルをぐっと下げて、究極は積読でも良いと思います。気が向いたときに、やっと本を開けば良いのです。"読書はもっと自由で気軽なもの"だと考えるのが重要だと思います。

 

「毎日読書をする」ことで習慣化する

――「なかなか読書の時間を捻出できない」という悩みはどのように解決できるでしょうか?

私のおすすめは「毎日読むこと」です。今日は読もうか、読まないか、本を持っていくか、持っていかないか...そのように一回一回意思決定するのは難しいものでしょう。それよりも、毎日読むと決めて、出かける時は必ず本を1冊持っていく、と習慣にしてしまうのです。

私の場合は、毎朝30分~1時間、そして寝る前の1時間は必ず読書をすると決めています。習慣化のメソッドでは3週間続ければ習慣化されると言われていますので、まずは毎日続けることが重要です。

また、読書習慣を定着させるためには周囲との繋がりも大切です。読書が好きな人と交流し、お互いに読んだ本の感想をシェアすることでコミュニケーションも盛り上がりますし、読書のモチベーションを維持できます。

flierの機能の中にも「学びメモ」という、要約を読んだ感想をメモとして残せる機能があります。あえて1人用のメモではなく、他の人にも見えるように設計しているのは学びメモを読んだ人が要約を読んだり、本を買うということがよく起きるからです。定量的にも1.5倍ほど読む人が増えるというデータも出ています。

以上のことからも、周囲に本好きな人をたくさん探しておくことは大事なポイントだと考えられます。

――今後、読書のあり方はどのように変化するとお考えですか?

読書は単なる娯楽というだけでなく、心身に良い影響を与えることが科学的に証明されつつあります。例えば、ストレスの軽減や、マインドフルネスなど、読書がもたらす効果は多岐にわたります。人を形づくる知恵や、将来のキャリアに繋がる知識が得られるだけでなく、科学的な観点から見ても極めて優れたツールなのです。

今後さらに科学的効果が示されたら読書の価値は見直されるはずですし、よりプレミアムな体験を提供するものとして位置付けられていくのではないでしょうか。

 

著者紹介

フライヤー(flier)

ビジネス書の新刊や話題のベストセラー、名著の要約を1冊10分で読める形で提供しているサービスです。通勤時や休憩時間といったスキマ時間を有効活用し、効率良くビジネスのヒントやスキル、教養を身につけたいビジネスパーソンに利用されているほか、社員教育の一環として法人契約する企業も増えています。(https://www.flierinc.com/)

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