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上司に及ぶ「部下の業務のしわ寄せ」 苦しい職場を変える業務効率化のヒント

武田正行(社会保険労務士)

2024年12月23日 公開

働き方改革が進む中で、部下に残業をさせないために上司が残った仕事を引き継ぐなど、部下の業務のしわ寄せが上司にいってしまうケースが増えています。上司に過度な負担をかけずに業務をスムーズに進めていくには、どのようにするのがよいのでしょうか? 社会保険労務士の武田正行氏に解説いただきます。

 

現代の上司とは...

「上司はつらいよ」と嘆く声をよく耳にします。働き方改革や36協定の遵守が叫ばれる中、上司としての業務量は増え、さらなる負担がのしかかっているのも事実です。

このような状況の中、過重労働が問題視される昨今においても、適正な労働時間の範囲で部下が業務で成果を出せるようになるためにはどうしたらいいのかと奮闘する上司の姿もあるのです。上司は限られた時間で成果を出さなければならないというプレッシャーと戦っているのです。

このように理想と現実の狭間で悩む上司も多いのではないでしょうか。そして限られた時間とリソースの中で、どこまで業務を抱えるべきなのでしょうか?

上司として求められるスキルは、部下に過度な負担をかけず、かつ組織の目標を達成するためのバランスを取ることです。つまり、部下の業務のしわ寄せを防ぐためにも賢いマネジメント術を使って今を乗り切る時なのです。

今回、一度は耳にしたことがある労基法の基本である「36協定」とは何かを再確認し、効率的な業務運営のために取り入れたいアウトソーシングの活用法、そして上司として部下やチームを支えるために必要なサポート体制の構築方法を紹介します。働き方改革を「苦しい義務」ではなく、「職場全体の改善」に変えるヒントになればと思います。

 

36協定について改めてのおさらい

労働基準法第36条に基づく「時間外・休日労働に関する協定」、通称「36協定」は、企業と労働者の間で時間外労働や休日労働をさせた場合の免罰効果を生みだすための取り決めです。36協定を締結することによって、労働者に対して時間外労働や休日労働を業務命令することが可能になります。

ただし、その時間の範囲には限度があります。例えば、時間外労働の時間数は一般的な時間数は、月45時間、年間360時間が上限となります。しかし、特別条項という例外の例外を設けることで、上記の上限時間を超える時間外労働を業務命令することも可能となるわけです。

しかし、特別条項を適用させられる月の回数には上限があります。このように働き方改革関連法の影響もあり特別条項を適用させる場合について厳しく規制され、厳格な手続きが求められます。

特に注意すべきは、過剰な時間外労働が部下のモチベーションや健康に悪影響を及ぼすことです。長時間働くことが常態化してしまうと、業務の質が低下するだけでなく、疲労が蓄積し、最終的には生産性が落ちてしまいます。

従って、36協定の上限時間を守ることはもちろん、部下が業務過多にならないよう適切に業務を分担し、効率的に業務を進める方法を模索する必要があるわけです。

 

効率を良くするために、業務のアウトソーシングなどを上手く利用する

業務の効率化を図るためには、「リソース」を増やす方法も一つですが、それだけでは限界があります。そこで注目したいのが、アウトソーシングの活用です。アウトソーシングをうまく取り入れることで、上司の負担を減らし、部下に余計な負担をかけずに業務を進めることができます。アウトソーシングを活用するメリットとしては以下のような点が挙げられます。

 

①専門性の高い業務を外部のプロに任せる

自社にないスキルや専門知識を持つ外部のパートナーに任せることで、業務を迅速かつ質の高い形で進めることができます。例えば、ITシステムの運用や経理業務、マーケティングなどが外部委託されることが多いです。

②コスト削減と労力の分散

特定の業務を外部に委託することで、社員にかかる負担を減らし、社内リソースを他の重要業務に集中させ、そして業務の属人化も防ぐことができます。また、必要なときに必要なリソースだけを活用できるため、コストを効率的に管理することも可能です。

③柔軟性の向上

業務量が一時的に増加した場合でも、アウトソーシングを使えば迅速に対応することができ、柔軟に組織のリソースを調整することができます。

ただし、アウトソーシングを行う際には、外部の業者に対して過剰に依存してしまって業務がブラックボックス化しないように業務の進捗状況を把握し、必要に応じて調整や指導を行うことも必要となります。また、依頼先が明確で、信頼できるパートナーであるかどうかを見極めることも上司としての重要な役割となります。

 

上司へのサポートこそ働き方改革の重要点になる

「働き方改革」と言われる中で、部下へのサポート体制の強化が注目されていますが、実は上司へのサポートも同様に重要です。部下の働き方を変え、労働環境を改善していくためには、まず上司自身が効率よく業務を進め、チームの調整や支援ができる状態を作り出さなければなりません。そのために上司にも以下のような対応が重要になって来ます。

 

①上司が抱える負担の軽減

上司の負担が大きくなりすぎると、そのしわ寄せが部下に影響を与え、最終的に組織全体のパフォーマンスに悪影響を及ぼします。そのため、上司に対しても適切なサポートが必要です。例えば、マネジメントスキルとしてタイムマネジメントやリードマネジメントなどの研修を受けたり、業務を効率化するためのツールを導入したりすることで、上司がよりよい判断を下せるように支援することが重要です。

②メンタルヘルスのケア

多くの上司が、部下のケアと業務の板挟みに悩んでいます。そして、ストレスやプレッシャーを抱えることも少なくありません。このような状況の中では上司同士がお互いの悩みを共有し、情報交換を行える場の提供、上司が困った時に気軽に相談できる窓口の設置や定期的なメンタルヘルスケアの取り組みも重要な施策となります。上司自身が心も体も健康でいることが、結果的に部下やチーム全体を守ることに繋がります。

③働きやすい環境づくりのために

組織は常に人が入れ替わります。その度に新たなやり方を考えていたのでは業務負担は軽減されません。働きやすい環境を作るためには、上司として部下を支えつつ、上司が抱える業務負担を軽減するための戦略を練ることが必要です。無理なく成果を上げる仕組みを作ることで、組織全体の働き方改革が実現します。

 

賢いマネジメントのポイント

上司として部下よりも仕事が出来て当たり前、自分で何とかしなければと思われる上司も少なくないのではないでしょうか。それでは部下の業務のしわ寄せが起きれば対応が出来ないのは当然です。そうならないためにもまずは自分の業務を整理し自分が対応しなければいけないものとそうでないものに細分化し、アウトソーシング出来るものはする。アウトソーシング出来なくても、他の誰かに任せられる業務は出てくるものです。

そうして出来た時間を使ってタイムマネジメントを行います。日々の業務に追われて目の前の業務をこなすのに精いっぱいになっていませんか。

そうならないために、翌日に何をするのか、1週間、1か月、3ヶ月で何をするのかを事前に決めて出来事をコントロールします。「予め」やることを決めることで少しでも時間に追われることがなくなるように今こそ賢いマネジメントを実践していきましょう。

 

著者紹介

武田正行(たけだ・まさゆき)

社会保険労務士

1978年東京生まれ。2008年10月に大槻経営労務管理事務所入所。2001年3月に大学を卒業し、民間の会社に就職をするが、その年に退職する。その後2002年4月から自動車整備の専門学校に入学し、2級ガソリン自動車整備士、2級ジーゼル自動車ガソリン整備士資格を取得、2004年3月に卒業。
2004年4月から2008年9月までハーレーダビットソンのディーラーで整備士として勤務していた。2013年9月より、海外進出プロジェクトのメンバーとして、アジアを中心とした海外進出に必要な労務管理、社会保険についてのアドバイスを行っている。
現在は約20,000名の企業様の社会保険手続きや数万の企業の相談顧問を行っている。また、ハラスメント・コンプライアンス外部相談窓口のリーダーとして相談員の業務も行っている。

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