
よく話し方の講座などでは「結論から話しましょう」と言われますが、多くのハイパフォーマーを見てきた人材開発コンサルタントの佐藤美和さんは、必ずしもそれは正解ではないと言います。一流のビジネスパーソンが実践している"人を動かす"会話術について解説してもらいました。
※本稿は、佐藤美和『世界のハイパフォーマーを30年間見てきてわかった一流が大切にしている仕事の基本』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
話の順番はTPO次第
新人の頃は「とにかく結論から話しなさい」と教わります。
有名な話し方のフレームワークに、Point(結論)→ Reason(理由)→ Example(具体例)→ Point(結論)の順に話すというものがあります。これは、それぞれの頭文字を取って「PREP法」と呼ばれています。
「結論は××です。理由は3点あります。ひとつ目は〇〇〇、具体的には△△△。2つ目は〇〇〇、......以上××でした」と話すのがこの方法です。
PREP法は、大変にわかりやすく話すことができる構造ですが、万能というわけではありません。例えば次のような場合です。
「来月末まで採用の仕事を手伝ってくれる人を給与チームから誰か1名出してください(Point:結論)。
採用チームだけでは手が足りないのです(Reason:理由)。
昨年度の2倍の人数を目標に新卒採用を行っていて、今の採用チームが総出で選考業務をしたとしても時間が足りないという試算なんです(Example:具体例)。
だから、来月末まで採用の仕事を手伝ってくれる人を給与チームから誰か1名出してください(Point:結論)。」
給与チームのリーダーにPREP法でお願いをした人は、ぴしゃりと断られて、意気消沈して戻ってきました。このお願いをするのには、結論から話すことは適していなかったからです。
PREP法は「相手と自分が同じ土俵に立っている」ことを前提とした話し方です。
同じ土俵に立つとは、相手も自分もこれから話すトピックについて共通の認識があることです。会議で「次は〇〇についての報告です」という前置きがあってから発言する場合や、上司に「○○の件どうなった?」と聞かれてそれに答えるような場合がこれにあたります。
こういうときは、相手の頭の中に「〇〇は」という主語があるから、「××です」という述語にあたる結論から話しても、納得してもらえるのです。
ところが、それ以外の場合は、自分が今から話そうとしていることを相手も考えているとは限りません。
「結論のあとで、理由と具体例をちゃんと話してるじゃないか」と言いたいところですが、給与チームのリーダーのように、最初に結論を聞いたところで「はぁ? そんなの無理に決まっている」と思ってしまうと、そのあとの理由や具体例は頭に入ってこなくなります。
であれば、次のような伝え方をすれば相手に理解してもらえそうです。
「今日は、なんとか新卒採用を乗り切るべく、他のチームの協力を得られないかと思ってご相談のお時間をいただきました。
社長の年初のスピーチに今年は採用人数を倍増するという話があったのを覚えていますか? 今年の新卒採用人数は、昨年度の2倍です。業務量が2倍になったわけで、ご想像の通り、採用チームは手が足りません。今の採用チーム総出で選考業務をしたとしても時間が足りないという試算なんです。
だから、来月末まで給与チームの誰か1名に採用業務を手伝ってもらえないでしょうか? よろしくお願いします」
この話し方は、まず、「これからこんなことを話しますよ」と予告をして、相手に話の土俵を示します。それから、背景を丁寧に説明して土俵に上がってきてもらいます。
そして、同じ土俵に立ったところで、結論を述べています。相手は、こちらの話の背景や理由を順を追って理解できるし、話を聞いているうちに、お願いの内容(結論)を予測できるので、拒絶感も和らぎます。
一流は各フレームワークがどんなときに使うと有効か理解していて、時と場合、内容、相手に合わせて使い分けています。だから、いつでも成果を出せるのです。
難しいことはたとえ話にする
一流の説明を聞くと、よくこんなにわかりやすく話せるものだなといつも感心してしまいます。特に、経済、経営、法律、哲学、テクノロジーなど、「難しそう」と敬遠されがちな話題のとき、一流の説明力は本領を発揮します。
一流は人が物事を理解するメカニズムに合わせて、話を組み立てるからです。
人は、情報を受信すると自分の脳内にあるデータベースと照合します。脳内のデータベースとは、自分がこれまでに勉強したことや経験したことを蓄積してある事典のようなものだと思ってください。受信した情報を脳内データベースで見つけられれば「わかった!」、見つからなければ「わからない!」となります。
海外ニュースをネイティブの言語で聞くと、当然ながらまったく内容はわかりません。しかし、話の中に「柔道」のように海外で通用する日本語が出てきたら、その言葉だけは理解することができます。
これは、柔道という言葉は自分の脳内データベースにあるけれど、ニュースで話されている言語は脳内データベースにないからです。
だから、一流は相手が難しいと感じるだろうと思うことは、相手の脳内データベースにある言葉、知識、経験に置き換えた話で説明します。この方法を「アナロジー(類推)」と言います。
先日、私はパソコンを購入しました。そのとき、どのくらいのCPUが搭載されたものにするかで非常に悩みました。
CPUは「パソコンの頭脳」のようなもので、CPUの高いパソコンほど動きが速いということはなんとなくわかります。でも、「コア数」「スレッド数」「クロック速度」と言われると、お手上げです。
そんな中、VAIOの説明に目が留まりました。
VAIOは、「コア数」「スレッド数」「クロック速度」をレストランのシェフにたとえて説明していたのです。
「『コア数』は、キッチンにいる料理人の数です。ひとつのコアは1人のシェフに相当し、複数のコアがあるCPUは、複数のシェフがいる状態です。デュアルコアであれば2人、クアッドコアは4人のシェフがいることを意味します。シェフが多いほど料理(タスク)を同時に多く作る(処理する)ことができます。
『スレッド数』は、シェフが使うコンロの数のようなものです。シェフ(コア)が複数のコンロを使って同時に複数の料理を作るように、各コアは複数のスレッドを同時に処理することができます。
『クロック速度』は、シェフがどれだけ速く料理を作るかを示すものです。高いクロック速度は、シェフが素早く動いて料理(タスク)を早く完成させることを意味します。
さて、大変有能なシェフですが、大きな弱点があります。熱さに弱いのです。熱くなると、ばててしまうことで本来の力が出せず、料理を作る効率(クロック速度)が落ちてしまいます。
VAIO独自の技術ならその弱点を克服することができます。先ほどの例でたとえるなら、キッチンの熱換気(放熱)がしっかりされているため、シェフがばてることなく、スピードを維持でき、より高いパフォーマンスを出すことができるのです」
これなら、文系の私にもよくわかります。誰の脳内データベースにでもある言葉で説明してくれているからです。
専門家から見ると、この説明には気になるところはいっぱいあるかもしれません。しかし、専門知識のない人に、やっぱりCPUの高いパソコンを買うべきで、VAIOはその弱点も克服しているいい製品なんだということをわかってもらえれば、それで目的は達成です。
相手の脳内データベースに合わせて、専門的な話をこれほどまでにわかりやすく話せる一流の説明力には、いつも感心させられます。
言いにくいことほどはっきり言う
「うわー、気が重いな」
先輩のミスを指摘する、懇意にしている取引先にクレームを言う、他部門の怖い人の仕事にダメ出しをする......。仕事だとは思うものの、言いにくいことを相手に伝えるのはやっぱり嫌なものです。
定年延長や継続雇用制度で、これからは元上司に言いにくいことを言う立場になることだって十分に考えられます。そんなことは考えただけで腰が引けてしまいます。
言いにくいことは、相手を傷つけないような言葉や、遠回しな表現を使うと、少しは言いやすくなるものです。
例えば、自社に熱心に何度も通ってきて、とても好感が持てる営業担当者がいたとします。でも、残念なことに自社にはニーズがなかったら、どう断りますか?
「その商品は当社には必要ありません。購入することは決してありません。いくら熱く語ってもムダです。二度と来ないでください」とは、さすがに言えません。
「とても素晴らしい商品ですね。社内で検討してみます」と耳当たりのいいことを言って、その場を乗り切ってしまいがちです。
自分では、やんわりと断ったつもりでも、相手からしてみると「検討する」と言われたら、数日後には「ご検討状況いかがでしょうか?」と連絡するのは当然です。その都度「まだ検討中です」と言ってやり過ごしても、いつかははっきりと断らなければなりません。
こちらが断る前に、相手が察してくれたとしても「『素晴らしい商品』『検討する』と言ってたのは嘘なのか! その気がないなら早くそう言ってよ。これまでの時間を返してほしい!」というのが、偽らざる気持ちでしょう。
言いにくいことを遠回しに言うことを「オブラートに包む」と表現しますが、オブラートに包み過ぎると真意が見えなくなって、かえって人間関係を悪くします。
一流は、言いにくいことほどストレートに伝えます。それでいて、相手の気分を害したり、関係にひびが入ったりはしません。
本題に入る前に、「本当に残念なのですが」「申し上げにくいのですが」「ご期待に添えなくて心苦しいのですが」などの前置きをします。これをクッション言葉と言います。
クッション言葉は、陶器を箱に詰めるときに使う緩衝材と同じ役割をします。この前置きで、相手は「ネガティブな話なんだな」と心づもりができるので、このあとに続く厳しい話が与える衝撃を緩和することができます。
ただし、褒め言葉をクッション言葉にしてはいけません。
「御社の商品は本当に素晴らしい。あなたの熱意のこもったお話には大変心を動かされました。しかし、当社では購入を見送ることにしました」と言われたら、「素晴らしくて、心を動かされたのに、なぜ買ってくれないの?」と思いませんか?
断る側は相手に配慮したつもりでも、クッション言葉と本題の内容に矛盾があると、不誠実な感じがします。その結果、こちらへの信頼そのものが揺らいでしまいます。
クッション言葉を伝えたら、言いにくい結論をはっきり言ってしまいます。それから、相手のこれまでの努力に対する賛辞を送りましょう。
例えば、
「ご期待に添えなくて心苦しいのですが、当社では購入を見送ることにしました。残念ながら当社のニーズには合いませんでしたが、御社の商品は本当に素晴らしいと思います。それに、〇〇さまの熱意のこもったお話には大変心を動かされました。当社とは今回ご縁がありませんでしたが、これにめげずに引き続きがんばってください。個人として応援しています」
こう言われたら、断られた相手も気持ちよくこちらの決定を受け入れてくれるでしょう。
一流と一緒に仕事をしたい人が社内にも社外にも多いのは、こんなストレートだけれど思いやりいっぱいの断り方にも理由があります。
【佐藤美和(さとうみわ) 】
株式会社ビービーエル 代表取締役。人事戦略・組織開発・人材開発コンサルタント/企業研修講師 。
一橋大学大学院国際企業戦略研究科修士課程修了。2023年度 Asia Business Outlook誌が選ぶ「アジアの組織開発コンサルタント トップ10」(Top10 Organization Development Consultants in Asia)に日本から唯一選出。
アメリカン・エキスプレス・インターナショナル にて、アジア太平洋地域オペレーションセンター設立プロジェクトを担当。アーサーアンダーセン ヒューマン・キャピタル・サービス、IBMビジネスコンサルティングサービス(現 日本IBM)戦略コンサルティング部門にて、人事戦略策定、人事制度改革、組織開発、人材開発、チェンジマネジメント等のコンサルティングに従事。日本GEにて、人事本部 組織・人材開発責任者として、組織活性化、タレントマネジメント、グローバルタレント育成等に従事。
現在は、株式会社ビービーエルを起業し、日本を代表する企業や大手外資系企業を顧客に持つ組織・人事コンサルタントとして活動している。